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苦難の天才の挽歌!パシフィカ・クァルテット:ショスタコーヴィチ・プロジェクト第4回@鶴見サルビアホール 2016.6.16

今日はパシフィカ・クァルテットによるショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲全15曲チクルスの4回目を聴きます。今回が最終回です。ショスタコーヴィチの人生、最後の10年間の作品を聴きました。瞑想と思索の海の中に沈み込んでいくような感覚に陥りました。一昨日に聴いた第12番のような激しい高まりはもうありません。苦難の時代を生き抜いたショスタコーヴィチが辿り着いたのは・・・?

今日のプログラムは以下のとおりです。

  ショスタコーヴィチ・プロジェクト

  パシフィカ・クァルテット
    シミン・ガナートラvn、 シッビ・バーンハートソンvn
    マスミ・バーロスタードva、 ブランドン・ヴェイモスvc

  弦楽四重奏曲 第11番 Op.122
  弦楽四重奏曲 第13番 Op.138

   《休憩》

  弦楽四重奏曲 第14番 Op.142

   《休憩》

  弦楽四重奏曲 第15番 Op.144

今日は第11番と第13番~第15番を聴きます。この第11番から第15番が作曲された時期はブレジネフ体制で文化人の活動が抑圧された時期です。この苦難の時期ではありますが、ショスタコーヴィチは世界的な名声と実績によって、比較的、自由に活動できたようです。しかし、ショスタコーヴィチも晩年を迎え、健康を害し、最期の時に向かっていきます。作品内容もノントナールの技法も用いて、瞑想的で思索的なものに収束していきます。かっての派手な勢いのスタイルは影をひそめます。自分の昔の作品やシューベルトやベートーヴェンなどの名作からの音型の引用が多いのも特徴です。人生の総決算といった風情でしょうか。最晩年の第14番、第15番では自分の死期を悟ったかのような音楽になり、聴く者も心を痛めずにはいられません。

まず最初の短い休憩前は第11番と第13番です。第11番は1966年の作。関係ありませんが、saraiが地方の進学校で高校生活を送り、ショスタコーヴィチの交響曲第5番に出会って夢中になって聴いていた頃です。出入りしていたレコード店のお兄さんにsaraiはショスタコーヴィチ好きとからかわれていました。コンサートの話に戻りますが、第1楽章の冒頭のノントナール風のメロディーを第1ヴァイオリンのシミン・ガナートラが美しくロマンティックに奏でます。実に瞑想的でうっとりと魅了されます。途中、少しの盛り上がりはあるものの、瞑想的な雰囲気のままに短い組曲のような全7楽章の曲は終わります。
休憩なしにそのまま第13番です。第13番は1969年から1970年の作。関係ありませんが、saraiが配偶者と出会って、交際を始めた頃です。ショスタコーヴィチの交響曲も第7番や第9番を聴き始めた頃です。このとき、ショスタコーヴィチに残された時間はもうわずか5年だったんですね。コンサートの話に戻りますが、ヴィオラの独奏で静かに音楽が開始され、またまた、第1ヴァイオリンの独奏で瞑想的な雰囲気にはいっていきます。4人の独奏が多いのも晩年の弦楽四重奏曲に共通した特徴です。じっと静かに息をひそめて聴き入ります。このホールに集まった100人の聴衆も同様に身じろぎもせずに静謐で思索的な音楽に耳を傾けています。まるでショスタコーヴィチを偲ぶ会を催しているかの雰囲気です。単一楽章で休みなく演奏された曲が静かに閉じてもしばらくは沈黙は破られません。

短い休憩の後、第14番です。第14番は1973年の作。関係ありませんが、saraiが配偶者と結婚した年です。生活が激変し、あまり、音楽に没頭できる時間がなくなりました。ショスタコーヴィチはもはや最晩年です。最後の交響曲もこの2年前に作曲されました。この曲は3楽章のシンプルな構成です。第2楽章の瞑想的で美しい音楽が耳に残ります。第3楽章のフィナーレで魅惑的でロマンティックなメロディーが演奏されると、もはや、残された弦楽四重奏曲は最後の1曲であることを痛感させられて、何かしら胸がしめつけられるような感慨を覚えます。このときのショスタコーヴィチは現在のsaraiと同世代だったんです。ところで最後のロマンティックなメロディーはショスタコーヴィチのオペラ《ムツェンスク群のマクベス夫人》の第4幕のカテリーナのアリアから引用されたものなんだそうです。心に沁みる音楽です。まるで弦楽四重奏で奏でられるオペラのようです。

休憩後、最後の第15番です。ショスタコーヴィチの死の前年の1974年の作です。全6楽章ですが、すべてアダージョで切れ目なく演奏されます。これこそ白鳥の歌というか、挽歌ですね。ショスタコーヴィチの音楽葬に列席している気分になります。第1楽章はエレジーと名付けられて、美しく静謐な音楽が流れます。第1ヴァイオリンのシミン・ガナートラの物悲しく、ロマンティックな響きを聴いていると、不意にこみ上げるものがあります。この音型はシューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と少女」から引用しているという話もありますがsaraiには聴き分けられません。ともかく、パシフィカ・クァルテットの演奏は素晴らしく美しいです。こんなに感極まるのはマーラーの交響曲第9番みたいに思えます。第2楽章のセレナード、第3楽章の間奏曲は運命に抗うかのように激するところもありますが、パシフィカ・クァルテットの演奏はダイナミックでありながら、美しいアンサンブルと独奏を聴かせてくれます。第4楽章の夜想曲はもうそれは美しく、瞑想的に暗い闇を表現する演奏です。パシフィカ・クァルテットの見事な演奏にただただ耳を傾けるのみです。第5楽章の葬送行進曲に入ります。ショスタコーヴィチが残してくれた音楽も終局に向かいつつあります。ホール全体に緊張感が漂っています。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」から引用した音型が痛切に響き渡ります。これも夜の闇のもうひとつの表現。ショスタコーヴィチは間近に迫った自分の死と向かい合って、敬愛したベートーヴェンの音楽を遺言のように残したんですね。まるでベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲のように思索的な表現が続きます。パシフィカ・クァルテットはショスタコーヴィチの音楽の伝道者であるかのようにひたすら音楽に奉仕するスタイルの演奏を展開します。saraiはその挽歌に耳を傾けるのみで頭の中は純粋な音楽で満たされます。最後の第6楽章のエピローグにはいります。ショスタコーヴィチも既に表現すべきことはすべて表現したのか、格段の展開はなく、肩の力の抜けたシンプルな音楽が流れます。パシフィカ・クァルテットは最後まで美しい音楽を奏でます。そして、そっと静かに密やかに音楽は消え去ります。この先は無。ショスタコーヴィチもパシフィカ・クァルテットもなすべきことはなして、すべては完璧に終わります。saraiも満足です。聴くべきものはすべて聴いて、何も思い残すところはありません。

パシフィカ・クァルテットのショスタコーヴィチ・プロジェクトにはただ感謝するのみです。最後の第15番が最高の音楽であり、最高の演奏でした。それも全15曲を聴けたからのことです。第12番も凄かったし、第8番も見事な演奏でした。第5番、第7番も忘れられない演奏でした。一人の天才作曲家の人生と音楽に没頭できた四日間でした。


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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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たかぼんさん、初めまして。saraiです。

嬉しいコメント、ありがとうございます。ブッシュ四重奏団は素晴らしいですよ。とりわけ、第14番は最高です。
もっとも、ブッシュ

09/17 02:04 sarai

とても素晴らしいお話をお聞かせ頂き感謝いたします。
私は今まで、後期の4曲はブダペスト四重奏団できまり!と思っておりました。
ブッシュ四重奏団は別なレコード(死

09/16 13:52 たかぼん

ミケランジェロさん、saraiです。

遅レスで申し訳けありません。敬愛するジョナサン・ノットをご評価いただき、ありがとうございます。

相変わらず、独自の音楽探求を続

06/23 23:50 sarai

こんにちは。

ジョナサン・ノット氏の公演鑑賞を拝読したく参りました。毎回とても沢山の公演記録を私達に届けて下さり、ありがとうございます。

マエストロは数年前のイ

06/14 08:27 michelangelo

えりちゃさん、コメントありがとうございます。
最終公演に行きますが、ムーティ&ウィーン・フィルは渾身の力で凄い演奏を聴かせてくれますよ。特にシューベルトは有終の

11/09 22:13 sarai

尻上がりに素晴らしくなりました!
あの弦の響きにもうハマるのですよ!
あと2公演ありますが、もう既に同じプログラムを2回演奏しているので、ますます良くなるか、ち

11/09 10:56 えりちゃ

えりちゃさん、お久しぶりです。saraiです。

なかなか、海外渡航の見通し、立ちませんね。来年あたりはどうでしょうね。長期戦覚悟で我慢するしかありませんね。

こちら

04/10 02:37 sarai
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