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驚異の響き・・・ツィンマーマン、ガッティ&ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団@サントリーホール 2017.11.20

いやはや、世界に冠たると言っても過言でないオーケストラ、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の響きは尋常のものではありません。最初のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の出だしの響きを聴いただけで鳥肌が立ちます。ありえないような素晴らしい響きです。後半のブラームスの交響曲第1番に至っては、サントリーホールの空気がぶるぶる震えていることに驚きます。さらには座っている椅子までも共振しています。サントリーホールでこんなことってあったでしょうか。ウィーンの楽友協会では椅子がぶるぶると響くのは日常茶飯事ですが、同様の現象が日本でも起きるとはね・・・驚愕しました。音楽は空気の波が伝わることによる物理現象ですから、まあ、当たり前と言えば、当たり前ですが、それを体感することは滅多にありません。自宅の防音室では可能ではありますが、その大音響に耳が耐えられません。
どうやら、この超振動の正体はオランダ人の大男がかき鳴らすコントラバスにあるようです。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の響きは低弦の迫力がベースになったものです。この低弦の上に、美しい高弦や木管の響きが重なってくるんです。意外に金管がうるさくないのは超一流オーケストラの証ですね。そうそう、ティンパニもよく響きます。ちなみによく響くというのと、大きな響きというのは違います。このオーケストラの場合、ピアノでも響くんです。参考のために、saraiの席は第2列目でした。後方の席ではどうだったんでしょう。

さて、肝心の演奏についてですが、この驚異の響きで奏でられたブラームスは破格の素晴らしさでした。両端の楽章はもちろん、いつもは添え物に思えてしまう第2楽章、第3楽章の素晴らしかったこと。このブラームスは重厚で堂々たる演奏・・・骨太の演奏です。その中に馥郁たるロマンが内包されています。ベイヌムがこのコンセルトヘボウを振ったブラームスの再来に思えます。60年ぶりのことです。実は今日の指揮者ダニエレ・ガッティが首席指揮者になったというので、興味津々で聴きにいったんです。結果は上々です。1回聴いただけの印象ですが、ガッティを首席指揮者に迎えたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の将来は明るいとみました。正直、ガッティが首席指揮者になると最初に聞いたときは失望しましたが、やはり、実際に聴いてみないと分からないものですね。ガッティはイタリア・オペラの指揮者という固定観念があったので、この世界超一流のオーケストラの指揮者としてはどうかと危ぶみました。杞憂だったようです。ドイツ・オーストリア音楽の本流であるブラームスをこれだけ振れるのですから、本物です。ティーレマンのようなカリスマ的な人気には欠けるかもしれませんが、よい音楽を創造してくれれば、人気はあとからついてくるでしょう。ブラームスの交響曲第1番のとりわけ凄かったのは第4楽章です。絶対音楽の場に劇的な要素を持ち込むというのはマーラーを例にとるまでもなく、一般化した手法かも知れませんが、このブラームスの交響曲であたかもオペラティックな雰囲気を醸し出したのはオペラを得意にするガッティならではの表現だったような気がします。序奏でものものしい空気を作り出し、その後の展開をわくわくしながら待たせる中で、次第に霧が晴れていくように響きを明快なものにしていきます。そして、ホルンが鳴るところから、一気に音楽を開放していきます。あの《喜びの歌》もどきでカタルシスをもたらした後、主題が展開されて、音楽の山場を作り出します。そして、いくつもの山々を越えながら、終着点を目指していきます。この過程の音楽作りの素晴らしいこと。ガッティがコンセルトヘボウを完璧にドライブしていきます。そして、途轍もない頂に上り詰めていきます。フィナーレは速度を上げて突進していくのかと固唾を呑んで、聴き入っていましたが、そうではなく、インテンポで堂々たる最後を作り上げていきます。その見事な表現に感動しました。

前半のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲にも触れておきましょう。これも素晴らしい演奏でした。ブラームスと同様のコンセルトヘボウの素晴らしい響きに支えられて、ヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマンが見事な音楽を作り上げました。峻厳な表現の第1楽章、これはある意味、精神的な演奏とも言えました。このままの表現が続くのかと思ったら、一転して、第2楽章は優美な表情に変わります。美しい響きで空間を満たします。そして、第3楽章は清冽とも言える演奏で疾走します。天馬空を征くが如しといった態です。ツィンマーマンの自在な表現に魅了された素晴らしいベートーヴェンでした。それにしても、彼は変わっています。ソロ・パートだけでなく、オーケストラの第1ヴァイオリンのパートも一緒に弾いているんです。これではまるで、コンサートマスター兼任ではありませんか。ある意味、見ようによっては弾き振りにも見えます。で、彼は弾きっぱなしで忙しいんです。第1ヴァイオリンのパートを弾き終わったところで、そのまま、カデンツァなんて、曲芸のようなことをやっています。天下のコンセルトヘボウとの共演ですから、もっと自重したらいいのにね。もっとも音楽面では問題はありません。目を瞑って聴いていたら、分からないしね。ご苦労さま!!

そうそう、アンコールのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタはもちろん、素晴らしい演奏でしたが、あえて、緩徐楽章ではなく、アレグロを弾いたのは、いかにも彼の個性が出ていました。変な媚は売らないんですね。何というか、そのあっさりとしたところがいいです。

今日のプログラムは以下です。

  指揮:ダニエレ・ガッティ
  ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
  管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

  
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op.61

     《アンコール》 J.C.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調 BWV1003より、第4曲アレグロ

     《休憩》

    ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68


今回の予習はブラームスですが、今年の5月の読響のコンサートの折り、ただでさえ、これまで色んなCDを聴いている上にさらにたっぷりとCDを聴きました。まずはそのときの記事を引用しておきます。

***以下、引用***

聴いていなかったCDをたくさん聴きました。それも粒よりのCDばかりだったんです。予習したCDは以下です。

 1950年7月  フルトヴェングラー指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 1951年10月 フルトヴェングラー指揮北ドイツ放送交響楽団
 1952年1月  フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル
 1952年2月  フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル
 1951年 ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 1958年 ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
 1952年9月 トスカニーニ指揮フィルハーモニア管弦楽団
 1967年6月 シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団
 2002年9月 ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン

フルトヴェングラーは録音のよいウィーン・フィルとベルリン・フィルが素晴らしく、とりわけ、ウィーン・フィルとの演奏には圧倒されました。今回、一番の聴きものだったのはベイヌムです。今まで、ほとんど聴いたことがありませんでしたが、素晴らしいブラームスです。特に1958年の録音はステレオで音質も素晴らしく、聴き惚れてしまいました。ブラームスの残りの第2~4番を聴くのが楽しみです。トスカニーニは手兵のNBC交響楽団ではなく、伝説的なフィルハーモニア管弦楽団とのライヴ録音です。ある意味、トスカニーニらしくない、柔らかい演奏ですが、緊張感あふれる演奏でもありました。これも残りの第2~4番を聴くのが楽しみです。シュミット=イッセルシュテットの演奏は定評のあるものです。ステレオ録音ではありませんが、それを感じさせない音質です。やはり、世評通りの素晴らしい演奏でした。ハイティンクのブラームスは全集がアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団、ボストン交響楽団、ロンドン交響楽団の3種がありますが、このシュターツカペレ・ドレスデンとの第1番はロンドン交響楽団との全集録音の直前にライヴ録音したものです。演奏のコンセプトはロンドン交響楽団との演奏とほぼ同じで、大変、素晴らしいです。一昨年、ロンドン交響楽団との来日公演で聴いた最高の演奏を思い出しました。

***以上、引用終わり***

で、今回は上記の中で、ちょっと気になった演奏を再度、予習がてら聴いてみました。

 1952年2月  フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル

同じものですが、実はまったく同じではありません。フルトヴェングラーのCDの場合、同じ演奏でも、別のリマスターのCDが多いんです。前回聴いたのは、DGのFURTWANGLER THE ORIGINALS COLLECTIONの中の1枚です。今回はMEMBRANのフルトヴェングラー/ザ・レガシー 107の中の1枚です。これが素晴らしいんです。印象ががらっと変わりました。ベルリン・フィルのシャープで切れ込みのよい演奏をフルトヴェングラーが鮮やかにドライブしています。その2週間前に録音されたウィーン・フィルとの1枚といい勝負ですね。
今回は歴代のコンセルトヘボウの録音を聴いてみるのもよかったかななんて、今日の凄い演奏を聴いた後に思いました。と言っても、手持ちのCDは前回聴いたフルトヴェングラー、ベイヌム2枚に加えて、ハイティンクがあるだけです。あっ、カラヤンの若い頃のCDもありますね(1943年録音)。これも手持ちと言えば、手持ちですが、あまり、聴く気がしませんね。もちろん、シャイーもあります。

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 1932年 ヨゼフ・シゲティ、ブルーノ・ワルター指揮ブリティッシュ交響楽団 SP復刻
 1953年 ヴォルフガング・シュナイダーハン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル ライヴ録音

たいていのものは聴いていましたが、古いものは聴いていなかったので、これらを聴きました。クライスラーも聴くつもりでしたが、残念ながら時間切れ。
ヨゼフ・シゲティはNAXOSの復刻が素晴らしくて、音質がとても1932年とは信じられません。ヴァイオリンの高域の響きも見事に再生できます。しかし、それにもまして、シゲティの精神性あふれる演奏に圧倒されます。大変なヴァイオリニストだったんですね。ヴォルフガング・シュナイダーハンもそれに負けず劣らず、素晴らしい演奏を聴かせてくれますし、こちらはフルトヴェングラーの演奏が素晴らしいです。これもMEMBRANのフルトヴェングラー/ザ・レガシー 107の中の1枚で、素晴らしい音質です。



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じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
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07/08 18:59 sarai

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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