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新たな高みに向かう上原彩子@東京オペラシティ 2015.1.24

日頃、コスモポリタンを自任しているsaraiですが、今日ばかりは日本人であることを感謝し、かつ、誇りにも思いました。
上原彩子の一年ぶりのピアノ・リサイタルは破格に素晴らしいものでした。彼女の演奏活動は日本国内に限られており、かつ、ほぼ首都圏に限られています。しかし、その演奏レベルは世界でもトップレベルだと思っています。彼女は以前、チャイコフスキー国際コンクールで優勝したとは言え、余り国際的には知られておらず、saraiが日本人であるからこそ、彼女の演奏に親しむことができます。saraiが日本人であることを感謝するのは上原彩子のピアノが聴けるからです。また、今日の彼女の演奏のあまりにも素晴らしいことに、同じ日本人として、誇らしくさえ思いました。もし、まだ、上原彩子のピアノ演奏を生で聴いたことのないかたは、是非、お聴きになることをお勧めします。きっと、その素晴らしさに感動するだろうことを保証します!

今日の前半のプログラムはモーツァルト。上原彩子のこれまでのレパートリーにない曲です。そして、あまりに有名な2曲のピアノ・ソナタ。saraiはこのプログラムを見たとき、これって、もしかして、子供向けの演奏会かと思い、チケットを購入することを躊躇したくらいです。しかし、事実は上原彩子が最近、モーツァルトに本格的に取り組みだしたとのことで、その最初にこの超有名なソナタを弾くのはモーツァルト演奏に相当の自信を持っていることだと思われます。

最初はピアノ・ソナタ 第11番 K.331。誰でも知っている曲です。第1楽章の冒頭、変奏曲の主題が弱奏で演奏されますが、あれっと思います。右手と左手の音が微妙にずれています。ミスではなく、そういう解釈のようです。これはsaraiは抵抗があります。そういう意識の齟齬はあるものの第1楽章の後半にはいると豊かな響き、決然としたダイナミズムに心を奪われます。こういうモーツァルトもいいものです。そのまま、第2楽章にはいり、これは素晴らしい演奏。そして、第3楽章はトルコ行進曲。また、冒頭のタラタラタン、タラタラタン、・・・という有名な主題が妙なアクセントの演奏で少し抵抗感を覚えますが、強奏で盛り上がるところはとても素晴らしい演奏です。聴いているsaraiの心を熱くしてくれるような演奏でした。

次は珍しいグラスハーモニカのためのアダージョの演奏に引き続き、ピアノ・ソナタ 第8番 K.310です。この演奏にsaraiは衝撃を受けました。このイ短調のソナタは哀しみに満ちた名曲ですが、上原彩子の演奏は強い響きで悲劇的と感じられる表現です。これまで聴いたことのないような演奏スタイルですが、saraiは納得です。プロコフィエフもラフマニノフも知っている現代に、モーツァルトをどう弾くか・・・これは一つの答えでしょう。上原彩子はモーツァルト演奏に新たな地平を開いたと思います。ある意味、プロコフィエフのソナタを弾くような感覚でのモーツァルト演奏です。強い響きでシャープな演奏。実に刺激的なモーツァルトです。既に過去の巨匠たちが古典的なモーツァルト演奏の決定的な表現を成し遂げた今、新たな演奏表現を聴きたかった自分の意識に気づかされました。そういうsaraiに上原彩子は見事なアンサーを与えてくれました。劇的な第1楽章、美しい第2楽章に続き、わくわくするような第3楽章の演奏に強い感銘を受けました。

まだまだ、上原彩子のモーツァルト演奏は伸びしろを残しているように感じます。いずれ、ピアノ・ソナタ全曲を聴かせてもらいたいものです。大変、期待しています。上原彩子にしか弾けないようなモーツァルトになることでしょう。

休憩後、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」です。これはプレトニョフの名演がCDで聴けます。超絶技巧の素晴らしい演奏です。ただ、プレトニョフが編曲したのは7曲で、《花のワルツ》も欠けています。そのため、上原彩子自身が新たに7曲を編曲して、全14曲の充実した組曲に仕立て上げました。既に昨年末、CDも発売されました。実演で披露するのは今日が初めてで、世界初演とも言えます。その演奏内容は《凄い!!!》としか表現できません。耳慣れたオーケストラ演奏などは吹き飛ばしてしまうような会心の演奏です。実はこのピアノ曲が「くるみ割り人形」の原曲だったと言われれば、信じてしまいそうです。ただ、チャイコフスキーの音楽を表現上は超えているような趣も感じられます。リサイタルが終わった後、思わず、上原彩子の「くるみ割り人形」のCDを衝動買いして、サイン会に参加し、彼女に「まるでラフマニノフみたいだったですね。」と語りかけると、嬉しそうに微笑んで「ありがとうございます。」と言われました。そうなんです。ラフマニノフの延長線上にこの「くるみ割り人形」を編曲したみたいに思えます。演奏自体もまるでラフマニノフのようにダイナミック。素晴らしくインスパイアされるような演奏に大興奮でした。

そうそう、アンコールでも「くるみ割り人形」の“アラビアの踊り”。これはCDにも収録されていない貴重な演奏でした。

今日のプログラムは以下です。

  ピアノ:上原彩子

  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調「トルコ行進曲つき」K.331
  モーツァルト:グラスハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K.356(617a)
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第8番 イ短調 K.310

   《休憩》

チャイコフスキー:組曲「くるみ割り人形」(プレトニョフ/上原彩子編:ピアノ独奏版)
   序曲 *
   行進曲
   クララとくるみ割り人形 *
   戦闘(ねずみと兵隊の戦い) *
   間奏曲(冬の樅の森)
   スペインの踊り(チョコレート) *
   中国の踊り(お茶)
   トレパック(ロシアの踊り)
   葦笛の踊り *
   花のワルツ *
   金平糖の踊り
   タランテラ
   アンダンテ・マエストーソ(パ・ド・ドゥ)
   終曲のワルツとアポテオーズ *
    *:上原彩子編曲、他はプレトニョフ編曲
    
   《アンコール》
    チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」より“アラビアの踊り”(上原彩子編曲)
    チャイコフスキー:18の小品op.72より“きらめくワルツ”

年初めから、凄いピアノ・リサイタルを聴いてしまいました。今年も素晴らしい音楽ライフが期待できそうです。


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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
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 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

通りすがりさん

コメント、ありがとうございます。正直、もう2年ほど前のコンサートなので、詳細は覚えておらず、自分の文章を信じるしかないのですが、生演奏とテレビで

05/13 23:47 sarai
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