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トレドはエル・グレコの街:サンタ・クルス美術館のエル・グレコ没後400年の特別展「トレドのギリシャ人」-その3

2014年5月29日木曜日@マドリッド~トレド/11回目

サンタ・クルス美術館のエル・グレコ没後400年の特別展「トレドのギリシャ人」を鑑賞しています。
エル・グレコもスペイン、トレドに移って25年ほど経ち、自己の様式を確立し、傑作の数々を生み出し始めました。エル・グレコは既に60歳近くになり、円熟した芸術の高みに駆け上がっていきます。1600年から、亡くなる1614年までの傑作を年代順に見ていきましょう。今から400年前に制作された偉大な作品群です。

これは《枢機卿フェルディナンド・ニーニョ・デ・ゲバラの肖像》です。1600年頃の作でアメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵です。エル・グレコ59歳頃の作品です。肖像画家としてのエル・グレコも円熟の境地にはいっていきます。右手と左手の描き分けだけでも枢機卿の内面の緊張とリラックスの具合が見事に表現されています。もちろん、顔の表情も微妙な味付けがなされており、眼鏡の奥からの視線から、心の奥底の透徹した心情が窺われます。

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これは《トレド風景》です。1600年頃の作でアメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵です。エル・グレコ59歳頃の作品です。エル・グレコの唯一の風景画です。フェルメールの《デルフトの風景》を思い起こさせます。自分の心のふるさとを気持ちを込めて、描いたものです。それにしても、トレドのカテドラルを中心に置いて、暗い色調で描いた風景画は実にモダンな作品ですね。まるで後年に登場するゴッホの《オーヴェールの教会》を連想してしまいます。写実性を排除して、心象風景を描いていますが、このおどろおどろしい風景はエル・グレコのいかなる心情だったんでしょう。決して、穏やかで平明な心ではありませんね。

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これは《受胎告知》です。1600年頃の作でマドリードのティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵です。エル・グレコ59歳頃の作品です。これより以前から描いている題材ですが、この作品では何という変貌ぶりでしょう。同じ人が描いたものとは思えません。エル・グレコが完全に究極のスタイルを確立した記念すべき作品です。この作品はプラド美術館にある3倍のサイズのオリジナルの絵から、画家自身がレプリカを作ったものです。1昨日、プラド美術館でそのオリジナル作品を見て、大きな感銘を受けました。プラド美術館の至宝というべき作品でした。そのプラド美術館のオリジナルの絵は、マドリードのドニャ・マリア・デ・アラゴン学院付属聖堂主祭壇衝立の中核となっていた作品です。以前、大塚国際美術館でこの主祭壇衝立画を復元したものを見ましたが、それは素晴らしいものでした。オリジナルの主祭壇衝立画はナポレオン戦争で破壊されているので、今や、大塚国際美術館の復元したものでしか見られません。まだ、見ていないかたには、是非、鑑賞をお勧めしたいと思います。

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これは《画家の息子ホルヘ・マヌエル・テオトコプーロスの肖像》です。1600~05年頃の作でスペインのセビーリャ美術館所蔵です。エル・グレコ59~64歳頃の作品です。エル・グレコが息子を描いた肖像画。この肖像画から分かるように息子のホルヘも画家・建築家です。ホルヘはトレドで父エル・グレコと共同制作も行いました。明日訪問予定のタベラ施療院の主祭壇衝立も祭壇画《キリストの洗礼》はエル・グレコが描き、ホルヘが完成させたものです。その作品がエル・グレコの絶筆です。また、祭壇衝立自体はホルヘが制作しました。

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これは《聖母戴冠》です。1603~1605年頃の作でギリシャ・アテネのアレクサンダー・S・オナシス公益財団所蔵です。エル・グレコ62~64歳頃の作品です。この作品はイリェスカスのカリダード施療院にある《聖母戴冠》の画家自身によるレプリカでおよそ3分の1のサイズで描かれています。このカリダード施療院にあるエル・グレコの作品群は彼自身が「スペイン中で最も優れた、最高の完成度の出来」と自負していました。カリダード施療院のオリジナル作品は以前、東京都美術館で開催されたエル・グレコ大回顧展で見ましたが、その絵の持つ迫力に大変、感動しました。この作品は絵の中に凄まじいエネルギーが充満しています。それがエル・グレコの晩年の最終到達点です。

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これは《羊飼いの礼拝》です。1605年頃の作でバレンシアのコルプス・クリスティ学院総大司教美術館所蔵です。エル・グレコ64歳頃の作品です。光の効果が不思議に感じる作品です。聖母マリアに顔が明るい光に照らされているのが、とても自然で、まるで、実際に絵にスポットライトをあてている感じです。トレド時代もこの頃になると、エル・グレコの作品は高い芸術性を獲得したものが目立ちます。しかし、この主題の絵画は最晩年に向けて、さらなる芸術の高みに上昇していくことになります。そのプラド美術館所蔵の大傑作は最後に見ます。

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これは《聖ペテロ》です。1607年頃の作でトレドのエル・グレコ美術館所蔵です。エル・グレコ66歳頃の作品です。この作品はキリストと12使徒から成る13枚の連作の中の1枚です。この連作はエル・グレコ美術館のほか、トレドのカテドラル聖具室など計6点が存在しています。当時、人気のあった連作であり、エル・グレコ工房で最晩年の1607年から1614年に集中的に制作されました。ですから、エル・グレコ自身だけで描いたのではなく、工房で制作したようです。しかし、最晩年のエル・グレコの描く聖人像の素晴らしさを十分に感じさせるものです。

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これは《トレド景観と地図》です。1610~14年頃の作でトレドのエル・グレコ美術館所蔵です。エル・グレコ69~73歳頃の作品です。この作品は写真がない時代に都市案内図として、優れたものです。地図を広げているのは息子ホルヘだと言われています。

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これは《羊飼いの礼拝》です。1610年頃の作でメトロポリタン美術館所蔵です。エル・グレコ69歳頃の作品です。プラド美術館にある大傑作の縮小バージョンです。プラド美術館にある大傑作もこの特別展にちゃんと出展されています。

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これがそのオリジナル版の《羊飼いの礼拝》です。もちろん、同じ構図ですが、サイズは全然違います。画像ではよく分からないかも知れませんが、全然、迫力は違います。オリジナル版は1612~13年頃の作でプラド美術館所蔵です。エル・グレコ71~72歳頃の作品です。何故かオリジナル版のほうが制作年は後になっています。事情はよく分かりません。このオリジナル作品は素晴らしい絵です。光を浴びて、くっきりと浮き立っているマリアの美しさはなんともいえず、素晴らしいです。赤い衣ともよく調和しています。羊飼いたちならずとも、つい、拝んでしまいたくなるようなマリアの神々しさです。これは宗教画ですが、そういう範疇を超えて、美と敬虔さに感動してしまう傑作です。エル・グレコの亡くなる前の数年に描かれた作品はどの作品も人類の最高に遺産とも言えるものばかりです。この作品はエル・グレコが自らの墓所と希望したサント・ドミンゴ・エル・アンティグオ聖堂に飾るために制作した祭壇画だそうです。エル・グレコの希望通り、墓所の前に飾ってあげたいものです。この絵の前で立ちすくんでしまいました。

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これは《聖母のエリザベツ訪問》です。1607~13年頃の作でアメリカ・ワシントンのダンバートン・オークス美術館所蔵です。エル・グレコ66~72歳頃の作品です。この後の作品《無原罪のお宿り》が飾られていたオバーリョ礼拝堂のヴォールト(天井のドーム)の中央に配されていました。つまり、真下から見上げるべき作品です。オバーリョ礼拝堂の創立者であるイサベル・デ・オバーリョの名前(イサベルはエリザベツのスペイン語名)にちなんで、この作品が描かれました。受胎した聖母マリアが従姉のエリサベツを訪問した場面を描いたものです。あえて簡素な表現になっているのは、この絵があまり目に付きにくい天井に配されてるからだそうです。

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これは《無原罪のお宿り》です。1607~13年頃の作でトレドのサン・ニコラス教区聖堂所蔵です。エル・グレコ66~72歳頃の最晩年の作品です。この絵も以前、東京都美術館で開催されたエル・グレコ大回顧展で見ましたが、そもそも、そのエル・グレコ大回顧展はこの絵が見たくて、足を運んだんです。そのとき初めて対面した、この絵は期待を超えて、想像を絶する、素晴らしい作品で、大変感動しました。そして、また、1年半ぶりにこの絵に再会することができました。この“美の究極”とも言える作品はこの会場に並んでいる傑作群の中でも、別格の存在です。聖母マリアのあまりの美しさに魂が震える思いにかられます。結局はこの1枚と再会するために、このサンタ・クルス美術館に足を運んだんだということを強く感じました。この作品と価値を競える美術作品はsaraiにとって、古今東西、数枚を数えるのみです。天才芸術家エル・グレコへ、畏敬の念を覚え、ただただ、絵の前に立ちすくみました。

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エル・グレコを十分に満喫しました。というよりも、圧倒されまくって、頭の中にエル・グレコが渦巻いてしまっています。もう、今日はこれで十分です。


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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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aokazuyaさん

コメントありがとうございます。デジタルコンサートホールは当面、これきりですが、毎週末、聴かれているんですね。ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲ

03/03 23:32 sarai

DCHは私も毎週末、楽しみに聞いています。
・スーパースターには、ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲルトの名も挙げたいところです。
・清水直子さん後半のみ登場、D

03/01 19:22 aokazuya

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai
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