倉橋由美子が2005年に69歳の生涯を終えたことを知ったのは迂闊にも昨年のことでした。彼女の小説でsaraiのお気に入りはいくつもありますが、やはり、桂子さんシリーズが一番のお気に入りです。1971年の『夢の浮橋』に始まる8作は素晴らしく魅惑的ですが、なかでも1985年刊行の《シュンポシオン》は深く心に残りました。シュンポシオンと言うのは、英語で言うシンポジウムのことですが、もっとギリシャの古典に遡り、哲学者や文化人が高度な議論を楽しむことを語源にしています。小説の中では文化的に秀でた人たちが音楽、文学、哲学などを語り合い、形而上的なことがらを楽しむ光景が綴られています。これって、saraiの夢のような話です。saraiはまだ能力不足ですが、このシュンポシオンに参加できるような人間であるべく、精進したいと思っています。で、この《シュンポシオン》にはふんだんに音楽がちりばめられています。なかでも桂子さんの孫娘の聡子さんがプロ並みの腕前でピアノを演奏するのが印象的です。小説なのでそのピアノの響きは聴けませんが、saraiの心の耳には仮想的に響いてきます。今日はこの《シュンポシオン》に登場する音楽を紹介してみたいと思います。それをもって、倉橋由美子へのオマージュとしたいと思います。
ちなみに何故、今日、この倉橋由美子の《シュンポシオン》のことを書き始めたのかと言うと、ある本を本棚で探していると、偶然、前に捨てたと思っていた倉橋由美子の本が見つかったんです。配偶者曰く、あなたの大事な倉橋由美子の本を捨てるわけはないでしょうとのこと。ところで探していた本はフリーマントルのチャーリー・マフィン・シリーズ。第13作~15作がないことが判明して、早速、ネットで注文しました。
ピアノの聡子さん以外にフルートのかおりさんが登場します。かおりさんは聡子さんと恋愛する宮沢明さんの義妹(亡くなった奥さんの妹)で聡子さんとは恋敵です。
では、以下に《シュンポシオン》に登場する音楽を列挙します。
スカルラッティ ピアノ:聡子さん 曲名は不明ですが、もちろん、ソナタ。そのうちの10曲ほどです。
サティ ピアノ:聡子さん 曲名は不明です(ジムノペディやグノシェンヌのようです)。
ディティユ ピアノ:聡子さん 曲名は不明です。
ルイ・フィゾー(架空の作曲家?、同名のフランス人物理学者はいる) ピアノ:聡子さん 曲名は不明です。
スカルラッティ アンドラーシュ・シフの音を評価するシーンがあります。1987年録音の演奏(15曲)をさすようです。所有していますが未聴です。聴いてみましょう。
モーツァルト ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330 ピアノ:聡子さん
ショパン 幻想即興曲(即興曲第4番)嬰ハ短調 Op.66 ピアノ:聡子さん
バッハ フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV1030 フルート:かおりさん ピアノ:聡子さん
バッハ パルティータ第1番変ロ長調 BWV.825 ピアノ:聡子さん かおりさんの即興フルート演奏付き
バッハ パルティータ第2番ハ短調 BWV.826 ピアノ:聡子さん かおりさんの即興フルート演奏付き
ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第5番ニ長調「幽霊」Op.70 No.1 演奏者不明 うるさく鳴りすぎると酷評
サティ ピアノ:聡子さん フルート:かおりさん 曲名は不明ですが、インプロヴィゼーションの即興演奏。
バッハ ピアノ:聡子さん フルート:かおりさん 曲名は不明ですが、インプロヴィゼーションの即興演奏。
ドビュッシー 子供の領分 ピアノ:聡子さん フルート:かおりさん インプロヴィゼーションの即興演奏。
マルセル・プルデュ(架空の作曲家?) フーガ ピアノ:聡子さん フルート:かおりさん インプロヴィゼーションの即興演奏。
バッハ フランス組曲第3番 BWV.814 ピアノ:グレン・グールド これは話に出るだけで実際には聴きません。グレン・グールドのバッハをお好きなようです。
ラモー クラヴサン曲集(「めんどり」 含む) シンセサイザー(ハープシコード):聡子さん フルート:かおりさん インプロヴィゼーションの即興演奏。
クープラン クラヴサン曲集 シンセサイザー(ハープシコード):聡子さん フルート:かおりさん インプロヴィゼーションの即興演奏。
バルトーク 野外にて ピアノ:レヴィ・モンタルチニ(架空のピアニスト?、同名のイタリア人女性神経学者はいる。)
ドビュッシー 喜びの島 ピアノ:聡子さん 話だけで実際には弾きません。ホロヴィッツの演奏の話も出ます。
バッハ ヴァイオリンとクラヴィアのためのソナタ第2番 イ長調 BWV1015 ヴァイオリン:増田くん ピアノ:聡子さん
サティ 右や左に見えるもの〜眼鏡無しで ヴァイオリン:増田くん ピアノ:聡子さん
バッハ ヴァイオリンとクラヴィアのためのソナタ第5番 ヘ短調 BWV1018 ヴァイオリン:増田くん ピアノ:聡子さん
バッハ フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ト短調 BWV1020 フルート:かおりさん ピアノ:聡子さん
ちなみにこの《シュンポシオン》は未来小説で、1985年に書かれたのですが、小説のなかで、時代は21世紀という設定になっています。ですから、昔聴いたピアニストのアンドラーシュ・シフという表現になっています(今も弾いていますけどね)。奇妙なことにこの小説が書かれたときにはまだ、シフのスカルラッティのCDの録音はなされていなかったので、saraiの知らない別の録音があるのかもしれませんし、もしかしたら、倉橋由美子がシフの実演でスカルラッティを聴いたのかもしれません。それにしても、この小説のなかには以上のように膨大な音楽が詰め込まれています。面白いのはベートーヴェンやブラームスはお好みでなく、シューベルトは話にも出てきません。ことさらにバッハの鍵盤音楽がお好みのようで、聡子さんのレパートリーには《フーガの技法》以外のほとんどの作品があることが書かれています。その《フーガの技法》も聡子さんに所望される場面があります。
サティ以外はsaraiも好みが共通します。saraiはベートーヴェン、シューベルト、シューマン、リスト、ブラームス、ラフマニノフ、プロコフィエフも好きですけどね。
とりあえず、倉橋由美子さんに遅ればせながら、哀悼の意を表しながら、シフの演奏するスカルラッティを聴くことにしましょう。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽