内容に入る前にまず、これだけは特筆しておきたいと思います。ジェニファー・ラーモアがあり得ないほど素晴らしいアリア「牡山羊と牝山羊は」を歌ってくれました。史上最高のマルチェリーナです。愛嬌をふりまきつつ、その気概に満ちた歌唱には驚かされました。さらには、信じられないアジリタ! 凄い! チェチーリア・バルトリは別格として、最強のアジリタを聴いた思いになりました。
しかし、これはあくまでも今回のオペラ公演の一部です。全体の感想に移りましょう。とても書ききれないほどですが、特に印象に残った点だけを挙げておきます。
川崎公演と違って、まず、序曲が美しく響きます。あくまでも推定ですが、川崎はガット弦が一部使用されていたので響かなかったので、サントリーホールではガット弦を使用しなかったのではないかと思います。続く第1幕もすべてが素晴らしい内容でした。第2幕も見事です。川崎とは内容が大きく上回りました。すっかり、魅了されたまま、休憩に入ります。休憩後は川崎公演でも最高だった第3幕、第4幕です。これもさらなる素晴らしさです。第4幕の終幕のシーンは圧倒的です。体調不良で強行出演とアナウンスされたアルマヴィーヴァ伯爵役のアシュリー・リッチズが伯爵夫人に許しを乞う歌唱の素晴らしさにウルウルします。さらにミア・パーションの美し過ぎる歌唱で許しを与えられると、まるで自分が許されたような気持ちになって、感動の涙は止められません。終幕で一気に伯爵と伯爵夫人が主役に躍り出て、感動の歌唱が続きます。ミア・パーションの透明な高音に魅了されます。そして、心躍るフィナーレに突入。幸福感に包まれながらの感動の絶頂に至ります。
全体を通して、このオペラを盛り上げたのは、フィガロとスザンナを歌った美男美女コンビのマルクス・ヴェルバとリディア・トイシャーの二人。前回同様に絶好調のマルクス・ヴェルバの美声には同じ男性のsaraiもふらっとくるくらいのセクシーさを感じます。すべてのアリア、重唱、レチタティーヴォが完璧です。とりわけ、アリア「もう飛ぶまいぞこの蝶々」の声の響き、勢い、表現力はこれ以上ないほどです。この人はこんなに素晴らしいバリトンなのですね。第4幕のスザンナとの2重唱にも心を持っていかれました。書けばきりがないほどの見事な歌唱でした。そして、リディア・トイシャーは今日は第1幕の初めから好調で、幕を追うごとに調子を上げて、saraiは彼女の透き通った美しい声にすっかり参ってしまいました。美しいレチタティーヴォの歌唱を軸にレチタティーヴォ・アコンパニャートが素晴らしいです。ミア・パーションとの手紙の二重唱「そよ風によせて…」は美しさの極み・・・卒倒しそうな思いで聴き入りました。第4幕のレチタティーヴォとアリア「とうとう嬉しい時が来た~恋人よここに」で彼女の歌唱が絶頂を極めます。トイシャーのあまりの魅力に一挙にファンになってしまいました。
アルマヴィーヴァ伯爵夫人役のミア・パーションのフィナーレでの素晴らしさには既に言及しましたが、有名な2つのアリア、「愛の神様」、「あの楽しい思い出はどこに」では、実力を十分に発揮した出来栄えに感銘を受けました。彼女の存在感の重さを感じさせる歌唱はR.シュトラウスの《薔薇の騎士》の元帥夫人(マルシャリン)を連想してしまいました。彼女のゾフィーはバーバラ・ボニーと並んで、saraiのベストなのですが、元帥夫人も十分に歌えるんじゃないかとひそかに思いました。いずれにせよ、久しぶりに彼女の声を満喫できて幸せです。
ケルビーノ役のジュルジータ・アダモナイトは代役での出演でしたが、綺麗な声の持ち主。川崎ではちょっと落ち着かない歌唱もありましたが、今日は十分な歌唱。有名なアリアの2つを無難に歌いこなしました。
バルトロ/アントニオ役のアラステア・ミルズは演出監修も手掛けて、今回のオペラを成功させた功労者。歌唱も早口言葉を見事にこなしていましたし、ソフトな歌声にも感服しました。
バルバリーナ役のローラ・インコも美しい声の持ち主。この役ではもったいないくらいです。
バジリオ/ドン・クルツィオ役のアンジェロ・ポラックも美しい声の歌唱を聴かせてくれて、この役では十分過ぎる出来でした。
今回はコンサート形式のオペラですが、それなりの衣装も身に着けて、かなりの演技をこなしたので、下手な現代風の演出で音楽をぶち壊すよりもよほどよいと感じました。このコンサート形式が日本で定着しつつあるのは、料金の安さやステージが間近にあるメリットもあるので大歓迎です。
オペラの評価で言えば、やはり、ジョナサン・ノットの音楽面での貢献がすべてだったと思います。八面六臂の活躍はまるでモーツァルトが指揮しているみたいと言えば、ほめ過ぎでしょうか。ノット指揮の東響の演奏にますます、のめり込んでいきそうです。
これでジョナサン・ノット&東響のダ・ポンテ3部作がおしまいです。《コジ・ファン・トゥッテ》、《ドン・ジョヴァンニ》、《フィガロの結婚》を通して聴いてみて、《コジ・ファン・トゥッテ》、《フィガロの結婚》の2作の出来栄えが素晴らしかったです。まあ、僅差で《コジ・ファン・トゥッテ》が素晴らしかったかな。あれは本当に素晴らしかった! 今回もフィガロを歌ったマルクス・ヴェルバを起用したのが大成功でした。
そうそう、川崎もサントリーホールもカーテンコールが大いに盛り上がりました。今日は特に気に入ったジェニファー・ラーモアに“ジェニファー”と叫びかけたら、saraiに笑みを返してくれました。ありがとう、ジェニファー!
プログラムは以下です。
モーツァルト 歌劇「フィガロの結婚」全4幕
指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット
演出監修:アラステア・ミルズ
フィガロ:マルクス・ヴェルバ
スザンナ:リディア・トイシャー
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション
ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア
バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ
バルバリーナ:ローラ・インコ
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団
予習は前回書いた通りの2015年ザルツブルク音楽祭のヴィデオです。今日の公演はコンサート形式ながら、そのザルツブルグ音楽祭の公演を上回る内容でした。
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