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シューベルティアーデ賛 田部京子@浜離宮朝日ホール 2018.12.19

田部京子の弾くシューベルトの遺作のピアノソナタ第21番 変ロ長調 D960を聴くことが念願でしたが、ようやく夢が叶いました。期待した通りの素晴らしい演奏でした。シューベルトの音楽の中で一番愛してやまぬ、この曲はこれまで内田光子、ピリス、ツィメルマン、シフという素晴らしいピアニストで聴いてきましたが、田部京子の演奏を聴いて、これで打ち止めでも構わないという心境に至りました。正直なところ、これまで聴いたピアニストよりも田部京子が断然優れた演奏をしたわけではありません。今日の田部京子は若干、精彩を欠いていたような印象です。しかし、田部京子はテクニックで聴かせるタイプのピアニストではなく、彼女の内なる詩情を心に訴えかける演奏を身上としています。その面では今日の彼女の演奏は誰にも真似のできない最高のものでした。長大な第1楽章はすべてのパッセージが強い意味を持って、心に迫ってきます。この音楽のずっしりとした中身の隅々までを彼女の演奏は描き尽してくれました。あの郷愁に満ちたメロディーが何度も表現を変えながら、心に響いてきます。トリルの異様な響きも今日はさりげなく、自然に心の闇をそっと開いてくれます。シューベルトの自由な心の飛翔によって、明も暗も、喜びも哀しみもすべてがこの第1楽章の中に表現されているかのようです。田部京子はシューベルトへの強いシンパシーを持って、深い音楽表現をピアノで聴かせてくれました。こんなに集中して、この第1楽章を聴いたことはありません。第1楽章を聴いただけでシューベルトの音楽をすべて味わい尽くしたという気持ちになりました。しかし、続く第2楽章の素晴らしい演奏・・・何も言葉になりません。ただただ、感動。美しい中間部を経て、また、憧れに満ちた主部に戻ってきた後の心の高揚は何ほどのものでしょう。シューベルトが書いた最高に美しい音楽をこれ以上はないだろうと思えるような感動的な演奏で聴かせてくれた田部京子。彼女の天才は彼女の心の内にあるようです。第3楽章はさっと切り替えて、とても美しいタッチの演奏。その見事な演奏に魅了されます。第4楽章もフォルティシモに高揚するところの素晴らしい音楽表現に心が共鳴します。コーダの手前でのためらうような表現に続いて、意を決したような勢いのコーダで感動的なフィナーレです。昨年聴いたアンドラーシュ・シフの演奏にも感動しましたが、これは田部京子だけが弾けるシューベルトです。音楽を聴いたのか、田部京子の心と触れ合ったのか、さだかではありませんが、今年をしめくくるにふさわしい素晴らしい演奏でした。

前半の演奏は冒頭がショパンの前奏曲 嬰ハ短調 Op.45でしたが、その美しい響きに唖然となりながら、聴き惚れました。緩やかな上昇音型が繰り返されますが、その美しさに心が翻弄されます。ショパンって、こんなに素晴らしい曲を書いたんですね。それにしても、田部京子はショパンさえもこんなに見事に弾けるとは驚きです。そう言えば、彼女のショパンを聴くのは初めてかもしれません。

次はシューマンの交響的練習曲です。これは期待したほどの演奏ではありませんでした。最後に弾くシューベルトに心がいってしまったのかも。それでも、遺作の変奏の4番、5番は夢見るような魅惑的な演奏。フィナーレの一つ前の第9変奏の美しさにも魅了されました。そう書いてみると、なかなか素晴らしい演奏だったのかもしれません。期待値が多き過ぎたためにもうひとつ満足できなかったにかもしれません。ほかのピアニストがこれだけの演奏をしたら、褒めまくるかもしれません。田部京子だから、これくらいの演奏では満足できなかったんです。

アンコールは3曲も弾いてくれましたが、どれも最高に美しい演奏です。吉松隆のプレイアデス舞曲集もグリーグも見事過ぎる演奏です。これなら、それらもいつかは聴いてみたいですね。田部京子の手にかかると、音楽が光り輝きます。天才のなせる業です。シューベルト(吉松隆編)のアヴェ・マリアは・・・何も言う必要のない演奏です。これを聴いて、今日はシューベルティアーデだったと悟りました。本来は11月19日のシューベルトの命日に開かれるべきリサイタルでしたが、ちょうど、1か月遅れでその命日に追悼を捧げたんですね。190年目の命日でした。心の中で合掌しました。

今日のプログラムは以下です。

  田部京子CDデビュー25周年記念 ピアノ・リサイタル

  ピアノ:田部京子
 
  ショパン: 前奏曲 嬰ハ短調 Op.45
  シューマン: 交響的練習曲 Op.13(遺作付き)

  《休憩》

  シューベルト: ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960

  《アンコール》

   吉松 隆:プレイアデス舞曲集 V Op.51から 第6曲 真夜中のノエル 
   グリーグ:君を愛すop.41-3 (オリジナルは歌曲Op.5-3)
   シューベルト(吉松隆編): アヴェ・マリア


最後に予習について、まとめておきます。

ショパンの前奏曲 Op.45を予習したCDは以下です。

 マルタ・アルゲリッチ 1975年10月 ロンドン

アルゲリッチの演奏した26の前奏曲集の中の1曲です。このアルバムはずっとsaraiの愛聴盤です。あの頃のアルゲリッチは凄かった!


シューマンの交響的練習曲 を予習したCDは以下です。

 田部京子 1999年8月 群馬県、笠懸野文化ホール
 アンドラーシュ・シフ 1995年

田部京子の演奏を聴き、驚愕しました。20年も前にこんな素晴らしい録音をしていたとは・・・。彼女のシューマンは聴き逃がせませんね。残念ながら、今日の田部京子の演奏はこの録音には及びませんでした。遺作の変奏曲の曲順はCDも今日の演奏も同じで、練習曲IXと変奏曲VIIIの間にまとめて5曲を挿入しています。アンドラーシュ・シフはいつもの彼の演奏と異なり、熱いロマンに満ちた演奏です。遺作の変奏曲の曲順はフィナーレの後に追加して演奏していますが、あえて、田部京子と同じ曲順に再編集して聴きました。まったく、違和感がありませんでした。田部京子の曲順は結構、いけそうです。ざっと調べた限りでは、彼女と同じ曲順で録音しているピアニストはいないようです。


シューベルトのピアノ・ソナタ第21番を予習したCDは以下です。

 田部京子 1993年10月 東京都あきる野市、秋川キララホール
 アンドラーシュ・シフ 1993年4月 ウィーン、楽友協会ブラームスザール ピアノ:ベーゼンドルファー

田部京子の録音は何と25年も前のものです。彼女のサードアルバムでした。saraiの所有するCDはその初出時のものではなく、シューベルトの録音、5枚をまとめたシューベルト:ピアノ作品集です。録音も1993年~2002年と10年にわたったものです。田部京子が若い頃に録音した第21番のソナタの演奏はとても素晴らしいものです。世界の巨匠たちの録音と比べてもトップクラスと言えます。ただ、いつの日にか、深化を遂げた田部京子の録音が出て、新旧録音を聴き比べるのがsaraiの夢です。アンドラーシュ・シフは新録音がありますが、フォルテピアノによるもので残念ながら、音が痩せていて、シューベルトの音楽を楽しめません。あえて、旧録音を聴きました。奇しくも田部京子が録音したのと同じ1993年です。シフの弾くベーゼンドルファーの響きは美しいレガートが印象的です。素晴らしい演奏ですが、昨年聴いた来日演奏での素晴らしさ(https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-2276.html)には及びません。シフにもベーゼンドルファーでの再録音をお願いしたいところです。今回は聴きませんでしたが、saraiの目下のベストはクララ・ハスキルの1951年録音です。20枚のCDを聴いた結果でした。そのときの感想を書いた記事はここです。https://sarai2551.blog.fc2.com/blog-entry-2270.html



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《あ》さん、saraiです。

結局、最後まで、ご一緒にブッフビンダーのベートーヴェンのソナタ全曲をお付き合い願ったようですね。
こうしてみると、やはり、ベートーヴェン

03/22 04:27 sarai

昨日は祝日でゆっくりオンライン視聴できました。

全盛期から技術的衰えはあると思いましたが、彼のベートーヴェンは何故こう素晴らしいのか…高齢のピアニストとは思えな

03/21 08:03 

《あ》さん、再度のコメント、ありがとうございます。

ブッフビンダーの音色、特に中音域から高音域にかけての音色は会場でもでも一際、印象的です。さすがに爪が当たる音

03/21 00:27 sarai

ブッフビンダーの音色は本当に美しいですね。このライブストリーミングは爪が鍵盤に当たる音まで捉えていて驚きました。会場ではどうでしょうか?

実は初めて聴いたのはブ

03/19 08:00 

《あ》さん、コメントありがとうございます。
ライヴストリーミングをやっていたんですね。気が付きませんでした。

明日から4回目が始まりますが、これから、ますます、

03/18 21:44 sarai

行けなかったのでオンライン視聴しました。

しっとりとした演奏。弱音はやはり美しいと思いました。
オンラインも良かったのですが、ビューワーが操作性悪くて困りました

03/18 12:37 

aokazuyaさん

コメントありがとうございます。デジタルコンサートホールは当面、これきりですが、毎週末、聴かれているんですね。ファゴットのシュテファン・シュヴァイゲ

03/03 23:32 sarai
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