実はイリーナ・メジューエワのピアノは初聴きです。前から聴きたいとは思っていましたが、なかなか機会がありませんでした。初聴きがオール・ドビュッシー・プログラムというのもよくないなとは思っていましたが、予想に反して、とっても素晴らしい演奏でした。彼女はロシア人ですが、20年前から日本で暮らして、音楽活動も日本中心ですから、日本人ピアニストと言っても構いませんね。ですから、今後も聴く機会は多いと思います。また、楽しみが増えました。
今日のプログラムは3部に分かれていましたが、第1部と第2部以降はまるで別人。第1部の前奏曲集 第1巻を聴いた段階では、ユニークなドビュッシーを弾くので、退屈しないな・・・でも、彼女のドビュッシーはまるでムソルグスキーの《展覧会の絵》みたいで、繊細さやエスプリよりも、大地に根差した構築力のある演奏だと感じます。なかなかいい演奏ではあるものの、きっとこれから彼女のコンサートに積極的に足を運ぶことはないだろうなと思っていました。ところが第2部が始まり、映像 第1集はさらに演奏レベルが上がり、とても素晴らしいです。でも、演奏スタイルは先ほどからのものを踏襲しています。しかし、次の映像 第2集になると、音の響きが急に純度を増します。それまで力強く、低音を奏でていた左手がすっと力が抜けて、右手の美しい響きが前面に出てきます。いやはや、素晴らしい響きに変身します。そして、第2部の最後の《喜びの島》は美しさを極めるような圧巻の演奏です。正直、びっくりしました。休憩中のピアノの調整のせいか、メジューエワの弾き方が変わったのか。メジェーエワの集中力が高まったような気がします。そして、いよいよ、第3部の前奏曲集 第2巻です。さらに純度を増したピアノの響きに魅了されるのみです。《月の光がふりそそぐテラス》あたりから、さらにぐーんと純度が増したピアノの響きは奇跡的な音色になります。最後の《花火》はもう超人的な演奏です。ラストスパートで、あらん限りの力を込めて、美しい響きで奏で上げた音楽の高揚感のいかに凄かったかはもはや言葉では表し尽くせません。驚異的な演奏でした。また、凄いピアニストと出会えました。
アンコールでもその絶好調さは持続して、最後の《月の光》の魅惑的な美しさはこれまで聴いたことのないものです。彼女のドビュッシー以外の音楽も聴いてみたくなりました。不意に頭に浮かんだのはストラヴィンスキーのペトルーシュカです。レパートリーにあるのでしょうか。
今日のプログラムは以下です。
ピアノ:イリーナ・メジューエワ
使用楽器:1922年製 NY STEINWAY‘Art-Vintage'(日本ピアノサービス 所有)
<オール・ドビュッシー・プログラム> 没後100周年記念
第1部: 前奏曲集 第1巻 Préludes, Premièr Livre
第1曲 デルフィの舞姫たち Danseuses de Delphes
第2曲 帆 Voiles
第3曲 野を渡る風 Le vent dans la plaine
第4曲 音と香りは夕暮れの大気に漂う Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
第5曲 アナカプリの丘 Les collines d'Anacapri
第6曲 雪の上の足跡 Des pas sur la neige
第7曲 西風の見たもの Ce qu'a vu le vent d'ouest
第8曲 亜麻色の髪の乙女 La fille aux cheveux de lin
第9曲 とだえたセレナード La sérénade interrompue
第10曲 沈める寺 La cathédrale engloutie
第11曲 パックの踊り La danse de Puck
第12曲 ミンストレル Minstrels
《休憩》
第2部: 映像 第1集 Images I
水に反映 Reflets dans l'eau
ラモーを賛えて Hommage à Rameau
運動 Mouvement
映像 第2集 Images II
葉ずえを渡る鐘の音 Cloches à travers les feuilles
そして月は廃寺に落ちる Et la lune descend sur le temple qui fut
金色の魚 Poissons d'or
喜びの島 L'Isle joyeuse イ長調
《休憩》
第3部: 前奏曲集 第2巻 Préludes, Deuxième Livre
第1曲 霧 Brouillards
第2曲 枯葉 Feuilles mortes
第3曲 ヴィーノの門 La Puerta del Vino
第4曲 妖精は良い踊り子 Les Fées sont d'exquises danseuses
第5曲 ヒースの茂る荒れ地 Bruyères
第6曲 風変わりなラヴィーヌ将軍 Général Lavine - excentrique
第7曲 月の光がふりそそぐテラス La terrasse des audiences du clair de lune
第8曲 オンディーヌ(水の精) Ondine
第9曲 ピックウィック卿を讃えて Hommage à S. Pickwick Esq. P.P.M.P.C.
第10曲 カノープ Canope
第11曲 交代する3度 Les tierces alternées
第12曲 花火 Feux d'artifice
《アンコール》
ピアノのための12の練習曲 Douze Études pour piano から 第11番 《組み合わされたアルペッジョのための練習曲 Pour les arpèges composés》変イ長調
ベルガマスク組曲 Suite bergamasque から 第3曲 月の光 Clair de Lune 変ニ長調
最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ
前奏曲集 第1巻 1978録音 ハイレゾ
前奏曲集 第2巻 1988録音
映像 第1集 1971録音
映像 第2集 1971録音
アンジェラ・ヒューイット
喜びの島 2011年12月録音 ベルリン、イエス・キリスト教会 (ピアノ/ファツィオリ)
ドビュッシーというとどうしてもミケランジェリのCDに手が伸びてしまいます。《喜びの島》は録音が残っていないので、アンジェラ・ヒューイットがファツィオリのピアノを弾いた演奏を聴きました。いつ聴いてもミケランジェリの演奏は切れ味鋭く、エスプリの香気の高い絶妙な演奏です。アンジェラ・ヒューイットも素晴らしい響きの演奏でミケランジェリのドビュッシー演奏に肉薄するものです。
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