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エル・グレコはプラド美術館から:謎の画家ボッスも見逃せない

2014年5月27日火曜日@マドリッド、セゴヴィア/16回目

プラド美術館はエル・グレコ、ベラスケス、ゴヤ、ルーベンスの作品の質と量は凄まじいものです。そして、何と言っても、ハイライトはボッスの《快楽の園》を始めとした珠玉のコレクション。配偶者は感嘆の声、しきり。よいものを見させてもらいました。

ボッス(ボス)は謎に包まれた画家です。本名はヒエロニムス・ファン・アーケンでボッスというのは通称です。彼の暮らした町がネーデルランド(オランダ)のス・ヘルトーヘンボスだったことから、その町の名前の一部からとられたものです。「ボッスBosch」というのは、「森」という意味だそうです。少ない記録によると、画家の家系に生まれて、年上の裕福な女性と結婚したたため、お金には困らなかったので、自由な創作活動を行えたということです。分かっているのはここまでです。生まれた年も、作品の制作年もすべて不明です。亡くなったのは1516年のことです。

ボッスが描いたのは、終末観ただよう1500年頃の社会不安と道徳低下の世相を反映し、人々の信仰が薄れて、罪が蔓延した現実でした。彼の描く絵には、地獄の恐怖が生々しく表現されて、人々が犯す罪へ警鐘が打ち鳴らされています。そう書くと、いかにもおどろおどろしいだけの絵のように思われるかも知れませんが、彼が地獄のモンスターとして描いた空想上の生き物の造形的な面白さは、現代の日本のアニメも顔負けです。ユーモラスさには思わず、笑ってしまいます。

現在、ボッスの真筆とされる作品は世界で40点ほどと言われています。フェルメール並みの少なさですね。ヨーロッパの大きな美術館でも、滅多にボッスの作品は見かけませんし、あったとしても1~2点ほどです。ボッスの作品中、最大の大きさ(縦2.2m、横4m弱)のトリプティカ(3連祭壇画)の《快楽の園》はブリュッセルのナッサウ伯の邸宅の祭壇画として描かれました。16世紀後期、ネーデルランドはスペインの支配下になり、この祭壇画はスペイン国王のフェリペ2世に献上されました。当時のスペインは厳格なカトリックの支配する国家だったので、こういう淫らなモチーフ満載の絵が受け入られるわけはないのですが、どういうわけか、フェリペ2世はこの絵をいたく気に入り、《人間の罪悪と愚蒙を描いた偉大なる風刺画》と絶賛します。フェリペ2世というと、エル・グレコがエル・エスコリアル修道院のために描いた傑作《聖マウリシオの殉教》を気に入らず、倉庫に投げ込んだ当人です。そのフェリペ2世がボッスには夢中になったしまいました。ボッスが死んだ後も作品を収集するようになります。10点以上の作品をエル・エスコリアル修道院に集めて、たいそう愛したそうです。そのボッスの世界最大のコレクションが現在はプラド美術館で展示され、世界中のボッスのファンが連日、詰め掛けています。実際、saraiが《快楽の園》の前に立ったとき、大勢の人たちが集まっており、その間から、苦労して、作品を鑑賞したほどです。プラド美術館で一番人気でした。

これがその《快楽の園》です。


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ともかく、大きな画面に幻想的なシーンがびっしりと緻密に描かれています。数えられませんが、200人以上の全裸の男女が野原や池や林の中で悦楽をむさぼっています。それが中央パネルの絵。左翼の絵には、アダムとイブが楽園の中にいます。右翼の絵には、恐ろしい地獄の責苦です。

中央パネルの絵の悦楽のイメージは、7つの大罪のうち、「淫欲」を表したものだと言われます。


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この絵は1500年の節目の年に終末論が論じられて、死後の幸福よりも現世の快楽に走った世相を戒める意味で描かれたと言われています。そこには当時60歳頃だったボッス独自の世界観も著されいます。それは、この世は愚かな大衆の集まりであるという考えで、その世界観をこの作品で大胆に展開したわけです。それって、現代にも大いに通じるところがありますね。こういうところが現代人の心を捉えて、人気が高まっているようです。そういうことは別にしても、ともかく、この絵はどこの部分を見ても面白いんです。あっちを見てはくすっ、こっちを見てはくすっ・・・笑ってしまいながら、いつまでも見飽きることがありません。数十ものシーンがありますから、1時間以上見ても見尽せないでしょう。

いくつかのシーンを見てみましょう。これは中央パネル左上にある奇怪な建物。ボッスの創造力には驚きます。


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これは中央パネルの上部の悦楽の泉。女性だけが水浴しており、その人数は全部で24人。1日の時間を表します。時間を表現したのは、女性の美しさの移ろいやすさを示したものです。


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これは中央パネルの下部左のシーン。ムール貝を運ぶ男の姿は十字架を担うキリストの姿を連想します。しかし、ムール貝の中では2人の男女が絡まり合って、事に及んでいます。こんなのを描いちゃって、いいんでしょうか。


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右翼のパネルの右下では、修道女が男を口説いています。しかし、修道女はどうやら豚のようです。修道女は淫欲と大食の2つの罪を犯しているんでしょう。横からちょっかいをだしているけったいな昆虫怪物は何でしょう。気持ち悪いですね。


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こんな具合に見ているとキリがありませんが、しばらく、配偶者とあれは何だろうとか言いながら、見続けていました。鑑賞客が減ることはありませんでした。

ところで、この3連祭壇画は左右のパネルを閉じることができます。閉じると裏に描かれた絵が現れます。それがこれです。天地創造のシーンを描いたものです。世界が創造されて3日目、天と地が分かれたところです。


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いやはや、これは大変な絵です。これだけを見るためでもプラド美術館を訪れる価値があるでしょう。

次の絵を見ましょう。これは《7つの大罪》です。中央の円が7つに区切られており、大罪がそれぞれ描かれています。4隅の円は「死の床での終油」、「最後の審判」、「天国」、「地獄」が描かれています。画面の中心にはキリストがいます。下に書かれているのは「心せよ、心せよ、神は見給うなり」で、この絵は神の巨大な目が描かれていることが分かります。罪を犯しそうな人への警鐘の絵画です。フェリペ2世はこの絵を自分の寝室に飾っていたそうです。我が国の政治家たちも寝室にこの絵の複製画でも飾っておいたら、いかがでしょう。


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これは《干し草車》です。これも3連画ですが、これは中央部分のパネルです。左右には、楽園と地獄のパネルがありました。中央にある大きな干し草は富を象徴しており、まわりには貪欲に駆られた人々が7つの大罪を犯している様が描かれています。そういう人々に最後の審判を下すべく、上空から、キリストが見守っています。この絵もまた、人々の罪への警告です。


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ボッスの作品のテーマは一貫していることが分かります。その作品を支える見事な色彩と緻密な構成がボッスの芸術です。世界中の人がその素晴らしさを賞賛して、プラド美術館に通ってきます。









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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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たかぼんさん、初めまして。saraiです。

嬉しいコメント、ありがとうございます。ブッシュ四重奏団は素晴らしいですよ。とりわけ、第14番は最高です。
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とても素晴らしいお話をお聞かせ頂き感謝いたします。
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えりちゃさん、コメントありがとうございます。
最終公演に行きますが、ムーティ&ウィーン・フィルは渾身の力で凄い演奏を聴かせてくれますよ。特にシューベルトは有終の

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尻上がりに素晴らしくなりました!
あの弦の響きにもうハマるのですよ!
あと2公演ありますが、もう既に同じプログラムを2回演奏しているので、ますます良くなるか、ち

11/09 10:56 えりちゃ

えりちゃさん、お久しぶりです。saraiです。

なかなか、海外渡航の見通し、立ちませんね。来年あたりはどうでしょうね。長期戦覚悟で我慢するしかありませんね。

こちら

04/10 02:37 sarai
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