いやあ、ただただ、参りました。物凄い演奏でした。こんなコンサートは生涯に何度、経験したことがあったでしょうか。今回のベートーヴェンの全弦楽四重奏曲のチクルスの4回目までも素晴らしい演奏が続きましたが、今日のコンサートは異次元のレベルでした。前半の弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132は、自分が如何にこの曲を理解していなかったのかを思い知らされるような、聴いたこともないような演奏でした。5楽章から成るアーチ型の構造の作品ですが、真ん中の第3楽章の慈愛、感謝、慰撫に満ちた深い味わいの音楽を中心に両端の第1楽章と第5楽章の物悲しい調べがしみじみと心に語りかけてきます。この曲だけはこれまでCDのブダペスト四重奏団の演奏が自分にとっての至高の演奏でしたが、今日からはこのロータス・カルテットが忘れられない最高の演奏になりました。前半で圧倒的な感動に浸り、後半はぬけがらのようになってしまって、音楽を聴く集中力を欠いてしまうのではないかと危惧しましたが、それは杞憂に終わります。ロータス・カルテットの冒頭の響きだけでぐっと音楽に引き寄せられます。弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ長調 Op.131はベートーヴェンが作り出した究極の音楽です。(最後のピアノ・ソナタのOp.111とはいい勝負かも・・・)
ロータス・カルテットはあり得ないような音楽を次から次へと提示します。ただ、茫然として聴き入るのみです。演奏はヒートアップし、最後の第7楽章は聴いたこともないような極上の世界に突入します。愛と哀しみ、力強さと寂しさ、希望と諦念、人生のあらゆる感情がないまぜになったような究極の音楽がホールの空間に満たされていきます。天国的な音楽ではなくて、現世を生きる人間が味わうことのできる最高の何かがそこにあります。ああ、生きてきて本当によかった・・・人生最高のものを与えられた喜びで深く、しみじみとした感動で頭が真っ白になります。感動の頂点でフィナーレです。こういう音楽を聴かせてくれた
ロータス・カルテットの4人に感謝するのみです。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
ロータス・カルテット ベートーヴェン・サイクル 2017
ロータス・カルテット
小林幸子vn マティアス・ノインドルフvn
山碕智子va 斎藤千尋vc
弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 Op.132
《休憩》
弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ長調 Op.131
音楽に感動するとともに、己の無知も恥じないといけません。正直、今回のチクルスを聴く前は、ある意味、
ロータス・カルテットをなめていました。日本人演奏家、それも巷でそれほど高名でないグループであることで、それほどは評価していなかったんです。今日の演奏だって、チクルスの4回の素晴らしい演奏を聴いてきたからこそ、ちゃんと受けとめることができたと思います。
ロータス・カルテットは少なくとも、ベートーヴェンを演奏させれば、歴史に名を刻むカルテットであると思います。まだ、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲CDが出ていないことが不思議なほどです。世間の評判はともかく、自分がこういうカルテットに出会えた幸運をただただ、喜びつつ、また、来年も日本でその演奏を聴けることを楽しみにしながら、本稿を閉じたいと思います。 いやあ、本当に凄かった!!
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!
テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽