ハイティンクが今日、演奏したブルックナーはあまりに美し過ぎました。美しさに酔っているうちにフィナーレ。天使が舞い降りたように強烈な感動が最後の最後に不意に訪れてきました。素晴らしいブルックナーでした。しかし、タクトを下ろして、こちらを振り向いたマエストロを見るとはっとします。マエストロは燃え尽きて・・・いや、憔悴の極にあるようです。遠路はるばる極東の島国までやってきて、マーラー、ブルックナーという大曲を振るのは86歳のご高齢で大変でしょう。演奏中はそういうことを微塵も感じさせない力演でしたから、タクトを下ろすとどっとお疲れが出るのでは。
これがもう、巨匠のブルックナーの聴き納めかもしれませんね。今日のブルックナーは巨匠の白鳥の歌だったのかもしれません。十分に素晴らしいブルックナーを聴かせてもらいました。
ハイティンクのブルックナーと言えば、わざわざ、アムステルダムまで聴きに行った2013年4月のコンサートが忘れられません。ブルックナー、いや、これまでに聴いてきたすべてのコンサートで最高のコンサートでした。ブルックナーの作品で頂点に立つ交響曲第8番です。そのときの記事はこことここです。それに先立つこと、1か月。ハイティンクは来日公演でも究極のブルックナーの交響曲第9番を聴かせてくれました。サントリーホールとみなとみらいホールで聴きましたが、みなとみらいホールでの演奏が凄くて、歴史的とも思えるコンサートでした。そのときの記事はここです。そして、これらの第8番、第9番に続いて、第7番が聴けるのですから、どんな演奏になるのか、期待と不安がないまぜでしたが・・・とても美しい演奏を聴かせてもらいました。満足です。
ハイティンクのブルックナーの交響曲第7番を生で初めて聴くのですから、予習には万全を期しました。予習したCDは以下です。ハイティンクで聴けるCDはできるだけ聴いた感があります。各2行目は演奏時間(全体、各楽章)です。
1. (ハース版) 1966.11.1-3 コンセルトヘボウ管 (ブルックナー全集から)
60:15 18:10 21:00 9:19 11:46
2. (ハース版) 1978.10.9-10. コンセルトヘボウ管
65:19 20:48 22:20 9:51 12:05
3. (ハース版) 1997.10.18 ウィーン・フィル
64:00 20:12 22:07 9:30 12:27
4. (ハース版) 2000.8.25. ベルリン・フィル (ザルツブルグ)
64:15 20:09 21:44 9:45 12:33
5. (ハース版) 2004.8.26. シュターツカペレ・ドレスデン
69:30 21:33 23:35 10:35 13:44
6. (ノヴァーク版)2007.5.15 シカゴ交響楽団
67:31 21:33 22:26 10:30 13:01
7. (ノヴァーク版)2010.9.17 コンセルトヘボウ管
64:50 20:27 21:24 10:03 12:53
8. (ノヴァーク版)2012.6.17 ロンドン交響楽団
66:00 20:51 21:50 10:02 13:17
ハイティンクのブルックナー録音の中ではこの交響曲第7番が一番多く、このほかにもまだあります。ハイティンクのブルックナー録音では、このほか、交響曲第8番と第9番が多く、ハイティンクのブルックナー演奏の中核はこれらの3曲になります。オーケストラでは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が中心を占めているのは当然として、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、シカゴ交響楽団、シュターツカペレ・ドレスデン、ロンドン交響楽団と揃っています。バイエルン放送交響楽団、ミュンヘン・フィルが揃えば、完璧ですね。また、ブルックナー演奏の場合、どの版を使うかが問題ですが、ハイティンクはこの第7番に限らず、昔はハース版を使っていますが、2007年以降はノヴァーク版に変わっています。
演奏自体で言えば、ハイティンクは1970年代後半にブルックナー演奏スタイルを確立し、素晴らしい高みに達しました。その後、2000年代に入り、じっくりと構えた演奏になり、さらにノヴァーク版を採用することで、無駄をそぎ落として、演奏の質を高めてきています。この8枚の中でどれかを選ぶとしたら、6.の2007年のシカゴ交響楽団か、7.の2010年のロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団か、8.の2012年のロンドン交響楽団になるだろうと思います。いずれもノヴァーク版ですね。どれも素晴らしい演奏ですが、1枚選ぶなら、最新のロンドン交響楽団かな。
今日の演奏、第1楽章はさざなみのような弦の響きの中、低弦の深く美しい音楽が始まります。弦と管が代わる代わる美しい響きを聴かせてくれます。次第に音楽は熱を帯びていきます。不思議にどんなに高潮してもうるさい響きにはなりません。このオーケストラの音色はとてもバランスがよく、タイプとしてはロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を感じさせます。ハイティンクがそのルーツのオーケストラの響きを求めているかのようです。
第2楽章は意外にスローに粘らずにすっきりとした演奏ですが、実に美しい音楽が奏でられます。終盤のクライマックスもあくまでも美しさを追求するような音楽作りです。めくるめくような煌めきの音楽が最後はワーグナーの死を悼む葬送の音楽として沈潜していきます。底流にワーグナーのパルジファルを思わせるような《心の痛み》の音楽をワーグナーも得意にするハイティンクが見事に表現しました。
第3楽章は力をふりしぼったような勇壮な音楽。巨匠の力演です。
第4楽章は美しさと《心の痛み》と豪壮さが混在する大変素晴らしい演奏です。そして、頂点はフィナーレにありました。巨匠が持てる力をすべて燃焼し尽した演奏でした。敬愛するハイティンクの音楽への真摯な奉仕にsaraiは頭を垂れるのみです。
今日のプログラムは以下です。
指揮:ベルナルト・ハイティンク
ピアノ:マレイ・ペライア
管弦楽:ロンドン交響楽団
モーツァルト: ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
《休憩》
ブルックナー: 交響曲第7番 ホ長調
前半のモーツァルトのピアノ協奏曲は一昨日にサントリーホールで聴いたばかりですが、今日は一段と精度を上げた演奏。もうこれ以上は弾けまいというような完璧なピアノ。オーケストラもモーツァルト演奏の規範となるような演奏。いっそのこと、交響曲を聴いてみたくなるようなオーケストラ演奏です。楽章を追うごとに素晴らしさは増すばかり。第2楽章の美しさといったら、言葉もありません。そして、最高に素晴らしかったのは第3楽章。2度と聴けないような奇跡のような演奏でした。ペライアの真の実力を見せつけられた思いです。究極の美しいピアノの響きが聴けて、満足この上もなしです。
今日も最高のモーツァルトにブルックナー。音楽の愉悦を感じ尽した一夜でした。
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