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瑞々しくてロマンに満ちたシューベルト:ハーゲン・カルテット@トッパンホール 2017.7.3

今年のハーゲン・カルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2017〉と銘打った3夜連続のコンサート・シリーズはシューベルトとショスタコーヴィチの後期の作品を並べたものです。なぜ、シューベルトとショスタコーヴィチを並べるのか、不思議な感じです。昨年のコンサートで、バッハのフーガの技法とショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番を続けて演奏したことから考えて、彼らはバロック・古典派と現代のショスタコーヴィチの連続性を意識しているのかも知れません。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲は20世紀の作品の中ではバルトークなどと異なり、それほどの前衛性は感じません。とりわけ、今日の弦楽四重奏曲第3番は新古典的な色合いが多く、意外に古典派の作品と相性がいいかもしれません。

実際に今日、ショスタコーヴィチ、シューベルトと並べて聴くと、色んな思いが脳裏に浮かびます。前半のショスタコーヴィチはアンサンブルの整った見事な演奏で、特に新古典的な部分の美しさが際立っていました。この作品は戦争交響曲を作曲していた頃のものですから、もちろん、強烈に攻撃的な第3楽章などもありますが、全体的には、落ち着いて、抒情的とも思える音楽が支配的に思えます。先週聴いたアルディッティ・カルテットのとても前衛的なバルトークの演奏との違いに愕然とするほどです。まあ、ここでショスタコーヴィチとバルトークの比較をするつもりはありませんが、やはり、saraiにとって、バルトークは20世紀を代表する作品。ハーゲン・カルテットにしても、まさか、バルトークとシューベルトを並べたコンサート・シリーズは考えないでしょう。誤解のないように付け加えれば、saraiはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲も好きですよ。CDの全集で言えば、バルトークは9組、ショスタコーヴィチは6組、所有しています。それぞれの良さは認識しています。
話が脇道にそれましたが、話を戻しましょう。後半のシューベルトの弦楽四重奏曲第13番の見事さはショスタコーヴィチの比ではありませんでした。アンサンブルの精度の高さでは同等でしたが、ハーゲン・カルテットの体から滲み出てくるような音楽性の高さは尋常ではありませんでした。彼らにして、そういう演奏をさせてしまうシューベルトの偉大さを実感しました。このことを言葉にするのは困難ですが、こういうことではないかと思います。ショスタコーヴィチの音楽は高い知性がベースにあって、ソヴィエトの政治状況の中で屈折したとも思える音楽を作ってきました。時代に合わせて、新古典的な作風や民衆に分かりやすい熱い音楽を作ったり、滅法、絶望的とも思える沈痛な作品を作ったりということです。要するにショスタコーヴィチの音楽の本質は見極めにくいということです。ですから、演奏は客観的なクールなものが主流になりがちです。それを聴衆が自分の心で受け取って、それぞれの思いで解釈して味わうということになります。分析的な聴き方になってしまいます。一方、シューベルトは魅惑的な旋律を軸に素直に魂の深いところを音楽として表現します。若くして逝ってしまったシューベルトですが、その音楽のロマンは実に奥深いものがあります。今日のハーゲン・カルテットのように、それに共感した、しみじみとした演奏を聴かされると、誰しもシューベルトの魅力に参ってしまいます。分析も知性も必要なく、シューベルトの揺れ動くような魂の声にただ、共感すればいいんです。シューベルトがいかに偉大な音楽家であったか、このところ、saraiは痛切に感じることが多くなっています。今日もそのひとつ。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンも偉大でしたが、シューベルトの偉大さは光り輝きます。

曲それぞれの詳細な感想を書くべきところですが、今日はむしろ、ショスタコーヴィチ、シューベルトという音楽家について、そちらのほうに心が向いてしまいました。でも、ちょっとだけ。シューベルトの弦楽四重奏曲第13番の第1楽章の第1主題はシューベルトが初期に書いた歌曲《糸を紡ぐグレートヒェン》に基づいています。ゲーテの《ファウスト》を題材とした歌曲です。ファウストを一途に恋するグレートヒェンの心情が歌曲になっています。saraiはアメリンクの歌で親しんでいますが、グレートヒェンの心情を切迫した感じで歌いこんでいます。紡ぎ車を思わせるピアノ伴奏が歌に拍車をかけます。弦楽四重奏曲では第2ヴァイオリンがピアノの紡ぎ車を模しますが、至って抑えた表現です。そして、メロディーを演奏する第1ヴァイオリンも抑えた響きで切迫感はあまりありません。みしろ、しみじみとした郷愁を感じさせるような感じです。これは今日のハーゲン・カルテットに限った話ではなく、シューベルトがそのように弦楽四重奏曲では書き換えたんです。それはそうですが、ハーゲン・カルテットの抑えたけれども精度が高い演奏は、技術を超えて、音楽の本質に迫っていました。シューベルトの音楽の抒情性、ロマン、郷愁、瑞々しさ、そういうものがすべて表現されていて、最高の演奏でした。第2楽章の《ロザムンデ》に基づくメロディーも同様に素晴らしいものでした。(ちなみにこの《ロザムンデ》に基づくメロディーは晩年のピアノ独奏曲の傑作、即興曲Op.142の第3曲の素晴らしい変奏曲の主題になっています。saraiの大好きな曲です。)しかしながら、本当に素晴らしかったのは、第3楽章、そして、とりわけ、第4楽章でした。本当にシューベルトに寄り添った魂の音楽でした。抒情性はもちろん、ダイナミズムも見事でした。ダイナミズムが見事だからこそ、pの美しさが際立っていました。やはり、ウィーンの音楽の本質はpの美しさなんですね。(これは吉田秀和氏から学んだことです)

今日のプログラムは以下のとおりでした。

 〈ハーゲン プロジェクト 2017〉シューベルト&ショスタコーヴィチ ツィクルス I

ハーゲン・カルテット Hagen Quartett
    ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
    ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
    ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
    クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)

  ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲第3番 ヘ長調 Op.73

   《休憩》

  シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D804《ロザムンデ》

   《アンコール》

  シューベルト:弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 D87より 第3楽章 アダージョ


アンコールのシューベルトはCDで数度聴いたことしかありませんでしたが、とっても美しい演奏です。ハーゲン・カルテットにシューベルトの弦楽四重奏曲全集を出してもらいたいですね。ハーゲン・カルテットのシューベルトに魅惑されました。明日からの第14番、第15番がとっても楽しみです。


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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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はじめまして。ブログ拝見させていただきました。私は、個人ブログを運営しているyuichironyjpと申します。フリーランサーとして活動しており、フリーランスで稼ぐ方法や、

06/14 23:46 Yuichironyjp

ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico
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