2015年6月28日日曜日@アムステルダム/3回目
アムステルダムの市立美術館Stedelijk Museumの展示作品を見ています。まず、1階にある作品のうち、特別展で展示されているマティスの作品を時代順に見ています。これからは円熟期の60代半ば以降の作品を見ていきます。
マティスの《髪をほどけた女の肖像》です。1933年、マティス64歳頃に描かれた作品です。これは鉛筆で描いた素描です。えっ、これがマティスって感じですが、あくまでも素描のスケッチですね。

マティスの《ストライプのドレス》です。1938年、マティス69歳頃に描かれた作品です。ドレスだけが強調して描かれており、モノの形が明確ではありませんが、ふわっとした色彩の感覚が楽しめる作品になっています。

マティスの《ダンス》です。1938年、マティス69歳頃に描かれた作品です。マティス終生のテーマ、ダンスですが、紙の上に切り貼りして構成した作品です。Verve誌のための再構成したようです。ステージ上でのダンスのように見えますね。

ここまで何度か《ダンス》について、言及してきましたが、このマティスの代表作はロシアの富豪でマティスの大パトロンだったシチューキンの注文で描かれたものです。1909年、マティス40歳の頃です。ところがこの作品を組になる作品《音楽》と一緒に展覧会に出したところ、批評家たちには不評。それどころか、今まで崇められていたはずのピカソやブラックにまで酷評される始末。その状況で注文主だったシチューキンまでが購入を渋ります。時代は1907年に《アヴィニョンの娘たち》を描き上げ、その後、ブラックとの共同創作でキュビズムを完成させたピカソの隆盛期にさしかかり、マティスは過去の人になりかねない状況になっていました。結局はパトロンのシチューキンが《ダンス》と《音楽》を購入してくれることになり、危機は脱します。さらにはピカソのコレクターでもあったシチューキンの強いサポートも得られて、マティスは自分の道を見出すことになります。今ではマティスの代表作、それどころか20世紀を代表する作品のひとつである《ダンス》は実に危機的な作品でもあったんです。このシチューキンのコレクションだったマティスの傑作群はロシア革命でロシア政府(ソ連政府?)に接収されて、今ではエルミタージュ美術館のマティスの部屋に収まっています。
参考のためにそのエルミタージュ美術館にある《ダンスⅡ》を見ておきましょう。

ちなみに題名が《ダンスⅡ》になっているのは、《ダンス》の絵は2枚あるからです。《ダンスⅠ》は現在、ニューヨーク近代美術館(MOMA)にあります。この作品はシチューキンに注文された《ダンス》を描くための習作だったと言われています。ついでにこの《ダンスⅠ》も見ておきましょう。ほとんど《ダンスⅡ》と同じですが、女性たちの体の色が普通に肌色ですね。やはり、赤く塗られた体のほうが躍動感があります。さきほど見た1938年の作品の中で使われているのは《ダンスⅡ》ですね。

マティスの《赤い背景に毛皮のコートの若い女》です。1944年、マティス76歳頃に描かれた作品です。シンプルな作品ですが、何か心惹かれる魅力があります。変な言い方ですが、色気があります。

マティスの《女の肖像(リディア・デレクトルスカヤ)》です。1945年、マティス76歳頃に描かれた作品です。これは紙の上にチャコール(木炭)で描いたスケッチです。非常に魅力的に女性の顔が描かれていますが、それもその筈。この10年ほど前からモデルをつとめていたリディア・デレクトルスカヤはマティス最愛の人となっていました。10年前に彼女をモデルに描いた作品《大きな横たわる裸婦》は傑作として知られていますが、この1枚を完成するのに毎日毎日描き続けて半年もかかったそうです。その過程でモデルのリディアはなくてはならない人になったようです。それにしても女性の内面から湧き出る魅力までも絵に描けるマティスの筆力には脱帽です。

マティスの《ヴェネチアの赤の室内:静物》です。1946年、マティス77歳頃に描かれた作品です。赤一色に塗られた画面・・・マティス独特の個性です。何というか、統一感、落ち着きを感じます。絵画芸術も音楽芸術も究極は調和に尽きることを思い至らさられる1枚です。こういう色彩感覚は幾多の画家に影響を与えたことでしょう。

マティスの《赤い室内:青いテーブルの静物》です。1947年、マティス78歳頃に描かれた作品です。この作品も赤の調和を主軸とするものですが、思い切った壁の文様も印象的です。それにテーブルの静物の単純化はどうでしょう。実に考え抜かれており、かつ、それを感じさせずに、大胆にも思わせる卓抜さです。

マティスの《ヌード、猫の頭、青の横顔、赤の横顔》です。1947~1948年、マティス79~80歳頃に描かれた作品です。画家として遅い出発だったマティスも遂に80歳の大台にさしかかります。この日まで、毎日たゆまなく描き続けたマティスはもう達人の域です。この作品群は紙の上に鉛筆で描いたものです。自在なフォルムで無理なく描いています。もう焦りも野心もなく、ただ絵を描くことだけに心をくだいていることが分かるような作品です。

マティスの《黒いシダのある室内》です。1948年、マティス80歳頃に描かれた作品です。この作品も赤を基調に丸テーブルの静物というマティスの定番のような画面になっています。顔の表情が描かれない女性が登場しているのはどういう意味があるのかと考えてしまいます。この女性が誰かによるかも知れませんが、きっと、マティスにとって大事な人なんでしょうね。マティスの人間味の増した絵だと解釈しておきましょう。

マティスの《聖母子、ヴァンス礼拝堂の壁の装飾のための習作》です。1949年、マティス80歳頃に描かれた作品です。マティスは前年の1948年から南仏のヴァンスの町の礼拝堂装飾の仕事にとりかかります。2年かけて、1950年にその仕事を終えます。ヴァンス礼拝堂は光に満ちた実に美しい礼拝堂です。しかし、齢80になる頃にマティスは宗教的な作品をてがけたんですね。この習作は結構、描き込みが密ですが、実際に壁に描かれた絵はシンプルな線画です。それ以上に美しいのは色彩に満ちたステンドグラスでした。

マティスの《女の肖像(リディア・デレクトルスカヤ)》です。1949年、マティス80歳頃に描かれた作品です。これは色鉛筆画です。さっきのリディアの肖像画から4年後です。相変わらず、マティスの最愛の人のようですが、4年で結構お年を召されたようですね。シンプルな線画はますます磨きをかけています。

マティスの《ミモザ》です。1949~1951年、マティス81~83歳頃に描かれた作品です。いよいよ切り絵の登場です。この8年前、1941年に十二指腸癌の大手術を受けて、ベッドの上の生活を強いられた結果のひとつが切り絵でした。どんな状況にあっても芸術創作活動から離れることができなかったマティスの一つの選択でした。切り絵は明確過ぎるくらい色彩と形をクリアにさせます。マティスのそれまでの作品とは大きくスタイルが異なります。過去からの発展ではなく、新たな芸術表現への模索が始まります。年齢は関係ありませんね。この作品・・・saraiは残念ながら、あまり評価できません。マティスの洒脱とも思えた色彩感はあまり感じられないからです。

マティスの《無題(青い裸婦の習作)》です。1952年、マティス84歳頃に描かれた作品です。切り絵の作品《青い裸婦》のためのスケッチです。こういうスケッチを膨大に描いて、1枚の作品にたどり着く。それが勤勉な画家マティスのスタイルでした。しかし、見事なスケッチです。もう、これで完成のようにも思えます。

マティスの《無題(青い裸婦の習作)》です。1952年、マティス84歳頃に描かれた作品です。これもスケッチの1枚です。大変な創作活動です。頭が下がります。

マティスの《青い裸婦、蛙》です。1952年、マティス84歳頃に描かれた作品です。これができあがった切り絵の作品のひとつです。切り絵もシンプルな構図で単色で素晴らしいレベルに到達しましたね。この《青い裸婦》シリーズはまるで版画のように何枚も作成されました。

参考のために、スケッチと同じ構図の《青い裸婦》シリーズの1枚《青い裸婦Ⅳ》を見ておきましょう。これはニースにあるマティス美術館所蔵の作品です。切り絵ですが、何と素晴らしい作品でしょう。絵画と装飾の間にあるような高い芸術性を持った作品です。

マティスの《赤い背景に黒い葉》です。1952年、マティス84歳頃に描かれた作品です。この切り絵も実にシンプル。作品のレベルでは《青い裸婦》が優ります。

マティスの《小さな少女》です。1952年、マティス84歳頃に描かれた作品です。これも切り絵ですが、今一つでしょうか。

マティスの《Verve誌のための表紙スケッチ》です。1954年、マティス85歳頃に描かれた作品です。この切り絵は以前描いていた油絵のように赤の調和を目指したかのような作品になっています。まだ、本当の美へ到達したようには感じませんが、85歳のエネルギー、凄まじいですね。

これで1階にあるマティスの作品を見尽くしました。1941年の大病まででマティスは芸術上の頂点に達したようです。大手術後は切り絵で1から出直して新たな世界を創作していきます。2階にはその集大成の切り絵の大作が展示されているようです。
その前に1階にあるマティスと同時代のほかの画家たちの作品を見ていくことにします。マティスに影響を与えたり、逆に影響を与えらえた画家たちの作品です。
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テーマ : ヨーロッパ
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