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ハーレム~ライデンの1日:フランス・ハルス美術館~ハルスの集団肖像画の芸術的価値は?

2015年6月26日金曜日@アムステルダム~ハーレム~ライデン/7回目

フランス・ハルス美術館Frans Hals Museumにはハルスの集団肖像画が8枚も所蔵されているそうです。アムステルダム国立美術館でもハルスの集団肖像画を見ましたが、あれは左半分だけがハルス自身が描き、残りはほかの画家が完成させたものでしたから、まだ、ハルスの完全な集団肖像画は見ていません。楽しみです。では見ていきましょう。


フランス・ハルスの《聖ゲオルギウス市警備隊の士官たちの晩餐》です。 1616年頃、フランス・ハルス34歳頃に描かれました。画面を斜めに横切る旗が効果的な構図を作っています。ハルスが画期的な斜形構図で従来からの三角形(台形)の構図からの脱却を果たしました。集団肖像画の新しい旗手の誕生を告げる作品です。聖ゲオルギウス市警備隊はこの後も1627年、1639年に描かれます。ダ・ヴィンチの《最後の晩餐》を想起させるような人物間の語らいの波が感じられる活気あふれる画面です。

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フランス・ハルスの《聖ゲオルギウス市警備隊の士官たちの晩餐》です。 1627年頃、フランス・ハルス45歳頃に描かれました。ここでも斜めに画面を横切る旗が効果的ですが、1616年の作品よりも構図が柔らかに感じられます。ハルスの筆の熟達と余裕が画面に奥行きを与えているようです。

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フランス・ハルスの《聖ゲオルギウス市警備隊の士官たち》です。 1639年頃、フランス・ハルス57歳頃に描かれました。聖ゲオルギウス市警備隊は1616年、1627年にも描かれましたが、この作品は構図が前列の士官たちが横一直線に描かれて、古典的な構図に戻っているのが特徴です。画面の安定感は増して、作画の技術はさらに熟達して見事ではありますが、作風が後退してしまった印象は拭えません。ハルスは晩年に向けて、アヴァンギャルドさではなく、内面の充実度を目指しているのかもしれません。賛否両論のあるところですが、この作品に関してはある意味、中途半端の感は否めません。ところで、後列左から2番目の人物はハルスの自画像と言われています。画像が不鮮明で申しわけありません。

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一応、ハルスの自画像の部分を拡大してみました。中央の人物がハルスだそうです。

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フランス・ハルスの《聖ハドリアヌス市警備隊の士官たちの晩餐》です。 1627年頃、フランス・ハルス45歳頃に描かれました。同じ年に描かれた《聖ゲオルギウス市警備隊の士官たちの晩餐》とも一見似たような構図にも思えますが、ここ作品は画面中央に中心を置いた斜め十字の構図が秀逸です。シンプルですが、画面の賑やかさはどうでしょう。ダイナミックにして、デラックスという感じの集団肖像画です。聖ハドリアヌス市警備隊は聖ハドリアヌスを守護聖人とした火縄銃警備隊ですが、1633年にもまた描かれることになります。

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フランス・ハルスの《聖ハドリアヌス市警備隊の士官たち》です。 1633年頃、フランス・ハルス51歳頃に描かれました。この作品は以前、1627年に描かれた同一題材の作品に比べると、より古典的な安定した構図で描かれています。しかし、それほど作風が後退した印象を感じないのは聖ハドリアヌス市警備隊の2分隊が左右できちんと描き分けられて、人物描写も深い観察眼で描かれており、単調な画面になっていないからでしょう。

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フランス・ハルスの《ハーレムの聖エリサベト養護院の理事たち》です。 1641年頃、フランス・ハルス59歳頃に描かれました。ハルスがそれまで描いていた集団肖像画は警備隊を対象としたものでしたが、この作品は理事たちを描いた最初の集団肖像画です。何といっても、この作品の特徴は黒を基調にしたモノクロームの色彩にあります。色彩も抑え、構図も地味になり、ハルスは晩年の円熟に向かっていきます。それは外面性から内面の深いところを目指したものでもあります。それは後にレンブラントが辿ることになる道を指し示しているかのようです。

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フランス・ハルスの《養老院の理事たち》です。 1664年頃、フランス・ハルス82歳頃に描かれました。ハルス晩年の傑作です。集団肖像画ではありますが、もはや、その言葉の意味を失い、一人一人の内面を浮彫にするような6枚の肖像画の集合体のような作品です。それはこの時代にはまだ十分、その価値が評価されるものではなく、後世の画家たちが看破するまではハルスはある意味忘れ去られる運命にありました。最も理解できたのは同じオランダ出身のゴッホです。特に「ハルスの黒」の魅力を見破ったのです。ゴッホは「彼は27色の黒を使っている」と言ったそうです。ゴッホ自身も緑を混ぜた黒など、ハルスの手法を応用しています。そして、黒の得意な画家と言えば、マネですが、彼もハルスの色使いにたどり着き、当時流行した黒いフロックコートを描くための悩みを解決できたそうです。ハルスはモノクロームの世界で様々な黒を使って、人間の内面表現の深みに切り込んでいき、晩年の高みに達しました。

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これでハルスの集団肖像画を7枚見ることができました。残りは1枚。それも晩年の傑作です。ところがどこにも展示されていません。これは残念です。しかし、最後に修復室を覗くと、なんとそこで修復中です。親切にも修復室のガラス窓を通して見えるように置いてあります。一応、見ることができて満足です。8枚すべてを見ることができました。

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ズームアップして見てみましょう。
フランス・ハルスの《養老院の女理事たち》です。 1664年頃、フランス・ハルス82歳頃に描かれました。この作品は同じ年に描いた《養老院の理事たち》と対をなす作品で、ハルスの芸術の頂点にある最高傑作です。4人の女理事と養老院の寮母の一人一人の個性を描き分け、内から輝く女性たちの魅力を余すところなく描き出しました。黒の表現は高いレベルで完成の域に達し、背景の壁にはイエローオーカーを混ぜた黒、スカートはマーキュロクロムで赤みを付けた黒、帽子はランプなどの煤を原料にした純粋な黒というように技術と表現の結合が図られています。これら、晩年の作品は一見渋い作品に見えてしまいますが、何度も足を運んで、その魅力を感じ取るという類の芸術性の高い作品であるように思います。saraiは予備知識なしに鑑賞したので、まだまだ、その作品の芸術的価値の一端に触れただけに過ぎないのが残念です。なお、このフランス・ハルス美術館は以前は養老院として使用されていた建物です。その養老院を管理していたのがこの女理事たちだったんです。この作品と美術館の建物は切っても切り離せない縁があるんです。

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ハルスの集団肖像画の素晴らしさを堪能しました。この美術館にはまだ、ハルスの描いた肖像画の数々もあります。残った時間、さらにハルスの魅力に迫りましょう。


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久々のコメント、ありがとうございます。
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06/18 12:46 sarai

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06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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