fc2ブログ
 
  

ヒラリー最高! ヒラリー・ハーン、ヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィル@宮崎芸術劇場・アイザックスターンホール 2018.12.16

長年のヒラリー・ハーンのファンとしては一時不調だったヒラリーが復活して、また、高みを目指し始めた姿を目の当たりにして嬉しくなりました。今回の日本ツアーでは初回と2回目のオペラシティでのバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータの全曲を聴き、そして、ラストコンサートとなる今日の宮崎芸術劇場でのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を聴く場に駆け付けられて、とても満足です。今日の演奏はヒラリーの個性的なヴァイオリンの響きで聴ける最上のモーツァルトでした。もっとモーツァルトを得意にするヴァイオリニストはいますが、やはり、ヒラリーのファンとしては、彼女ならではのモーツァルト演奏が聴けるのは無上の喜びです。これまでの彼女のモーツァルト演奏では最高のものを聴かせてもらいました。優雅で格調高い演奏は無類のものでした。とりわけ、第3楽章のノリと熱い演奏は素晴らしかったです。とは言え、まだまだ、彼女のモーツァルト演奏は上を目指す余地も残されているでしょう。誰にも真似できないヒラリーのモーツァルト演奏の完成に向けて、一層の精進を期待したいと思います。
アンコールではつい10日ほど前に聴いたばかりのバッハの無伴奏ソナタを聴かせてもらいましたが、やはり、これは素晴らしいです。モーツァルトを弾いたときには天使に思えたヒラリーがバッハではミューズの如き、全能の存在に思えます。次回の来日時には、さらなる進化を遂げていることを疑いません。
これで前半のプログラムが終わり、今回のコンサートに足を運んだ目的を果たすことができました。

後半のシューベルトの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」は失礼ながら、ある意味、おまけのようなものです。パーヴォ・ヤルヴィと相性の悪いsaraiとしては、ほとんど期待していない演奏です。
ところがです。これまでに結構、パーヴォ・ヤルヴィの指揮は聴いてきましたが、今回は最高の演奏でした。ロマン派の交響曲の幕開けとも言える、この傑作を見事に表現してくれました。ベートーヴェンが完成した古典派の交響曲を引き継ぎ、詩的な要素をふんだんに盛り込んで、新しい道を示した記念碑的な作品の歴史的な意義を十分に表現して、さらにはベートーヴェンの交響曲第7番との関連性や交響曲第9番からの発展を示してくれました。さらに交響曲史で連なっていく、シューマン、ブラームス、ブルックナーへの展望も内包したような演奏は見事なものでした。演奏内容では、とりわけ、第4楽章の喜びやロマンの躍動の魅力に満ちた演奏は最高でした。

ちなみに、このシューベルトの最後の交響曲はチロルの温泉地のバード・ガシュタインBad Gasteinに滞在中にスケッチされたというのが最近は有力視されています(つまり、幻のグムンデン=ガシュタイン交響曲の正体はこの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」であろうということです)。プライベートなことですが、昨年、ザルツブルク音楽祭に行った際、その合間を縫って、このバード・ガシュタインに温泉を楽しむために訪れました。現在、当ブログでは、その際の訪問記をちょうど書いているところです。なんだか、不思議な暗合になったようで、嬉しくなります。

また、今年は特にシューマンに興味を持った年でsaraiにとって、《シューマンの年》のような感じです。つい先日まで、シューマン研究の学徒である前田 昭雄氏の書いた著書≪シューマニアーナ≫を読んでいました。その中でシューマンとこのシューベルトの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」の関わり合いについて詳述されていました。シューマンがウィーンでフランツ・シューベルトの兄フェルディナンドを訪れ、手つかずになっていたフランツの書斎を見せてもらい、そこで埋もれていた交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」の楽譜を発見して、ただちに盟友のメンデルスゾーンのもとにそれを送って、ライプツィヒ・ゲヴァントハウスで初演したのは有名な話です。シューマンがほどなく、その演奏を聴き、感激して、その夜、クララ・ヴィーク(まだ、クララとは結婚前)に手紙を書き、自分の理想とすることは、クララとの結婚と自分の交響曲を書き上げることだと告げます。そして、翌年の1840年にシューマンはクララとの結婚を果たし、さらに翌年の1841年には最初の交響曲第1番≪春≫を書き上げて、自分の理想を現実にします。ある意味、シューマンの人生が一番、輝いた時期でした。その中心にあったのは、このシューベルトの作品です。それなしにシューマンの交響曲は成立しなかったかもしれません。

色んな意味で今日、この作品の素晴らしい演奏を聴いたことはsaraiにとっての必然であったのかもしれないと密かに夢想しています。


今日のプログラムは以下です。

 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
 ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
 管弦楽:ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団

 モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲
 モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番 イ長調 「トルコ風」K.219
  《アンコール》 バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番 ハ長調 BWV 1005 から 第4楽章 アレグロ・アッサイ Allegro assai

  ≪休憩≫

 シューベルト:交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」D944

  ≪アンコール≫
   シベリウス:悲しきワルツ Op.44-1


最後に予習について、まとめておきます。

モーツァルトの歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲を予習したCDは以下です。今更、予習は必要ありませんけどね。

  オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団 1964年録音

重々しい部分と軽やかな部分がくっきりと表現された落ち着いた演奏です。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番を予習したCDは以下です。

 ヒラリー・ハーン、パーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ・カンマーフィル 2012年12月4&5日 ドイツ、ブレーメン
 アンネ・ゾフィー・ムター(Vn,指揮) ロンドン・フィル 2005年7月 ロンドン、アビーロード第1スタジオ

ヒラリー・ハーンはいかにも彼女らしい一途な美音を通したモーツァルトです。ヒラリーの信念の先にあるベストのモーツァルトです。まだ、完成形には至っていないかもしれませんが、現在のヒラリーの精華のような演奏です。一方、アンネ・ゾフィー・ムターのモーツァルトは相変わらず、ユニークな演奏で耳をとことん楽しませてくれます。ある意味、異形のモーツァルト演奏ですが、魅力がたっぷり詰まっています。二人の演奏を聴いて、色んな形のモーツァルトがあるのだと改めて実感させられました。

シューベルトの交響曲第8(9)番 ハ長調 「ザ・グレート」を予習したCDは以下です。

  レナード・バーンスタイン指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1987年10月録音

久しぶりに聴き直しましたが、安定していながら、熱情・ロマンに満ちた魅力的な演奏です。フルトヴェングラーのとんでもない名演はありますが、音質などを考慮した総合力では十分にわたりあえる録音です。



↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!



テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       ヒラリー・ハーン,
人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR