実はバッハもよかったんです。ただ、もっと個性的で高いレベルの演奏でsaraiをインスパイアしてくれるのを期待していたので、いい演奏だとさらっと受け止めただけのことです。一般的なレベルでは素晴らしいバッハでした。特に2曲目のイギリス組曲はそれなりに個性的な演奏で満足しました。ピアノの響きも驚くほど美しいものでボリューム感もたっぷり。逆に響きを少し犠牲にしても、もっとノリのよい流れの演奏であってほしいという感は否めませんでしたけどね。最初のフランス風序曲は長大な序曲はよかったので、素晴らしい演奏になることを期待しましたが、全体としては最高レベルの演奏とは言いがたい感じ。昨年聴いたアンドラーシュ・シフの素晴らしい演奏には僅か及びませんでした。まあ、期待感が大き過ぎたのでしょう。よい演奏ではありました。
休憩後はシューマン。まずはシューマンの実質、最後の作品と言われている《精霊の主題による変奏曲》。響きを抑えて、沈潜したような演奏。曲の内容からは納得できる演奏です。思わず、ボンのシューマン夫妻のお墓参りをしたときの映像が脳裏に浮かんできました。シューマンの魂に哀悼を捧げるかのようなアンデルシェフスキの演奏です。この作品は天才シューマンが生み出した数々の素晴らしいピアノ曲とは様相を異にするような作品です。音楽的にどうのこうのと言うよりも、晩年のシューマンのつらい精神状況を察して、悲しくなってしまいます。アンデルシェフスキはよほどシューマンに入れ込んでいるのでしょう。シューマンへのリスペクトを感じる演奏でした。
この《精霊の主題による変奏曲》を序奏のようにして、名曲《幻想曲》が始まります。一転して、振幅の大きい美しい表情の演奏です。これこそ、天才シューマンの傑作です。アンデルシェフスキは気負いさえ感じられるほど、気魄のこもった演奏です。それでいて、実に美しい響きです。すっかり引き込まれて、シューマンの世界を満喫しました。特に第1楽章のフィナーレのロマンあふれる響きには魅惑されました。この第1楽章がこの日の演奏の頂点でした。第2楽章も美しい響きで祝典的な気分が十分。これで第3楽章がもっと盛り上がれば、最高の《幻想曲》だったでしょう。いつか、リヒテルにも優る《幻想曲》を聴かせてくれることを願っています。
今日のプログラムは以下です。
ピアノ:アンデルシェフスキ
J.S.バッハ: フランス風序曲 ロ短調 BWV831
J.S.バッハ: イギリス組曲第3番 ト短調 BWV808
《休憩》
シューマン: 精霊の主題による変奏曲
シューマン: 幻想曲 ハ長調 Op.17
《アンコール》
ベートーヴェン: バカテル Op.126-5、2、3
最高のピアノ・リサイタルとは言えないものの十分に満足できました。アンデルシェフスキの今後の活躍は目を離せないですね。
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