実は今日のコンサートには特別の思いがありました。スメタナの《わが祖国》全曲を生で聴いたのは今年が初めて。春のプラハ交響楽団の来日公演でした。指揮は今日と同じペトル・アルトリヒテル。その時のコンサートの感想の記事はここです。
そのコンサートでは、今日のコンサートこそ、スメタナの《わが祖国》全曲をイルジー・ビエロフラーヴェク指揮のチェコ・フィルで聴ける最高のコンサートだと疑っていなかったんです。ターリッヒ、クーベリック、アンチェル、ノイマンというチェコ・フィルの栄光の指揮者たちの系譜を受け継ぐビエロフラーヴェクで聴く《わが祖国》はさぞかし素晴らしい演奏になるだろうと気合を入れて、チケットを購入しました。その時点でのコンサートパンフレットはこれです。

さらに異例なことに、ご丁寧に別種のパンフレットまで印刷されました。

しかし、ある日、そのビエロフラーヴェクの逝去の報を聞くことになります。まだ、71歳の若さでした。これから、巨匠の道を歩いていくと信じていました。とても残念で、がっくりときました。せめてもの慰めは一昨年、ビエロフラーヴェクとチェコ・フィルのコンビの素晴らしい演奏をこの横浜みなとみらいホールで聴いておいたことです。スメタナの《わが祖国》の第3曲のシャールカ、ドヴォルザークの交響曲《新世界から》は最高の演奏でした。その時の記事はここです。
それにしても今年は読響でブルックナーを振る筈だったスタニスラフ・スクロバチェフスキが亡くなって、彼のブルックナーを聴くチャンスを逃したし、訃報の多い年です。心配していたハイティンクのマーラーの第9番は聴けましたが、11月に来日予定のブロムシュテットは御年90歳とのことで大丈夫か心配です。昨年の来日コンサートでブルックナーを聴く予定でチケットも購入していましたが、身内の突然の不幸があり、聴き逃しましたので、今度こそ、是非、聴きたいんです。
話を戻します。ビエロフラーヴェクの代役はきっと若いフルシャとかネトピルあたりかなと思っていたら、驚きのアルトリヒテルでした。そのパンフレットがこれ。3枚目のパンフレットになりました。

今日の演奏ですが、前述の通り、素晴らしかったんですが、前半の3曲は3曲目の《シャールカ》あたりから、おおっ、これは途轍もない演奏だと思い始めました。精密でダイナミックなアンサンブルであることが伝わってきたからです。しかし、本当に素晴らしかったのは後半の3曲です。4曲目の《ボヘミアの森と草原から》からは唖然として聴き入ります。見事としか形容できない演奏です。まさに神がかったような演奏です。ここに至り、ようやく、指揮者のアルトリヒテルとチェコ・フィルがビエロフラーヴェクへの追悼の思いで一つになって、特別の集中力を発揮していることがsaraiにも伝わってきました。最後の第6曲の《ブラニーク》、それもフィナーレあたりは感動なしには聴けません。何故か、saraiはこのチェコ・フィルの演奏が誇らしくなってきます。これほどの演奏をしていることに人間的に共感できるからです。首席指揮者だったビエロフラーヴェクへの思いが演奏に表れています。人間の思いでこれほどの音楽の高みに上れるとは、何て人間は素晴らしいんだろう。同じ人間として、チェコ・フィルのみなさんが誇らしく思えます。世界政治ではあまりにレベルの低い人間の醜い争いを見せつけられていますが、まだまだ、人間の文化は捨てたものではありません。文化を通して、人間の未来を信じたくなりました。天国のビエロフラーヴェクもきっと今日の演奏に満足してくれるでしょう。ビエロフラーヴェクに合掌!!
予習したのはもちろん、ビエロフラーヴェク。予習しながら追悼しました。
1990年録音 イルジー・ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル
今日のプログラムは以下です。
指揮:ペトル・アルトリヒテル
管弦楽:チェコ・フィル
スメタナ:連作交響詩《わが祖国》
第1曲 高い城(ヴィシェフラト)
第2曲 モルダウ(ヴルタヴァ)
第3曲 シャールカ
《休憩》
第4曲 ボヘミアの森と草原から
第5曲 ターボル
第6曲 ブラニーク
《アンコール》 ドヴォルザーク:《スラヴ舞曲第2集》第8番変イ長調 Op.72 (B147)
そうそう、アンコールの前にアルトリヒテルから短いスピーチがあり、逝去した首席指揮者ビエロフラーヴェクの思い出に捧げるということでした。アンコール曲のスラヴ舞曲は最高に美しい演奏だったことは言うまでもありません。
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