第1ヴァイオリンのエリック・シューマンはソロ奏者としても名高いので、レベルの高い演奏を聴かせてくれると期待しながら、演奏を聴き始めましたが、最初のモーツァルトは意外に平凡でおとなしい演奏です。モーツァルトは自然な演奏スタイルでも構いませんが、それでも、やはり、うっとりと聴かせてほしいものです。そして、次のショスタコーヴィチ。これは第1番ということで、ショスタコーヴィチの最初に作った弦楽四重奏曲ですが、とても完成度の高い素晴らしい曲です。しかし、この曲の演奏は個性に乏しく、あまりに穏健過ぎる演奏で、物足りない感じ。楽しみにしていたので、残念な演奏でした。
休憩後の後半はシューマンの作品です。シューマンの室内楽のなかでは、あまり聴かない曲で、予習しても、明快なイメージがわきにくい曲です。予習したのは次の2枚。
メロス四重奏団
ツェートマイアー・カルテット
ということで、これもあまり、よい演奏は期待できないだろうと思いながら、演奏に耳を傾けます。第1楽章の冒頭は実にロマンティックなフレーズが続きますが、演奏はそれなりの感じ。しかし、曲が進むにつれて、おっという感じで演奏に引き込まれていきます。インティメットな表現で、シューマンらしい温もりを感じます。まるで、シューマンの自宅に招かれて、ロベルトとクララ夫妻とともに音楽を楽しんでいるように感じます。シューマン兄弟自体も音楽一家に育ったので、きっと、子供の頃から、シューマンの室内楽に親しんできたのではないでしょうか。そういう手触りがする音楽です。シューマン兄弟はケルンに育ったので、ロベルト&クララ・シューマンが最後に暮らしたボンやその前に暮らしたデュッセルドルフも近いので、ロベルト・シューマンは地元の音楽家という感じでしょう。それに同じシューマンの名前でもあるので、親近感も抱いていたに相違ありません。実際のところはよく分かりませんが、そういう想像をしてしまうほど、確信に満ちた演奏だし、愛情に満ちた表現です。シューマン・カルテットの演奏スタイルが現代に珍しく、穏やかで温もりに満ちていることがシューマンの音楽にぴったりと合っているのかもしれません。素晴らしい演奏というよりも、聴いていて、心が豊かになり、幸せな気持ちになるような不思議な演奏でした。演奏者の優しい気持ちに包まれて、穏やかな音楽の喜びを感じることができました。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:シューマン・カルテット
第1ヴァイオリン:エリック・シューマン
第2ヴァイオリン:ケン・シューマン
ヴィオラ:リザ・ランダル
チェロ:マーク・シューマン
モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番ニ長調 K.575
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第1番ハ長調 Op.49
《休憩》
シューマン:弦楽四重奏曲第1番イ短調 Op.41-1
《アンコール》
ハイドン:弦楽四重奏曲第79番 ニ長調 Hob.III:79 Op.76-5『ラルゴ』 より 第2楽章『ラルゴ』
アンコールのハイドンも美しい演奏で、しかも優しさにあふれていました。室内楽のインティメットな愉悦を思い出させてくれた素晴らしいコンサートでした。
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