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上原彩子、衝撃のラフマニノフ@サントリーホール 2016.2.8

今日は浜松国際ピアノアカデミー・第20回開催記念コンサートシリーズ・東京公演と銘打ったコンサートに出かけました。実際の内容はピアノの上原彩子河村尚子、チョ・ソンジンの3人のガラ・コンサートのようなものです。最初に浜松国際ピアノアカデミーを代表して、ピアニストの中村紘子さんのご挨拶がありました。病気休業中と聞いていましたが、お元気なご様子で安心しました。彼女からは今日出演する3人の小さな頃のエピソードが紹介されて、大変興味深く拝聴しました。特に11歳の上原彩子がペダルにも足が届かない状態でショパンの24のプレリュードやバッハのパルティータ6番を弾き切った話には驚きました。天才とはそういうものなのですね。

最初は河村尚子がモーツァルトのピアノ・ソナタ 第12番を弾きます。どう弾くのかと思っていたら、完璧なテクニック、そして、ピュアーな響きでの演奏・・・しかも、実に深い内容の演奏です。あまりの素晴らしさにあっけにとられて聴き入っていました。河村尚子と言えば、前回、素晴らしいプロコフィエフの戦争ソナタを聴き、バリバリのテクニッシャンだと思っていましたが、古典ものを弾かせても、こんなに弾けるんですね。ある意味、無敵のようなピアニストです。ますます、これからが楽しみな人です。現在、saraiが上原彩子に次いで、注目しているピアニストでしたが、それはやはり、間違いではありませんでした。次回は山田和樹指揮バーミンガム市交響楽団と共演するラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を聴きますが、とっても期待できそうです。

次は今回のお目当てだった上原彩子の登場です。ラフマニノフの前奏曲(Op.32-5)とピアノ・ソナタ 第2番を弾きます。彼女のお得意のラフマニノフですから、とても期待していました。予習したのは、ホロヴィッツ(前奏曲とソナタ)とフィオレンティーノ(ソナタだけ)の二人の凄絶とも思える演奏。上原彩子は今日はYAMAHAのピアノを弾きます。それもいいかもしれません。ガンガンと弾くにはいいでしょう。まずは前奏曲ですが、この短い曲を実に静謐に演奏します。高域のタッチの美しい響きに聴き惚れます。なんとも美しい演奏。ホロヴィッツも美しい演奏でしたが、それ以上に雰囲気のある天国的な演奏です。前奏曲の響きも残るまま、ソナタに突入していきます。上原彩子らしい激しいタッチの演奏が始まります。燃え上がる火花のような激情に包まれたダイナミックな演奏です。それは時として静まりはしますが、ふつふつと燃える感情は消えることはありません。下降音型のパッセージに込められたラフマニノフの思いが上原彩子に乗り移ったかのように鬼気迫る演奏が続き、スリリングな第1楽章があっという間に終わり、また、休みなしに第2楽章が始まります。ラフマニノフのやるせない情感の音楽が見事に表現されていきます。情念に満ちた音楽は終盤、燃え盛っていきます。少し抑まったところで、いきなり、激しいタッチで第3楽章が弾き始められます。ラフマニノフの行き所のないようなやるせない感情が爆発していきます。抑まっては強まり、次第に激情にかられて、物凄い高揚感に満ちたフィナーレにはいっていきます。ある意味、暴力的とも思える音楽を超えた音楽。saraiの頭も真っ白になり、思わず、涙が滲んできます。フィナーレでは彼岸に飛ばされてしまいました。何というラフマニノフでしょう。でも、これがラフマニノフの真の音楽だったんですね。初めて理解できたような気がします。己のどうしようもない、やるせない気持ちと格闘し、それをピアノの鍵盤にぶつけたのがラフマニノフだったというのが上原彩子が伝えてくれたものです。音楽を創造するというのは、これほど自己との葛藤を乗り越えていかないといけないものだとは・・・絶句です。
上原彩子の演奏は実に衝撃的でした。彼女のピアノを長く聴いてきましたが、これがこれまでで最高の演奏です。しかし、彼女は上昇を続けていますから、これで終わることはないでしょう。どこまで上り詰めていくのは、恐ろしいような予感もします。

休憩後は注目のチョ・ソンジンの演奏です。昨年のショパン・コンクールを制した話題のピアニストを初めて聴きます。ですが、まだ、先ほどの上原彩子の衝撃的な演奏が頭に残っています。もしかしたら、チョ・ソンジンも聴いてしまったのかもしれません。ショパンのピアノ・ソナタ 第2番を弾き始めた彼の気合も凄いものです。よい演奏なのですが、少し、肩に力が入り過ぎたような感じもあります。微妙にタッチの美しさが損なわれているような感も否めません。ようやく美しい音楽が感じられるようになったのは第3楽章の中間部あたりからです。今日の彼の演奏で、ショパン・コンクールの覇者の実力を判断するわけにはいきませんね。もう一度、ちゃんと聴かせてもらいましょう。

残りのプログラムはお楽しみのプログラムです。モーツァルトの2台のピアノのためのソナタは河村尚子&上原彩子のお二人が楽しそうに演奏しました。名人の二人ですから、素晴らしい演奏ではありますが、まあ、完璧とまではいきませんね。第3楽章では河村尚子が脱線して、トルコ行進曲のフレーズをサービスしてくれたりします。楽しい音楽・・・ただ、それだけではあります。
最後は3人が1台のピアノに並んで、3人連弾です。滅多に聴けない珍しい曲が聴けて、これも楽しかったというところ。それでも、ロマンスはラフマニノフらしさが散りばめられていたのは流石。

ともかく、今日は上原彩子の凄さに圧倒されたコンサートでした。

今日のプログラムは以下です。

 浜松国際ピアノアカデミー 第20回開催記念コンサートシリーズ 東京公演

  ピアノ:上原彩子
  ピアノ:河村尚子
  ピアノ:チョ・ソンジン

  モーツァルト: ピアノ・ソナタ 第12番 ヘ長調 K.332(河村尚子)
  ラフマニノフ: 前奏曲 ト長調 Op.32-5 (上原彩子)
  ラフマニノフ: ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op .36 (上原彩子)
  
   《休憩》

  ショパン: ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35 (チョ・ソンジン)
  モーツァルト: 2台のピアノ・ソナタ ニ長調 K.448 (河村尚子&上原彩子)
  ラフマニノフ: 6手のためのワルツとロマンス (河村尚子&上原彩子&チョ・ソンジン)

   《アンコール》 なし

次回の上原彩子はラフマニノフの前奏曲尽くしを聴きます。どんなラフマニノフを聴かせてくれるでしょう。


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テーマ : クラシック
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金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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