20世紀の作品と古典を組み合わせた王道を行くプログラムですが、その内容たるや、いずれも聴き応えのある曲ばかりです。逆に言えば、演奏する立場からは大変な曲ばかりでしょう。
前半はウェーベルンとショスタコーヴィチという20世紀の作品ですが、いずれも素晴らしい演奏。ウェーベルンの《弦楽四重奏のための5つの楽章》はノントナールの作品とは思えないような抒情に満ちた演奏が印象的で大変、感銘を覚えました。もちろん、切り込むべきところは鋭く、ダイナミックな演奏でもありました。10分ほどの短い作品ですが、永遠の時間を感じさせるような見事な演奏に聴き惚れました。
ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第2番は第1楽章こそ、あまりに響かせ過ぎの感でしたが、第2楽章以降は美しい響きと迫力のある響きを織り交ぜた見事な演奏が続きます。圧巻だったのは第4楽章の後半です。第4楽章は主題と変奏という古典的とも思えるパターンで始まりますが、それで終わらないのがショスタコーヴィチの面白いところです。後半は古典的なパターンから外れた壮絶とも思える展開になりますが、そのあたりでのパヴェル・ハース・カルテットの凄まじい演奏に身震いを覚えます。フィナーレの強奏では何か、悲しみを感じさせられました。ショスタコーヴィチの初期の大曲を会心の演奏で聴かせてくれました。
後半は正直言って、あまりに前半の演奏が素晴らしかったので、聴く前から不安感を持っていましたが、最初の1音を聴いただけでその不安感は払拭されます。演奏されるのはシューベルトの弦楽四重奏曲第15番。シューベルトが書いた最後の弦楽四重奏曲です。シューベルトはこの作品を書いた2年後、最晩年にチェロを加えた大作、弦楽五重奏曲を書きますが、この最後の弦楽四重奏曲も長大な長さの傑作です。パヴェル・ハース・カルテットはこのシューベルトをパーフェクトに演奏しました。響き、表現、アーティキュレーション・・・すべてが最高でした。これ以上の演奏は考えられないほどです。特に第2楽章の美しいメロディーのロマンティックなこと、うっとりと聴き惚れます。そして、第3楽章のトリオも美しい響きで魅了されます。圧巻だったのは第4楽章の迫力ある演奏。シューベルトの素晴らしさに酔いしれました。
今日のプログラムは以下です。
弦楽四重奏:パヴェル・ハース・カルテット
ヴァイオリン:ヴェロニカ・ヤルツコヴァ ヴァイオリン:マレク・ツヴィーベル
ヴィオラ:ラディム・セドミドブスキ チェロ:ペテル・ヤルシェク
ウェーベルン:弦楽四重奏のための5つの楽章 Op.5
ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 第2番 Op.68
《休憩》
シューベルト:弦楽四重奏曲 第15番 D.887
《アンコール》
ドヴォルザーク:弦楽四重奏曲第12番ヘ長調 Op.96, B.179『アメリカ』から第4楽章ヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ
アンコールはこのチェコのカルテットのお国もののドヴォルザーク。スメタナ四重奏団のヴィオラ奏者のミラン・シュカンパから直伝の素晴らしい演奏でした。何も言うことはない見事過ぎる演奏にただただ耳を傾けるのみでした。
ところで今日は聴き応えのある曲ばかりだったので、名演の誉れ高い録音をCDでしっかりと予習しました。
まず、ウェーベルンの《弦楽四重奏のための5つの楽章》で予習したCDは以下です。
ジュリアード四重奏団
ラサール四重奏団
エマーソン・カルテット
いずれも素晴らしい演奏です。ジュリアード四重奏団の先鋭的な演奏、ラサール四重奏団のソフィストケイトされた演奏を繰り返し、聴きました。でも、こういう曲はやはり、実演で聴くに限りますね。実に刺激的です。
続いて、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第2番で予習したのは以下のCDです。
ブロドスキー四重奏団
ルビオ・カルテット
特にルビオ・カルテットの豊かな響きで切れ込むような演奏の素晴らしさは最高です。
最後に、シューベルトの弦楽四重奏曲第15番で予習したのは以下のCDです。
ブッシュ四重奏団
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
メロス四重奏団
ブッシュ四重奏団はやはり素晴らしい演奏ですが、如何せん、録音が古過ぎます。カンパー率いるウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のウィーン風の演奏は最高に素晴らしいものです。メロス四重奏団は大変な迫力の演奏ですが、もっと抒情が欲しいところ。その点、今日のパヴェル・ハース・カルテットはとてもバランスのとれた見事な演奏でした。現代におけるシューベルト演奏の規範と言っても言い過ぎではないと思います。
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