モーツァルトの作品の録音はほぼ収集できました。ハスキルのディスコグラフィーは以下のCDに付属しています。J.スピケの労作です。
Clara Haskil - The Unpublished Archives TAHRA TAH389/390
モーツァルト:ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調 K.466
52/12/19、チューリッヒ ハンス・シュミット・イッセルシュテット、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団
等
今回はモーツァルトのピアノ協奏曲第9番から第19番までの全録音について聴いた感想をまとめます。
ピアノ協奏曲第9番変ホ長調『ジュノーム』 K.271
(1)...52/05/23、シュトゥットガルト カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
第1楽章の冒頭、ハスキルのピアノはあれって言う感じの響きですが、中盤から持ち直し、第2楽章は満足の響き。第3楽章の終盤に至って、素晴らし過ぎる演奏に変貌し、圧巻のフィナーレ。シューリヒト指揮のシュトゥットガルト放送交響楽団は終始、かっちりした演奏で見事。ハスキルのピアノの響き・演奏の充実に伴って、素晴らしいサポートを見せます。
(2)...53/06/19、プラド パブロ・カザルス、プラド音楽祭管弦楽団(THARA)
凄い演奏!! これでピアノの録音がもう少し、よければ最高だったのにと思います。カザルスはモーツァルトの交響曲の名演奏を彷彿とさせる躍動感と陰影に富む素晴らしい演奏です。一方、ハスキルはそのカザルスに触発されたかのごとく、のびやかな演奏。第2楽章の深い表現には魅了されるのみです。圧巻なのは第3楽章。素晴らしいテクニックを駆使して猛烈な速さでパーフェクトに弾き切ります。まさにモーツァルトの音楽の真髄を極める名演。
(3)...54/03/01、ハーグ オイゲン・ヨッフム、バイエルン放送交響楽団(THARA)
全編、沈潜した気分の哀しみに満ちた演奏。特に第2楽章はまるでノクターンを聴いているような気分になります。ヨッフム指揮のバイエルン放送交響楽団は素晴らしい響きの演奏でハスキルのピアノにぴったりと合わせています。流石です。
(4)...54/06/11、ケルン オットー・アッカーマン、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS、MUSIC&ARTS)
音質が素晴らしいです。ハスキルのピアノの芯のしっかりした響きがよく聴こえます。音楽的には第3楽章の迫力が圧巻。わくわくしてしまいます。第1楽章は少し落ち着きに欠けるのが残念。
(5)...54/10/08-10、ウィーン パウル・ザッハー、ウィーン交響楽団(Philips)
素晴らしい演奏です。ザッハー指揮ウィーン交響楽団のウィーン風のオーケストラの演奏に乗って、ハスキルのピアノが優雅に響きます。第1楽章、第2楽章はその落ち着いた美しい響きにうっとりとします。ハスキルの最高の演奏です。第3楽章は少し勢いに欠けるのが残念です。セッション録音のためでしょう。それでも中間部の緩徐パートの美しい演奏からフィナーレにかけての演奏は素晴らしいです。音質はピアノの高音が少し割れ気味なのが残念です。
(6)...55/06/08、ローザンヌ イーゴル・マルケヴィッチ、フランス国立管弦楽団(INA)
暗く沈んだ、しかし、気品に満ちた演奏。音質は普通。ハスキルのピアノを中心にマルケヴィッチはサポートしています。
ピアノ協奏曲第10番変ホ長調 K.365
(1)...54/10/18、チューリッヒ ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、パウル・ブルクハルト、ベロミュンスタースタジオ管弦楽団(THARA)
これは素晴らしい演奏。音質も最高です。ハスキルのピアノの響きが素晴らしく、アンダとの息もぴったり。オーケストラも美しい演奏です。難点を言えば、モーツァルトの曲自体がもうひとつかな。
(2)...56/04/24-26、ロンドン(EMIアビー・ロード・スタジオ) ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、アルチェロ・ガリエーラ、フィルハーモニア管弦楽団(EMI)
録音が最高です。モーツァルトのセレナード的な響きが堪能できます。オーケストラの高域の伸びにも魅了されます。ハスキルのピアノは素晴らしく、また、アンダもハスキルのピアノと区別ができないほどの出来のよさ。ただ、ハスキルらしいピアノの粒立ちの響きは意外に聴き取れません。音楽的にレベルが高い演奏で、ハスキルのピアノうんぬんという聴き方はふさわしくないのかもしれません。この作品がとっても名曲に思えてしまうような素晴らしい演奏と録音です。スタジオ録音のよいところがいっぱい詰まったCDです。ステレオ録音に聴こえますが、そうなのでしょうか?
(3)...57/08/04、ザルツブルク音楽祭(モーツァルテウム) ゲザ・アンダ(第2ピアノ)、ベルンハルト・パウムガルトナー、カメラータ・ザルツブルク(Orfeo)
ライヴ録音なので、帯域が狭く感じられますが、聴きやすい音質ではあります。さすが、パウムガルトナーと唸らされるようなモーツァルトの音楽に仕上がっています。ハスキルの粒立ちのよい響きが聴けて、ハスキルのファンにはたまらない演奏です。アンダも次第にハスキルに同化して、見事な響きになっていきます。ハスキルの魔力のようなものが感じられます。ハスキルとアンダが共演した3つの演奏、それぞれ、素晴らしいです。総合力では56年のスタジオ録音。ハスキルのピアノが楽しめるのは57年のザルツブルクのライヴ録音というところです。
ピアノ協奏曲第13番ハ長調 K.415
(1)...53/03/30、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(Memories、URANIA)
これは間違いなく名演です。フリッチャイの指揮するオーケストラも素晴らしく歌っているし、ハスキルのピアノの流麗なこと、とってもチャーミングです。録音はぎりぎりセーフかな。ときどき、オーケストラがシャーと変な音をたてますが、素晴らしい演奏の前ではあまり気になりません。第3楽章の第2主題?のハスキルの究極の演奏にはうっとりするのみです。両端楽章は圧倒的な美しさです。
(2)...60/05/05-06、ルツェルン ルドルフ・バウムガルトナー、ルツェルン祝祭管弦楽団(DGG)カデンツァ:ニキタ・マガロフ
あまりの録音のよさにびっくり。それにステレオ録音なので、いつ録音したのか調べると、最晩年で亡くなる半年前。ハスキルのピアノの音がこんなに鮮明に聴けるのは感動ものです。やはり、彼女のピアノは音楽の微妙な陰影まで表現していて、凄いピアニストだったことを再確認。第2楽章も素晴らしく繊細な表現で見事な演奏です。これは録音がよくなければ分からなかったところです。ハスキルのピアノがこんなに明確に聴けて、嬉しいばかりです。何て素晴らしい演奏なんでしょう。バウムガルトナー指揮のルツェルン祝祭管弦楽団も美しい響きで、最高のモーツァルトの音楽がここにあります。同じCDに入っているモーツァルトのピアノ・ソナタ第2番K.280、キラキラ星変奏曲 K.265も会心の演奏です。ハスキルの素晴らしさを聴くのはこのCDしかないとも思えてしまいます。
ピアノ協奏曲第19番ヘ長調 K.459
(1)...50/09/23-24、ヴィンタートゥール ヘンリー・スヴォボダ、ヴィンタートゥール交響楽団(Westminster)
音が良いというLPレコードで聴きましたが、それ以前に録音時のピアノの響きがオーケストラに比べて、バランスが悪く(ピアノの音が小さい)、ハスキルのピアノの響きを楽しめません。迫力のある演奏なのに残念です。オーケストラは意外に音がよく、演奏もよかったので、これでピアノの音がちゃんと録れていればなあと思ってしまいます。
(2)...52/05/30、ケルン フェレンツ・フリッチャイ、ケルン放送(WDR)交響楽団(MEDICI MASTERS)
ハスキルのピアノの音が楽しめます。ハスキルの演奏が素晴らしいのは当然ですが、フリッチャイの指揮が素晴らしいこと。第3楽章の対位法的な展開の鮮やかさ、見事です。ハスキルのピアノ演奏もいかに技術が優れているか、驚くほど素晴らしいです。技術と音楽性の高さでモーツァルトの真髄を完璧に表現した演奏です。
(3)...53/01/20、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、RIAS交響楽団(THARA,AUDITE)
ハスキルの自然に内面から滲み出るようなリリシズムに感銘を受けます。それを可能にしたのは素晴らしいスタジオ録音とAuditeのリマスターです。ハスキルのピアノの響きを余すところなく味わえます。圧巻は第3楽章の対位法的なオーケストラ演奏に続く部分。ハスキルの見事なテクニックの演奏で圧倒的なフィナーレです。
(4)...55/09/21-22、ベルリン フェレンツ・フリッチャイ、ベルリン・フィル(DGG)
とても素晴らしい演奏です。ベルリン・フィルの美音に拮抗するハスキルの美音は素晴らしいの一語です。録音もとてもよいです。それにしても、ハスキルに寄り添うフリッチャイの指揮はいいですね。最高の相性です。
(5)...56/07/04、ルドヴィクスブルク カール・シューリヒト、シュトゥットガルト放送交響楽団(Hanssler Swr Music)
シューリヒトとハスキル、二人の素晴らしい芸術家がこれぞ協奏曲という見事な音楽を繰り広げてくれる最高の演奏。冒頭はシューリヒトのペースにハスキルが合わせたような感じですが、第1楽章の中盤からはハスキルらしい個性を発揮して、ピアノとオーケストラのバランスが絶妙です。それが最高に感じられるのが第3楽章。あり得ないような協奏が続きます。ハスキルの指が完璧にまわり切るのが見事です。
(6)...56/09/06、ブザンソン(市立劇場) イェジー・カトレヴィッツ、パリ音楽院管弦楽団(THARA,INA)
冒頭、カトレヴィッツ指揮のパリ音楽院管弦楽団は結構、雑な演奏に聴こえますが、かえって、そのあとのハスキルのピアノの精気に満ちた演奏が引き立ってきます。全楽章、ハスキルの生き生きしたピアノの響きが楽しく聴ける演奏です。最初は雑に思えたオーケストラも勢いに満ちた演奏に変わります。終わってみれば、とても気持ちのよい演奏でした。録音状態はあまりよくありませんが、音楽を楽しむことに無理がある録音ではありません。
(7)...57/10/04、ローザンヌ ヴィクトル・デザルツェンス、ローザンヌ室内管弦楽団(Claves)
録音は素晴らしいです。デザルツェンス指揮のオーケストラもなかなかの好演です。ハスキルはもちろん、いつものような素晴らしい演奏ですが、こういう良い録音で聴くと、弾いているピアノの響きが鄙びた音であることに気が付きます。多分、フランス製の少々古いピアノのような気がしますがどうでしょうか。スタインウェイのような華やかさがありませんが、こういう響きも興味深いです。ハスキルの純度の高い高音域の響きとはちょっと異なるので、ハスキルらしくない感じがします。何度か聴き込むとこういう響きもよいかもしれませんけどね。
(8)...59/02/19、パリ(シャンゼリゼ劇場) コンスタン・シルヴェストリ、フランス国立管弦楽団(INA、SPECTRUM国内盤)
これは最高の1枚です。迂闊なことにこれがステレオ録音だと知らずに聴き始めて、冒頭の聴衆の空気感からステレオ録音と知り、びっくり。音質もこれ以上ないほどの素晴らしさ。平林直哉氏の最高の仕事に感謝です。シルヴェストリ指揮のフランス国立管弦楽団の演奏はモーツァルトにしては少々、硬い印象ではありますが、立派な演奏には違いありません。そして、ハスキルのピアノをこんなに明確に聴いたのは初めての体験です。やはり、純度の高い響きで格調高い演奏です。ハスキル・ファンとしては感涙ものと言える素晴らしい演奏と録音です。ハスキルを代表する1枚と言えます。どうして、世の中でもっと評判にならないのか、とっても不思議です。第3楽章のハスキルの妙技、そして、それに触発されるかのように白熱するオーケストラ。これぞ、協奏曲と言える演奏に酔いしれるのみです。フィナーレで大変、感動しました。会場から沸き起こる拍手と一緒に思わず拍手してしまいました。まさにその場でライヴで聴いた思いになったからです。きっと、これからも繰り返し聴く愛聴盤になるでしょう。
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