CT(カウンターテナー)全盛とも思える時代になってきましたが、ソプラニストは稀有な存在です。ソプラニストというのは、CTがアルトの声域なのに対して、さらに高い音域を出せる男性のソプラノ相当の歌手のことです。定義があいまいなので、CTとソプラニストの境界が明確なわけではありません。CTはファルセット(訓練された裏声)で歌い、ソプラニストはナチュラル・ヴォイス(地声)で歌うとも言われますが、saraiが聴いていて、やはり、高音域はファルセットで歌っているとしか思えません。このへんも曖昧模糊としています。ともかく、男性でソプラノが歌う曲が歌えるというのが凄いことです。saraiが過去聴いたなかでもCTのフィリップ・ジャルスキーはソプラニストと思える声の持ち主でしたが、はっきりとソプラニストとして歌うのは今日のアルノ・ラウニックが初めてです。どういう声か、興味がつのるなか、リサイタルは始まりました。
まず、今日のプログラムは以下です。
ソプラニスト:アルノ・ラウニック
ピアノ:みどり・オルトナー
D.スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K.33 (ピアノ独奏)
グルック:歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」~われ、エウリディーチェを失いて
ヘンデル:歌劇「セルセ」~ ラルゴ“懐かしい木陰”
ヘンデル:歌劇「アルチーナ」より “ヒルカニアの石造りの住まいに“
D.スカルラッティ:ソナタ ニ短調 K.9 / ソナタ ニ短調 K.159 (ピアノ独奏)
カッチーニ:わが麗しのアマリリ
ジョルダーニ:愛しい私の恋人(カロ・ミオ・ベン)
デュランテ:愛に満ちた乙女よ
カッチーニ:アヴェ・マリア
ブロスキ:ハッセの歌劇「アルタセルセ」への挿入曲:私はあの船のように
《休憩》
シューベルト(リスト編):ウィーンの夜会 第6番 (ピアノ独奏)
J.シュトラウス:オペレッタ「こうもり」~ オルロフスキー公のクープレ“客をもてなす祖国の習慣”
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」~ ケルビーノのアリア“恋とはどんなものかしら”
シューベルト:至福、ます、アヴェ・マリア
モーツァルト:グルックの歌劇「メッカの巡礼」の「愚かな民が思う」による10の変奏曲 (ピアノ独奏)
モーツァルト:歌劇「皇帝ティトの慈悲」~ セストのアリア“私は行く”
《アンコール》
ヘンデル:歌劇「リナルド」~ “私を泣かせてください”
まず、ピアノのみどり・オルトナーの解説があり、彼女のピアノ独奏でドメニコ・スカルラッティのソナタ。後で演奏したソナタも含めて、3曲ともミケランジェリのCDでよく聴いた曲です。スカルラッティにしては響かせ過ぎの感がありますが、演奏者は心得た上での表現なのでしょう。
さて、ソプラニストのアルノ・ラウニックの歌唱はまず、グルックの歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」のオルフェオのアリアです。高く美しい声です。小さなホールなので、無理に大きな声を出さずに響きますから、繊細な表現で歌います。ジャルスキーほどの声の伸びとピュアーさはありませんが、見事な歌声です。続くヘンデルの有名なアリアも同様に美しく歌われます。間近でそっと歌われるソプラニストの歌声はとても楽しめます。
次のイタリア古典歌曲4曲はこの日、最高に楽しめました。特にカッチーニの2曲はあまりの美しい歌にうっとりして、聴き入ってしまいました。《アヴェ・マリア》は究極の美を感じました。リサイタル終了後もずっと耳に美しい歌声が残っていました。
前半の最後は伝説のカストラートのファリネッリのために書かれたアリア。ファリネッリのために書かれたアリアというとポルポラの歌劇が有名ですが、これはファリネッリの兄リッカルド・ブロスキがロンドンでのデビューのために書いたアリア。ポルポラが書いたアリアのような迫力のあるアリアをラウニックが見事に歌いこなしました。ジャルスキー同様に、アジリタはいまひとつでしょうか。まだ、CTでバルトリ並みにアジリタが歌える人はいませんから、それも仕方ないですかね。
休憩後は、ピアノ独奏の後、「こうもり」のオルロフスキーの歌が観客席の背後から聴こえてきます。お洒落な演出で、聴衆の間を歩き回りながらの熱唱。この人は繊細な高音が美しいです。続いて、ケルビーノのアリア。先日はザルツブルグでファジョーリの歌唱でケルビーノのアリアを聴いたばかりですが、それは別のアリア《自分で自分が分からない》でした。いずれにせよ、どちらも素晴らしいケルビーノ。やはり、そのうち、CTがケルビーノを歌う《フィガロの結婚》を聴けるかもしれませんね。
次はシューベルトのリート3曲。これは女声のソプラノの優しい歌声に軍配があがります。聴いていて、エリー・アメリンクの美声を思いだし、無性に聴きたくなります。アメリンクでずい分、聴いた曲です。これはCTには向かないかな。
最後はモーツァルトの歌劇「皇帝ティトの慈悲」のセストのアリアです。セストというとカサロヴァの持ち役ですが、CTでもなかなかいいですね。男性らしく、迫力に満ちていました。
アンコールは予想通り、ヘンデルの歌劇「リナルド」から“私を泣かせてください”です。横の配偶者を見ると、嬉しそうにしていました。美しいアリアですからね。
saraiのオペラ好きの心をくすぐってくれる楽しいリサイタルでした。あー、オペラが聴きたい。とりあえず、ヴィデオでも見ましょうか。
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