鈴木優人氏が
バッハ・コレギウム・ジャパンに新設された首席指揮者についたということが告知されていて、びっくり。じゃあ、鈴木雅明氏はどうなるのって思ったら、そのまま、音楽監督だということです。鈴木雅明氏の発表文によると、
バッハ・コレギウム・ジャパンの継続性(ビジネスで言う事業継続性(Business Continuity)みたいなものかしら)を考慮したそうです。永遠に不滅な団体などはないけれどとも書かれていました。まあ、これでsaraiが生きているうちは
バッハ・コレギウム・ジャパンは不滅なようです。せいぜい、応援しましょう。
今日は首席指揮者就任記念コンサートになるそうですが、肝心の鈴木雅明氏の姿が見えません。何と今はミュンヘンにいるそうです。何故? ミュンヘンでバイエルン放送交響楽団を指揮して、メンデルスゾーンのオラトリオを演奏するそうです。凄いですね。鈴木雅明氏が世界進出するために
バッハ・コレギウム・ジャパンの今後を鈴木優人氏に託したというわけでしょうか。何ともおめでたいことです。歌舞伎の世界みたいですね。
で、その鈴木優人の本格的な指揮による演奏を聴くのは初めてのような気がします。とても素晴らしいモーツァルトを聴かせてくれました。才能全開です。これほどのモーツァルトを指揮するのは只者ではありません。親を超える才能かもしれません。
最初の交響曲第25番は第1楽章から、素晴らし過ぎる演奏です。こんな演奏を聴いたら、下手なモダン・オーケストラの演奏は聴けなくなります。ともかく、弦楽セクションの素晴らしいアンサンブルに驚嘆します。そして、それ以上に音楽表現の見事さに魅了されます。この曲は3回目のウィーン旅行でハイドンの中期の疾風怒濤の影響を受けて、ザルツブルクに帰着後1か月くらいに書き上げたと言われています。モーツァルトはまだ17歳でした。今日の演奏はモーツァルトの全人生を俯瞰した上で(もちろん、後の傑作のト短調交響曲の存在も頭に入れて)、ある意味、モーツァルトの全人格を描き出したような演奏に思えました。天才モーツァルトの憂愁や叫びが聴こえてくるような気さえしました。それが頂点に達したのは終楽章です。まだ、この時期、モーツァルトの音楽表現には物足りなさも感じられますが、それはあくまでも技法的な面だけで、その音楽は既に後期の音楽と変わらぬ境地に達していたようです。是非とも、鈴木優人&
バッハ・コレギウム・ジャパンでこの時期のモーツァルトの交響曲、第24番~第30番あたりをまとめて聴かせてほしいものです。
素晴らしい交響曲を聴いた興奮も冷めやらぬ時、次のコンサートアリア《私があなたを忘れるだって?…おそれないで、恋人よ》K.505が始まろうとしています。交響曲の後にコンサートアリアというのは、まるで、モーツァルト自身が開いていたコンサートみたいですね。このコンサートアリアの初演はモーツァルト自身がピアノを弾いたそうです。今日は鈴木優人がフォルテピアノの前に座ります。なんだかモーツァルトの生きていた頃のコンサートを聴くみたいで嬉しくなります。その嬉しさを倍増させてくれたのがソプラノのモイツァ・エルトマンの見事な歌唱です。最前列に座っていたsaraiのすぐ目の前に立って、美声を聴かせてくれました。モイツァ・エルトマンのファンであるsaraiは舞い上がりそうになりながら、ただただ、その歌声に魅了されていました。曲よし、歌手よしです。あれっ、鈴木優人のフォルテピアノは? やはり、音量が小さくて、地味に聴こえます。しっかり演奏していましたが、ここはエルトマンに花を持たせた感じになります。曲が終わっても嬉しくて、ずっとニコニコしていたsaraiです。
後半は今日のメインとなる《レクイエム》です。これも鈴木優人の素晴らしい指揮が光りました。とりわけ、冒頭から第8曲 ラクリモーサあたりは素晴らしいです。モーツァルトが死の少し前、このあたりを病床で弟子ジュスマイヤー、妻コンスタンツェとともに歌って、いくつかの箇所で涙を流したということを思い出すと、胸にジーンと来るものがあります。自分自身のレクイエムになることを自覚しながらの最後の作曲活動でした。鈴木優人の演奏はよくよく考え抜かれた音楽解釈と思われます。今後とも鈴木優人のライフワークとして、さらに熟成していってほしいと願います。そして、感動のフィナーレでした。合唱も見事でしたが、やはり、エルトマンのソプラノは最高です。よいものが聴けました。
最後の《アヴェ・ヴェルム・コルプス》は微妙です。大好きな曲ですが、《レクイエム》の後に演奏できる音楽は存在しないでしょう。前半のシメくらいにプログラムしたほうがよかったのでは・・・。
いずれにせよ、
バッハ・コレギウム・ジャパン、そして、鈴木優人の輝かしい未来が期待できる素晴らしいコンサートでした。
今日のプログラムは以下です。
指揮 フォルテピアノ(K.505):鈴木 優人
ソプラノ: モイツァ・エルトマン
アルト: マリアンネ・ベアーテ=キーラント
テノール: 櫻田亮
バス:クリスティアン・イムラー
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
コンサート・マスター:寺神戸 亮
オーボエ:三宮正満
すべて、W. A. モーツァルトの作品
交響曲第25番ト短調 K.183
アリア《私があなたを忘れるだって?…おそれないで、恋人よ》K.505
《休憩》
《レクイエム》 K.626
モーツァルト、アイブラー及びジュスマイヤーの自筆譜に基づく鈴木優人補筆校訂版
《アヴェ・ヴェルム・コルプス》 K.618
最後に予習について、まとめておきます。
交響曲第25番を予習したCDは以下です。
ニコラウス・アーノンクール指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (第25番,第29番,第35番,第36番,第38番,第39番~第41番) 1980~84年録音(第25番83年6月録音)
一応、これもオリジナル楽器派の録音ということで聴きましたが、アーノンクールもさすが、受けて立ったコンセルトヘボウ管もさすがです。
アリア《私があなたを忘れるだって?…おそれないで、恋人よ》を予習したCDは以下です。
モイツァ・エルトマン、エレーヌ・グリモー(ピアノ&指揮)バイエルン放送交響楽団室内管弦楽団 2011年録音
エリザベート・シュヴァルツコップ、アルフレード・ブレンデル、ジョージ・セル ロンドン交響楽団 1968年録音
チェチーリア・バルトリ、アンドラーシュ・シフ、ジェルジ・フィッシャー ウィーン室内管弦楽団 1990年録音
エルトマンの録音を始め、名ソプラノ・メゾソプラノと名ピアニストの録音が揃っていることに驚きました。この曲はまだ聴いていなかったんです。迂闊でした。今回、聴いた以外にも垂涎の演奏が揃っています。それもその筈、素晴らしい名曲です。今回3つの録音を聴きましたが、いずれもモーツァルトを得意とする歌手、ピアニストだけあって、独自のアプローチが素晴らしく、どれも聴き映えがしました。エディット・マティス&レオポルド・ハーガーやキリ・テ・カナワ&内田光子やバーバラ・ヘンドリックス&マリア・ジョアオ・ピリスなど気になる演奏が多々あります。
《レクイエム》を予習したCDは以下です。
ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン 1994年録音(第25番83年6月録音)
アンナ・マリア・パンザレッラ、ナタリー・シュトゥッツマン、クリストフ・プレガルディエン、ナタン・ベルク
ジュスマイヤー版でオリジナル楽器派の録音ということで聴きましたが、さすがに名匠クリスティ、しみじみとした演奏でこの音楽の素晴らしさを余すところなく、表現してくれます。胸にジーンとくる演奏です。こういう演奏を聴くと、モダーン・オーケストラ&合唱団の仰々しい演奏は聴けなくなりそうです。
《アヴェ・ヴェルム・コルプス》を予習したCDは以下です。
リッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィル、スウェーデン放送合唱団、ストックホルム室内合唱団 1987年録音
ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン 1994年録音
これはどんな演奏を聴いても心に沁みます。大好きな曲なんです。モダン・オーケストラとオリジナル楽器派の両方を聴きましたが、そんなに差異はありません。名曲はどんな演奏をしても名曲です。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽