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歴史を刻む田部京子のシューベルト・プラス 第2回@浜離宮朝日ホール 2017.7.14

何という未曽有の高みのピアノ・リサイタルでしょう。この言葉は実質、今年3回目ですが(アンドラーシュ・シフのベートーヴェンとシューベルトのソナタ、アンジェラ・ヒューイットのバッハ)、今日のピアノ・リサイタルが最高とも思えたほど、素晴らしい内容の演奏ばかりでした。それに田部京子の魅力的なこと・・・音楽も容姿もお人柄も。生涯、忘れ得ぬコンサートになりました。

いつも書くことですが、素晴らしい演奏を言葉で表現することは大変難しいことです。何とか表現してみましょう。田部京子の演奏は素晴らしいテクニックをベースとして、実に丁寧なアーティキュレーションとフレージングの表現が見事で、聴くものがその音楽にぐっと惹きつけられます。しかし、本当に凄いのはそういうことではなくて、彼女の優しく心の襞を撫でてくれるような深い詩情、あるいは味わい(初めて経験するような感覚なので適当な言葉が思い当たりません)に満ちた演奏です。
最初演奏されたベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタも世の大家たちをうならせるほどの充実度ですが、続くシューベルトの2曲はこれまで耳にしたことのないような最高の音楽が展開されて、魅了され尽します。その結果として得られるのは、頭が真っ白になるような感動ではなく、演奏の隅々までじっくりと味わい尽くした上で、その深い詩情に酔わされることです。

この人は世界の音楽史に名を刻むような最高のピアニストの一人として称えれる存在になるだろうとsaraiは確信しました。それほど、完成度が高く、芸術性も極上の演奏でした。もう、これ以上言うべき言葉は持ちませんが、一応、簡単にそれぞれの曲の演奏に触れておきましょう。

まず、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110、これはベートーヴェンの最後から2番目のピアノ・ソナタですが、第3楽章の演奏についてだけ、感想を書いてみます。嘆きの歌と呼ばれるベートーヴェンの絶唱が極めて美しく演奏されますが、フーガを挟んで2回目に登場するときは抑えた表現で切々と哀切に演奏されます。苦しいベートーヴェンの胸の内、あるいはすべての人の苦しみを代弁しているかのようです。フーガは1回目には、まるで水の波紋が広がるような実に自然でさりげないスタイルで演奏されますが、2回目には、まるで神の領域に上り詰めるような神々しい表現の演奏に変わります。そして、圧倒的なコーダで曲を閉じます。考え抜かれた知的なアプローチなのでしょうが、それを感じさせない深い味わいの演奏でした。田部京子はもはやベートーヴェン弾きと言ってもいいのではないかという境地にあるようです。

こんな素晴らしいベートーヴェンを最初に弾いてしまうと、後のプログラムが厳しいと思いましたが、それは杞憂です。続くシューベルトの4つの即興曲 D. 899 Op. 90は4曲とも最高に素晴らしい演奏です。第1曲の長さを感じさせない美しい演奏で幕を開け、第2曲の流麗な美しさ、第3曲の郷愁を感じさせる歌謡性、そして、圧巻だったのは第4曲です。この曲って、こんな風に演奏するのって、目を見開かせるような見事過ぎる演奏・・・いまだかって聴いたことのない最高レベルの演奏でした。

休憩後、シューベルトのピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D. 958です。これはシューベルトの最後から3番目のピアノ・ソナタですが、実際は最後の3つのピアノ・ソナタは同時並行的に作曲されたそうで、すべてが最後のピアノ・ソナタと言えるそうです。第1楽章の劇的かつシューベルトチックな表現の見事さ、第2楽章のうっとりするような抒情、第3楽章の気持の高揚、そして、終楽章のあまりにも魅惑に満ちたパッセージの数々が最高の表現で演奏されて、このピアノ・ソナタの素晴らしさが心に響きました。もちろん、今日の最高の音楽はこれでした。

もう、これだけで十分に満足しました。しかし、アンコールも2曲も弾いてくれました。それにしても、アンコールの最後で聴かせてくれたD. 935 Op. 142の即興曲(第2曲)の天国的な美しさはどうでしょう! この曲はシューベルトのピアノ曲のなかでもsaraiが最も愛する曲です。これまでも素晴らしい演奏の数々を聴いてきましたが、これはその中でも飛びっきりの最高の演奏です。うっとりと夢見心地になって、聴いていました。

今日のプログラムは以下です。

  田部京子シューベルト・プラス 第2回

  ピアノ:田部京子
 
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第31番 変イ長調 Op.110
シューベルト:4つの即興曲 D. 899 Op. 90

  《休憩》

シューベルト:ピアノ・ソナタ 第19番 ハ短調 D. 958

  《アンコール》

ベートーヴェン:6つのバガテル~第3曲 アンダンテ 変ホ長調 Op.126-3
シューベルト:4つの即興曲 D. 935 Op. 142~第2曲 アレグレット 変イ長調 Op.142-2

お世辞抜きで田部京子は日本を代表する・・・というか、世界的にも、ドイツ・オーストリアの古典を最高レベルで演奏するピアニストです。ちゃんと田部京子のソロのリサイタルを聴いたのは今日が初めてですが、またまた、己の不明を恥じるばかりの結果になりました。先日のロータス・カルテットに続いて、日本人演奏家の素晴らしさに感銘を受けました。
それにしても、今年はピアノの当たり年。アンドラーシュ・シフ、アンジェラ・ヒューイット、田部京子の3人の演奏は最高でした。しかも今年は彼らの演奏をまた、聴けます。アンドラーシュ・シフはもうすぐザルツブルク音楽祭で連続演奏会を、アンジェラ・ヒューイットは秋の来日リサイタルでバッハのパルティータ全曲を、田部京子はこのシューベルト・プラス・リサイタル・シリーズの3回目を聴きます。そうなんです。今日、会場で次の田部京子のリサイタルのチケットが先行発売されて、最上の席をゲットしました。次はシューベルトのピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 D. 959です。また、最高の名曲です。それにブラームスの晩年の傑作、4つの小品 Op.119も聴けます。音楽の楽しみは尽きません。音楽を聴きながら、老いていくのも、結構なものです。



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico

お返事ありがとうございます。
本当に!私もレイルジェットや美術館の手配もしているので、祈るような気持ちです。

03/10 19:06 kico
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