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魅惑のショパン、イエルク・デームス 86歳バースデーコンサート@上大岡ひまわりの郷 2014.12.2

遂にというか、ようやく、ウィーンのピアニスト、イエルク・デームスの生演奏に接することになりました。何となく、彼はレコード(CD)で聴く過去の巨匠のような気がしますから、生で聴けるというのは不思議な感じです。今日はデームスの86歳の誕生日だそうです。86歳・・・高齢ですね。saraiの持論、指揮者とピアニストは80歳を過ぎてからが本来の素晴らしい演奏が聴ける・・・それにぴったりした年齢です。これまで、CDでしか聴いてこなかった巨匠の演奏はどんなものになるでしょう。イエルク・デームスと言えば、かって、彼らが若い頃には、ウィーン3羽烏と呼ばれていました。フリードリヒ・グルダは生で聴かないうちに亡くなりました。享年69歳でしたから、グルダは早死にでした。あと10年長生きして、80歳になれば、聴けたでしょうに、残念です。パウル・バドゥラ=スコダは一昨年、85歳での来日コンサートを聴きました。そして、今日のデームスです。
デームスと言えば、今年のウィーンの旅で近郊の街ミュルツシュラークにあるブラームス博物館まで、彼の弾いたブラームス・アルバムを購入するために行きました。当ブログでも現在、連載中の《スペイン・ザルツブルグ・ウィーンの旅》の後半でその経緯を書くので、お楽しみに。そのときに求めた2枚組のCDは目の前にずっと置いてあります。ドイツ語のリーフレットを読もうと悪戦苦闘しているからです。


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リーフレットの表紙に写っているピアノはかって、ブラームスが愛用してBachmannのピアノ。現在、ブラームス博物館に展示してありますが、デームスはこのピアノでブラームスを弾いて、それをCDアルバムにしています。このピアノの音はやはり、それなりに年代ものの響きです。ただし、それだけでは鑑賞用として寂しいので、他の1枚には現代のスタインウェイでブラームスを弾いています。やはり、こちらが聴き易いですね。ブラームスの晩年のピアノ曲の名作(Op.116~119)を網羅したアルバムになっています。

今日の演奏ですが、ブログのタイトルを見て、おやっと思われませんでしたか。デームスと言えば、ウィーンのピアニスト。当然、モーツァルト、べートーヴェン、ブラームスと言った作曲家の作品が得意の筈。ショパンって、弾いていたっけ?・・・という感じですよね。ところが、そのショパンが素晴らしかったんです。まるでフランス人のショパン弾きみたいにね。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:イエルク・デームス

  J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903
  モーツァルト:幻想曲ハ短調 K.396
         幻想曲ニ短調 K.397
  ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番 Op.27-2「月光」

   《休憩》

  J.デームス:ソナチネ Op.26
  ショパン:前奏曲嬰ハ短調 Op.45
       舟歌 Op.60
       子守歌 Op.57
       ノクターン第18番 Op.62-2
       バラード第3番 Op.47

   《アンコール》
     ドビュッシー:『前奏曲集第1巻』より、《ヴェール(帆)Voiles》・・・多分?
     ドビュッシー:『ベルガマスク組曲』より、《月の光 Clair de Lune 》
     ショパン: 夜想曲第5番嬰ヘ長調 Op.15-2

満員の会場がシーンと静まり返る中、ご高齢のイエルク・デームスがおぼつかない足取りでステージに登場。
しかし、手がピアノの鍵盤に置かれると、その年齢からは想像もできない美しいタッチの響きが聴こえてきます。

1曲目のJ.S.バッハの《半音階的幻想曲とフーガ》。前半部分の幻想曲はしっかりした響きで自在なテンポながら、落ち着いた演奏。次第にバッハの深遠に迫っていきます。後半のフーガも落ち着いたテンポで深みのある演奏ですが、決して枯れた、渋い演奏ではなく、ためのきいた、しっかりした演奏。なかなかよかったと思います。

2曲目、3曲目のモーツァルトの幻想曲は続けて演奏されます。ハ短調の幻想曲と言えば、K.475が有名ですが、K.396も名曲です。バッハの幻想曲と続けて演奏されると、なんとなく、モーツァルトの幻想曲もスタイルが似ていることに気が付きます。ただし、モーツァルトはより自由な形式です。明快なボリュームのある響きで闊達な演奏です。この傾向はニ短調の幻想曲に引き継がれます。そもそも、このニ短調の幻想曲はsaraiがモーツァルトのピアノ曲の中で一番好きな曲なので、とても気持ちよく聴けます。しっかりした名演奏でした。

4曲目のベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」は古今東西、ピアノ曲の中でも横綱クラスの有名曲。過去の巨匠が名演を録音してきた曲で、生半可な演奏では、白けてしまいます。デームスはたんたんときっちりと演奏し、奇をてらうことはありません。ここでもためをきかせた演奏で、なかなか聴かせてくれました。最高の演奏とは言えなくても、及第点の美しい演奏でした。

休憩後は、デームス自身の作曲した作品。6曲の連作になっていて、シューマンの連作のような音楽に印象派のテイストを加えたような綺麗な曲で、さすがに手に馴染んだ演奏。前半の演奏に比べると、タッチの美しさが目立ちます。珍しい曲を聴かせてもらいました。

最後はショパンの前奏曲嬰ハ短調、舟歌、子守歌、ノクターン第18番、バラード第3番が続けて演奏されます。いずれも静かで抒情的な作品ばかりです。最初の前奏曲の冒頭のフレーズから、美しい響きとタッチ、それにショパンらしいテンポの揺れが心地よく感じます。これは真正のショパンです。何故、ウィーン伝統のピアニストであるデームスがこんな素晴らしいショパンが弾けるのか、頭を捻ってしまいます。この《ひまわりの郷》ホールがこんなに美しいピアノの響きで満たされたことはなかったのではないでしょうか。思わず、その違和感に戸惑いを感じます。saraiの地元のホールで今、巨匠が素晴らしい演奏をしていることが心底、信じられません。デームスはここで聴けるような普通の音楽家ではなくて、ウィーンとか、それなりの場所でしか聴けない類の巨匠ピアニストであることが実感できるようなショパンでした。
比較するのも何ですが、晩年のクラウディオ・アラウの美音にも匹敵するイエルク・デームスの美音でした。デームス晩年の演奏は是非、録音にも残すべきだと強く感じました。ショパン、そして、シューマンとブラームスの再録音が期待されます。

アンコールはまず、ドビュッシー2曲。これはショパンに輪をかけて、素晴らしい演奏です。これほどの美しい響きを実演で聴けるとは思いもしませんでした。ドビュッシーも録音を残してほしいですね。
そして、最後はショパンのノクターン。最高の演奏にしびれました。

素晴らしいバースデーコンサートに立ち会えて、とても幸せでした。是非、来年も来日してくださいね。






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Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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