コリフェ4人(合唱隊の先導役)の素晴らしい歌唱も見事でした。特に若いソプラノの見事な歌唱にはほれぼれ。合唱も素晴らしく、合唱とコリフェが交互に歌うシーンは舞台上の位置をよく考えてあり、素晴らしい効果を生んでいました。
演出は白墨で黒板にリアルタイムに絵を描いていくのが骨子になっていました。演奏開始前からのそういう演技と言い、最近の流行のようですね。まあ、これは可もなし不可もなしと言う感じです。おっと驚いたのが幕間休憩後の第3幕で、それまでピットにいたオーケストラが舞台に上がり、舞台の前面と一番奥、そして、ピット内で歌手たちが演技・歌唱したことです。視覚面では効果がありましたが、これって、演奏会形式のオペラみたいだし、その上、ピットの分、音楽が後ろに引いてしまったみたいで、音楽面では確実にマイナスになっていました。特にそれまで美しく響いていたオーケストラの音が遠くなり、今回の公演で一番素晴らしかったオーケストラの良さを減じてしまった格好です。saraiの個人的な思いでは、演出はあくまでも音楽を美しく聴かせることを最優先にすべきだと感じていますが、残念ながら、最近はしばしば、音楽を軽んじた結果になる演出も見受けられます。今回は音楽が素晴らしかっただけにもったいないことだったと思います。演出のオリヴィエ・ピィはアヴィニョン演劇祭のディレクターをしていた人だそうです。
ところでこのグルックのオペラは最初、イタリア語版で作られて、ウィーンで初演されたものです。グルックの有名なオペラ《オルフェオとエウリディーチェ》と同様にフランスで再演するにあたって、フランス語版に書き変えて、フランス好みに音楽の追加・変更を行い、パリ版としたものが今日公演されたものです。グルックはドイツに生まれ、オーストリアで活躍し、その後、音楽教師として仕えていたマリー・アントワネットに従って、フランスに渡りました。生涯でドイツ語のオペラを一つも作らず仕舞でした。そんな時代だったのでしょう。まるでイタリアの作曲家かフランスの作曲家と誤認してしまいそうですが、最後はウィーンで亡くなったれっきとしたドイツ・オーストリア系の作曲家です。しかし、今日のオペラを聴いていると、いい意味でフランスのバロックの音楽家と思えてしまいます。このオペラはウィーンでは今でもウィーン版(イタリア語版)で上演されているんでしょうか。
プログラムとキャストは以下です。
指揮:マルク・ミンコフスキMarc Minkowsk
演出:オリヴィエ・ピィOlivier Py
管弦楽・合唱:グルノーブル・ルーヴル宮音楽隊Chorus and Orchestra of Les musiciens du Louvre Grenoble.
グルック:オペラ《アルチェステ》(パリ版:フランス語版)初演1776年4月23日、パリ/Paris,王立音楽アカデミー/Opera national de Paris(パリ・オペラ座)
アルセスト/Alcesteテッサリア地方ペライの王女(S)
ヴェロニク・ゲンスVéronique Gens
アドメート/Admeteテッサリア地方ペライの王(T)
スタニスラス・ド・バルベイラクStanislas de Barbeyrac
祭司長/High Priest アポロ神殿の祭司長(Br)、エルキュール/Herculesギリシャの英雄ヘラクレス、アドメート王の友人(Br)
ステファーヌ・デグーStéphane Degout
エヴァンドロ/Evandreアドメート王の信頼篤き廷臣(T)、コリフェcoryphée alto
Manuel Nuñez Camelino
コリフェCoryphée soprano
Chiara Skerath
アボローン/Apollonアポロの神(Br)、伝令官/Herald アドメート王の廷臣(B)、コリフェCoryphée basse
Tomislav Lavoie
コリフェCoryphée ténor
Kevin Amiel
託宣者/Oracle神のお告げを伝える者(B)、地獄の神/Thanatos死の神(B)
François Lis
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