で、ホグウッドが指揮する筈だったプログラムをそのまま引き継いだのが、ポール・マクリーシュです。ポール・マクリーシュはルネサンス&バロック音楽のスペシャリストとして、注目の指揮者で、彼も初聴きです。
ということで、今日のプログラムはホグウッドが自身で指揮するつもりで考えたものなんでしょうが、何故、こういうプログラムになるのか、少しも分かりません。バロックはおろか、モーツァルトなどの古典派もプログラムに組み込まれていないだけでなく、コープランドというアメリカ音楽まで入っています。それにR・シュトラウスにメンデルスゾーンというのは、ホグウッドの得意分野に思えません。
ところがです。実際にコンサートを聴いて、納得がいきました。
今日のコンサートはとてもよいコンサートでした。一番、光ったのは、メインの曲目だったメンデルスゾーンの交響曲第5番《宗教改革》です。これはホグウッドが校訂した楽譜で演奏されました。そういえば、ホグウッドは音楽学者でした。彼はメンデルスゾーンまで研究対象にしていたんですね。彼の遺産となる楽譜での演奏だったわけです。
最初のコープランドの《アパラチアの春》はフルオーケストラ版ではなく、原典版の小編成のメンバーでの演奏。室内楽的な静謐さが目立ちました。アメリカでの活動も多かったホグウッドが満を持して、プログラムに組み込んだのでしょう。これまでと全然、イメージの違う曲に聴こえました。凝ったプログラムだったのですね。
R. シュトラウスは生誕150年を記念して、プログラムに組み込んだのでしょうが、滅多に聴けない曲を選んできました。これまた小編成の管楽アンサンブルの曲で、しかもR.シュトラウスが17歳で作曲したという、ごく初期の作品です。
3曲とも演奏機会の少ない曲ばかりでした。しかし、いずれも味わい深い曲ばかり。コンサートを聴き終わり、充実感を感じた、素晴らしいプログラムでした。
今日のプログラムは以下です。
指揮:ポール・マクリーシュ
管弦楽:東京都交響楽団
コープランド:アパラチアの春-13楽器のためのバレエ(原典版)
《休憩》
R. シュトラウス:13管楽器のためのセレナード 変ホ長調 Op.7
メンデルスゾーン:交響曲 第5番 ニ短調 op.107《宗教改革》
(ホグウッド校訂版第2稿)
まず、前半はコープランドの《アパラチアの春》。通常のフルオーケストラ版の組曲とは、メロディーこそ同じですが、雰囲気ががらっと変わり、それに省略がないので、長大な曲です。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがそれぞれ2人ずつ、それにコントラバス、フルート、クラリネット、ファゴット、ピアノの計13人の奏者で演奏されます。室内オーケストラというよりも、室内楽に近い演奏です。気持ちのこもった演奏です。第7曲の有名な旋律、アパラチアのシェーカー教徒の讃美歌《シンプル・ギフトSimple Gifts》のあたりで高揚した演奏になり、終盤は実に静謐な演奏になります。都響の弦のトップ奏者たちが勢ぞろいした感のある弦楽アンサンブルの演奏は見事だけでなく、心にしみいるような素晴らしさ。フルートとクラリネットも美しい音色。最後は胸がジーンとなりました。
休憩後は、R. シュトラウスの《13管楽器のためのセレナード》です。今年は生誕150年の節目の年で、ずい分、コンサートやオペラを聴きました。今年はまだ、何曲かを聴く予定です。CDもずい分、聴きました。もっとも、来年も聴き続けることになるでしょう。最も好きな作曲家の一人ですからね。そういうR. シュトラウスですが、これは聴いたことがありませんでした。急遽、以下の録音をネットでダウンロード購入し、予習しました。CDは少ないようです。
ザビーネ・マイヤー管楽アンサンブル
これはとてもよい演奏でした。
で、今日の演奏は出だしはよかったのですが、今一つの演奏でした。個々の管楽器の響き、アンサンブル、満足できませんでした。残念です。まあ、珍しい曲を聴けて、よかったと思いましょう。
最後はメンデルスゾーンの交響曲第5番《宗教改革》です。子供のときに聴いて、訳の分からない曲だと思って、以後、聴いていませんでした。実に久しぶりに予習のために聴いてみました。ところが、これがなかなか素晴らしい曲。子供時代には理解できなかったようです。予習したのは次に3枚。
トスカニーニ&NBC交響楽団、1953年12月録音で《イタリア》とカップリングした超名盤
アバド&ロンドン交響楽団、1984年2月録音
ハイティンク&ロンドン・フィル、1978年11月録音
トスカニーニはともかく、《イタリア》と同様にカンタービレとシャープさが最高の名演。アバドは爽やかでロマンティックな、彼らしい演奏で文句なし。ハイティンクは、第3楽章の静謐さ、第4楽章の盛り上がりが素晴らしく、感動して聴き入ってしまいました。ロンドン・フィルとの相性もよかったようです。最高の演奏です。
ということで、予習後はこの曲目に期待大になりました。そして、期待通りの素晴らしい演奏でした。やはり、都響の弦楽セクションが素晴らしく、メンデルスゾーンとは相性ばっちりです。第3楽章はとても美しく、うっとりと聴き入りました。少し、メロー過ぎたかもしれませんが、この曲はそれでもOK。そして、圧巻は第4楽章。都響には珍しく、対向配置でしたが、終盤の対位法的な部分で第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが綺麗に分離して聴こえ、素晴らしい響き。そのままの勢いでフィナーレに突入。聴き応え十分で大満足でした。頭の中で主題のメロディーが渦巻いたままの帰宅になりました。
R.シュトラウスは節目の年でよく聴いていますが、何故か、メンデルスゾーンもこのところ、聴く機会が多く、それもヴァイオリン協奏曲とか《イタリア》、《スコットランド》のような有名曲ではなく、ニッチな曲ばかり。メンデルスゾーンって、ブームになってるんでしょうか。お蔭でsaraiもメンデルスゾーンを再評価する気持ちになっています。
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