アンジェラ・ヒューイットの“バッハ オデッセイ”の6回目。ゴルトベルク変奏曲の全曲演奏です。
人生で一度しかコンサートが聴けないとしたら、迷うことなく、今日のこのコンサートを選ぶでしょう。まさにsaraiにとって、かけがいのない価値があるコンサートでした。
バッハは偉大です。そのバッハには、マタイ受難曲、ロ短調ミサ曲という西欧音楽の最高峰とも思える大傑作がありますが、saraiは器楽曲も愛してやみません。無伴奏ヴァイオリン・ソナタ/パルティータ、無伴奏チェロ組曲もあるし、鍵盤曲では最愛のパルティータ全6曲もありますし、平均律クラヴィーア曲集全2巻もあります。しかし、やはり、ゴルトベルク変奏曲は特別な作品であることが今日、はっきりと認識できました。意思薄弱なsaraiは明日になると、また、別のことを思うかもしれませんが、きっと、今日の
アンジェラ・ヒューイットが弾いたゴルトベルク変奏曲はsaraiの音楽体験の中で燦然と輝き続ける究極のコンサートになるでしょう。それほど素晴らしい音楽だったし、演奏でした。
演奏が始まる前は頭の中に不安感が渦巻いていました。1時間を超える長大な作品を集中力を切らさずに聴き続けられるかということです。また、一昨日のコンサートで少し体調が悪そうに思えた
アンジェラ・ヒューイットがこの長大な作品を休憩なしで最高のパフォーマンスで弾き切ることができるのかということもありました。まずはステージに登場した
アンジェラ・ヒューイットの様子を見て、一安心です。一昨日とは打って変わって、とても元気そうです。弾き始めたアリアの美しいこと。インテンポの演奏は格調の高さが感じられます。上々の滑り出しです。変奏が続きますが、何とかsaraiも集中力を保っています。最初の山は第9変奏です。3度のカノンの美しさが心に沁みます。第12変奏の4度の反行カノンも見事な演奏です。そして、期待していた第13変奏はゆったりとした素晴らしい演奏です。本当に美しい演奏に魅了されます。saraiの集中力も高まっていきます。続く第14変奏も素晴らしくて、いよいよ、前半の最後の第15変奏に入ります。最初のト短調の変奏で5度の反行カノンです。哀調を帯びた旋律に酔わされます。ここまでが前半ですが、
アンジェラ・ヒューイットの演奏は次第に精度の高い演奏になってきました。それにライヴとは思えないパーフェクトな演奏です。音の美しさも最高です。
後半、と言っても前半からそのまま連続して続きますが、第16変奏のフランス風序曲が荘重に奏でられます。この後、後半はすべての変奏が素晴らしくて、saraiの集中力も高まる一方です。アンジェラの演奏は第20変奏、第23変奏という、チェンバロの2段鍵盤の曲で冴え渡ります。耳だけでなく、目でもその超絶的な技巧が楽しめます。ト短調の残りの2つの変奏、第21変奏も第25変奏も美しくも哀しい演奏でうっとりと聴き惚れます。特に第25変奏が安っぽいロマンに走らずに格調高く弾かれたので、納得できました。第26変奏以降は水際立った凄い演奏です。2段鍵盤の曲を苦も無く、弾き切ります。そして、その技巧以上に素晴らしい音楽性に魅了されました。だんだん、終局に近づきます。第29変奏のトッカータ風のダイナミックな演奏を聴いて、気持ちが高揚していきます。そして、最後の第30変奏のクオドリベットで俗謡をベースにした演奏で曲調が変わります。懐かしさにあふれるようなフレーズで心が癒されるようです。フィナーレの高まりでsaraiも感極まります。感動の頂点です。最終音が長く引き伸ばされます。感動の心のままで最後のアリアが弱音で美しく始まります。アリアでさらに感動が高まり、音楽と心が一体化した思いです。何という音楽、何という演奏でしょう。アリアはスローダウンして静かに終わります。そして、長い長い静寂が続きます。saraiは感動のあまり、涙が流れます。CDを聴いていては味わえない音楽体験です。ライヴで聴いてこそのゴルトベルク変奏曲でした。
コンサートが終わっても、saraiの感動は続いていて、言葉さえ発することができません。同行の友人と駅で別れるまで無言のままでした。友人には申し訳ない態度を取ってしまいました。ブログを通じて、お詫びする次第です。ごめんなさい。
今日のプログラムは以下です。
ピアノ:
アンジェラ・ヒューイット J.S.バッハ・プログラム Odyssey Ⅴ
ゴルドベルク変奏曲(アリアと30の変奏曲)ト長調BWV988
《休憩なし》《アンコールなし》
最後に予習したCDですが、最近、ロバート・ヒルのチェンバロのリサイタルに向けて、チェンバロ演奏のCDを聴いています。以下、再掲します。
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予習は夭逝した天才チェンバロ奏者スコット・ロスの残した晩年の2つの録音を聴きました。
スコット・ロス 1985年 ライヴ録音 ERATO
スコット・ロス 1988年 セッション録音 EMI
いずれも素晴らしい演奏ですが、1988年の録音がsaraiの長い間の愛聴盤です。よりテンポがゆっくりでかみしめるように弾いています。
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ピアノ演奏のCDですが、実は今日、本番前の最終予習でまだ半分しか聴いていなかったアンジェラ・ヒューイットの旧盤を聴き、あんまり納得がいかなかったので、再度、新盤も聴いてしまいました。したがって、今日はアンジェラ・ヒューイットのゴルトベルク変奏曲を3回も聴いたんです(笑い)。今日のコンサートへのsaraiの思い入れが分るでしょう。今日聴いたアンジェラ・ヒューイットのCDは以下です。
アンジェラ・ヒューイット、1999年、セッション録音、スタインウェイのピアノ
アンジェラ・ヒューイット、2015年、セッション録音、ファツィオリのピアノ
再度聴き直した新盤の演奏は素晴らしいです。後述しますが、アンドラーシュ・シフの新盤、マレイ・ペライアと合わせて、2000年以降に録音された最高の3枚です。
アンジェラ・ヒューイット以外の予習CDは以下です。
クラウディオ・アラウ、1942年、セッション録音、モノラル
グレン・グールド、1955年、セッション録音、モノラル
グレン・グールド、1981年、セッション録音
ウラディーミル・フェルツマン、1991年、ライヴ録音、モスクワ音楽院大ホール
マレイ・ペライア、2000年、セッション録音、スイス
アンドラーシュ・シフ、2001年10月30日、ライヴ録音、スイス、バーゼル
いずれも素晴らしい演奏です。まず、ゴルトベルク変奏曲と言えば、再び、グレン・グールドの旧盤と新盤を聴いてみないといけないでしょう。saraiが初めてゴルトベルク変奏曲を聴いたのはこの旧盤。次に聴いたのは新盤。つまり、ゴルトベルク変奏曲はグレン・グールドがすべてだったんです。今再び聴いてみると、やはり、天才グレン・グールドでしか弾けないと思うところも多くあります。しかし、現在のsaraiの耳ではやりすぎに思える部分も多々あります。その中ではやはり、新盤に軍配を上げます。クラウディオ・アラウは今回初めて聴いてみましたが、これがアラウらしい構えの大きい素晴らしい演奏です。古い録音ですが、音の状態は十分、鑑賞に堪えます。晩年に再録音してくれなかったのは残念ですが、この録音でも十分に満足できます。マレイ・ペライアは何と言ってもその美音で魅了してくれます。すべての変奏がすべてベストではありませんが、変奏によってはベストと思えるものも多くあります。そして、最高の演奏はアンドラーシュ・シフの新盤(2001年)です。ライヴとは思えない素晴らしい音と演奏。パーフェクトです。今回、1982年録音の旧盤を聴く時間はありませんでしたが、この新盤を聴いてしまうとそれで満足してしまいます。1969年録音のヴィルヘルム・ケンプはアリアだけ聴きましたが、節回しが好みでなかったのでパス。1982年録音のソコロフもアリアだけ聴きましたが、これは美しい演奏。全曲聴く時間がなかったのが残念です。チェンバロもレオンハルト(1976年録音)くらいは聴きたかったのですが、これも時間切れ。若干、予習が不足気味ではありますが、今日の演奏が素晴らしかったので、まあ、いいでしょう。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽