良くも悪くもいかにもアンリ・バルダらしさを貫いたピアノ・リサイタルでした。アンリ・バルダの特徴はその鋼鉄のような強靭で狂いのないタッチです。レベルは違いますが、ホロヴィッツを思い出させるところもあります。今の若いピアニストのようなシャープな演奏スタイルではありません。このバルダらしさを前面に押し出したようなスタイルでバッハを弾きまくりました。ペダルを多用して、思いっ切り、レガートをきかせて、ロマン派の音楽のような感じでバッハの傑作を大きな響きで弾いたんです。あまり、今時聴かないようなバッハですが、何せバッハの傑作は許容力に満ちていますから、これはこれで聴きものではあります。ところが今日のバルダはちょっと歯車が狂っていて、いつもの正確無比なピアニズムではありません。それなりに楽しめたのですが、さすがに聴き進むうちにその大時代的なバッハは耳にうるさく感じました。同じようなアプローチながら、名演奏を聴かせてくれたリヒテルの偉大さとは比肩できませんね。そうそう、リヒテルもロマンティックな弾き方ではありましたが、スローなテンポで静謐なバッハを聴かせてくれました。今日のバルダは正確さを欠いた上にテンポが速すぎて、せかせかした印象をぬぐえませんでした。パーフェクトなバルダが弾くバッハを聴きたかったところです。多分、それでもアプローチがsaraiには向かないような気がしますけどね。ちなみにバッハの平均律の中でもとりわけ傑作と思われる第8曲のフーガは演奏途中で止まってしまい、最初からの弾き直し。プロのピアニストが弾き直しするのは初めて聴きました。これもテンポがあまりに速すぎたためだと思われます。
シューベルトの即興曲はバッハとはまったく性格の異なる音楽ですが、バルダの同じようなアプローチが気になります。がんがん響かせて、速いテンポでの演奏です。saraiはしみじみとした演奏が好きなので、ちょっと引いてしまうところもあります。デモーニッシュなソナタでも聴いているような感覚に陥ります。そう言えば、今日のプログラムは当初、シューベルトの最後の遺作ソナタの第21番だったんですが、そのほうがよかったような気がします。
アンリ・バルダらしさは全開の演奏でしたが、選曲がよくなかったような気がしました。やはり、バルダにはラヴェルが一番似合います。
この日のプログラムは以下の内容です。
ピアノ:アンリ・バルダ
J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻
第1曲ハ長調BWV846
第8曲変ホ短調BWV853
第4曲嬰ハ短調BWV849
第19番イ長調BWV864
第20番イ短調BWV865
シューベルト:即興曲集 D.899
《休憩》
J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻
第23番ロ長調BWV868
第18番嬰ト短調BWV863
第12曲ヘ短調BWV857
シューベルト:即興曲集 D.935
《アンコール》
ショパン:即興曲第1番変イ長調 Op.29
J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻 第24番ロ短調BWV869
J.S.バッハ:平均律クラヴィア曲集 第1巻 第23番ロ長調BWV868
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽