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圧巻の日本デビュー!クルレンツィス&ムジカエテルナ コパチンスカヤもハチャメチャの快演 @Bunkamuraオーチャードホール 2019.2.10 プレミアムパーティー付き

凄い!!!! やはり、クルレンツィスは音楽の世界を変える。
ヴァイオリン協奏曲でのコパチンスカヤとの超高度な演奏による、めくるめく音楽を聴かせてくれたかと思うと、交響曲第6番では正面から正攻法で熱く燃え上がる音楽を聴かせてくれました。この超人の底知れぬ実力を見せつけられて、言葉を失うばかりです。
彼はある日、譜面から、ほかの人とは違う何かを読み取れる力が自分にあることに気が付いたそうですが、まさにクルレンツィスがどんな音楽を聴かせてくれるかは凡人たるsaraiには予想もできません。超有名曲のチャイコフスキーの交響曲第6番をどのように仕立て上げてくるのか、固唾を飲んで聴きましたが、両端楽章の凄まじい気魄の演奏は圧倒的でした。とりわけ、終楽章のディープな表現、真っ向から悲劇に突っ込んでいく真摯な姿勢には、ただただ、音楽を愛する者として、心の底からリスペクトの念を禁じ得ませんでした。

もう、これ以上書いても、賛辞の嵐だけになりそうですが、クルレンツィス&ムジカエテルナの初めての来日公演は今日が初日。saraiは東京での残りの2公演も聴きます。最後のサントリーホールでの公演を聴いた後で、総括します。今日の演奏にもう少し、触れておきましょう。

前半はパトリツィア・コパチンスカヤをヴァイオリン独奏に迎えて、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で、この記念すべき初来日コンサートを幕開けします。クルレンツィスが初来日でどんな演奏を聴かせてくれるのかが最大の関心事ですが、こと、このヴァイオリン協奏曲に関しては、パトリツィア・コパチンスカヤの天衣無縫とも思える演奏が素晴らしく、文句なしに彼女が主役です。どのフレーズをとってみても、コパチンスカヤの独特でありながら、音楽的に納得できる演奏が輝きます。真の意味で彼女の奏でる音楽に聴き惚れました。彼女もクルレンツィスと同様に、楽譜から、ほかの人には読み取れない音楽を汲み上げる能力が備わっているようです。これまで聴いたことのないようなチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴かせてくれました。自在のテンポ転換、究極の弱音表現、圧倒的なダイナミズム、それらがピタッとはまって、緊張感のある音楽世界を構築していきます。第1楽章が終わった時点で、これまで音楽を聴いてきて、味わったことのないような感覚に襲われます。脳の深部がジーンと痺れるような感覚です。新しい感動の形なのかもしれません。あっ、書き忘れましたが、クルレンツィス&ムジカエテルナもコパチンスカヤの演奏に連動するかのごとく、物凄い演奏をしてくれました。オーケストラ全体がひとつの有機体のようにコパチンスカヤのハチャメチャとも思える自在な演奏に対して、パーフェクトに絡み合っていきます。クルレンツィスの指揮能力は異次元レベルです。こんな繊細な指揮って、初めて見ました。コパチンスカヤがどんなに勝手な演奏をしても、クルレンツィスは即座に応答します。というか、クルレンツィスがコパチンスカヤのやりたい放題を助長して、協奏曲の奥義を極めているような感さえ覚えます。
第2楽章にはいると、コパチンスカヤはヴァイオリンの響きを極限まで抑えて、弱音で奏で始めます。静謐というよりも、弱音による緊張感の増大です。無論、クルレンツィスもオーケストラの響きをコパチンスカヤ以上に抑えて、まるで聴力検査のような緊張状態を醸し出します。普通の演奏は美しいメロディーを歌い上げるところですが、彼らは異形の演奏を続けます。正直、これが正解の演奏かどうかは即断できませんが、聴き入ってしまったのは事実です。
第3楽章はコパチンスカヤの独壇場。これでもか、これでもかと、彼女しか表現できないような独特のフレーズを投げかけてきます。その圧倒的な音楽性に驚嘆するだけです。目まぐるしいテンポの変化とそれに見事に呼応するクルレンツィス指揮下のムジカエテルナのスリリングな音楽の魅力にとらわれているうちに、いつしか、音楽は高揚して、大団円を迎えます。圧倒的な盛り上がりのコーダにまたも、脳の深部がうずきます。異次元の音楽でした。
アンコールは3曲。まるでコパチンスカヤのミニコンサートのようになりました。素晴らしい演奏だったことは言うまでもありません。リゲティが聴き応えがありましたし、3曲目はコパチンスカヤの声入りの大熱演。クルレンツィスは初来日にあえて、コパチンスカヤを同道した意味が分かったような気がしました。

後半はチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。前半のコパチンスカヤとの協奏曲を聴いた後では、えらく、普通の演奏に聴こえてしまいますが、ある意味、正統派の演奏と言えるかもしれません。ただし、徹底的に練り上げた完璧主義者のクルレンツィスだけがなしうる演奏です。第1楽章から全開モードで、悲痛な叫びが聴こえてきます。とても突っ込んだ演奏です。この「悲愴」からはクルレンツィスお得意のオーケストラ奏者が立っての演奏スタイルですが、奏者たちがあまり体をゆすらないで演奏しているのに驚きます。以前はクルレンツィスの体の動きに連動して、全員が体をゆすっていましたが、この曲の深刻さに鑑みて、生真面目に演奏しているんでしょうか。
第2楽章、第3楽章は抑え気味の演奏です。まるで来たるべき第4楽章にエネルギーを溜め込んでいるかのようです。
第4楽章は冒頭から、物に憑かれたような凄い演奏が始まります。クルレンツィスはこの第4楽章にすべてをかけているようです。悲痛で深刻な音楽がディープに奏でられます。クルレンツィスは全身全霊を傾けて、音楽を高潮させていきます。人間の避けることのできない死に向かって、抗うのか、あるいは突き進むのか、熱くて力強い推進力の音楽を激しい気魄で歌い上げます。消え去るようなフィナーレではなくて、何かの思いを秘めたようにぷっつりと曲を閉じます。それは再生への思いなのか、永遠の闇への思いなのか・・・長い長い静寂の時が続きます。ふと、saraiは思います。いつか、クルレンツィスはマーラーの交響曲第9番を演奏するとき、第4楽章をどう閉じるのか。どういう思いで閉じるのか。恐ろしいほど長い静寂の時間を演奏者と聴衆が共有しました。これがチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」ですね。

この記念すべきコンサートの終了後、プレミアムパーティーに参加しました。クルレンツィスの生真面目極まりないスピーチの後、彼の『カンパイ』の音頭でワイングラスを掲げました。チャーミングなコパチンスカヤとも長身のクルレンツィスとも握手を交わせて、saraiはご機嫌モード。配偶者は優しく見守っていてくれました。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:テオドール・クルレンツィス
  ヴァイオリン: パトリツィア・コパチンスカヤ
  管弦楽:ムジカエテルナ

  チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
   《アンコール》
     ミヨー: ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのための組曲 op.157bから 第2曲
       (ムジカエテルナ首席クラリネット奏者とデュオで)
     リゲティ: バラードとダンス(2つのヴァイオリンのための編曲)
       (ムジカエテルナ・コンサートマスターとデュオで)
     ホルヘ・サンチェス=チョン:クリン(コパチンスカヤに捧げる)

   《休憩》

  チャイコフスキー: 交響曲第6番 ロ短調 Op.74 「悲愴」

最後に予習について、まとめておきます。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は以下のCDを聴きました。

 ワディム・レーピン、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮キーロフ管弦楽団 2002年7月2~4日、フィンランド、ミッケリ音楽祭 マルティ・タルヴェラ・ホール ライヴ録音

ともかく、色んな意味でバランスに優れた演奏です。レーピンは安定感もありますが、野性味もあり、第3楽章の迫力は凄まじいものです。特筆されるのはゲルギエフのチャイコフスキーの深い解釈で感銘を受けます。にもかかわらず、何となく、この演奏を最高だと感じないのは何故でしょうか。やはり、ヴァイオリンの響きに人を惹き付けてやまない魅力がもう一つということでしょうか。

 ヤッシャ・ハイフェッツ、フリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団 1957年録音 ハイレゾ

やはり、ハイフェッツは天才ヴァイオリニストであることを痛感しました。ハイレゾの素晴らしい音で聴くと、彼が持てる最高の技量のすべてをチャイコフスキーの傑作音楽のために捧げていることがしっかり実感できます。すべての楽章が最高の演奏でsaraiの感性が刺激され尽くします。とりわけ、第2楽章の中間の木管ソロとの競演はシカゴ響の名人たちとの凄すぎる響きに呆然としてしまいます。これぞ天国の音楽です。ハイフェッツの魅力を堪能できる最高の1枚です。

 アンネ・ゾフィー・ムター、アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィル 2003年9月、ムジークフェライン ライヴ録音

これは隠れた名盤ですね。ちょっと聴くとムターのくせのある弾き方が気になりますが、だんだんと彼女の素晴らしい響きと音楽の魅力に惹き付けられていきます。ともかく、カラヤン自身の音楽は好みませんが、カラヤンが見出した音楽家はすべて素晴らしいです。そういうカラヤンの音楽家を見出す力は天才的とも思えます。もちろん、ムターはカラヤンとの録音もありますが、それは聴いていません。ちなみにカラヤンが見出した才能の一人がミレッラ・フレーニです。話をムターの演奏に戻しましょう。この演奏はすべての楽章において魅力的ですが、特に第3楽章のフィナーレの凄まじさには心躍るものがあります。ウィーン・フィルはさすがの演奏です。

 リサ・バティアシュヴィリ、ダニエル・バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリン 2015年6月 ベルリン

バティアシュヴィリの官能的な美音が聴きものですが、ザルツブルク音楽祭で聴いた実演と比べると、恍惚的な陶酔感は味わえません。やはり、彼女はライヴでのみ、その本質が聴けるヴァイオリニストです。その点、ムター姉御はセッション録音でも毒をはらんだ魅力を発散してくれます。いやはや、音楽は難しい。

 アイザック・スターン、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団 1958年3月録音 セッション録音

セッション録音の素晴らしさを満喫させてくれます。録音も演奏も最高水準です。やはり、アイザック・スターンは名人ですね。ライヴのようなスリル感はありませんが、それはないものねだりでしょう。

 ダヴィッド・オイストラフ、ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ・フィル 1968年 ライブ録音

スターン盤がセッション録音の最高水準をいくものだとすれば、このオイストラフ盤はライヴ録音の素晴らしさを満喫させてくれます。そのたっぷりしたスケール感のある演奏は他のヴァイオリニストとの格の違いを見せつけるかのごとく、これぞヴィルトゥオーゾという極上の演奏です。これは何度聴いても、また、聴きたくなるような最高の演奏です。もっともsaraiが聴き馴染んできたのはオイストラフがオーマンディと組んで演奏したセッション録音盤です。あれも素晴らしいんですが・・・。

 パトリシア・コパチンスカヤ、テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナ 2014年5月、ペルミ国立チャイコフスキー・オペラ&バレエ劇場

今回、聴くコパチンスカヤとクルレンツィスのコンビでの演奏です。正直、唖然としてしまいました。配偶者はこれは同じチャイコフスキーの協奏曲なのって、訊くくらいです。もちろん、賛否両論あるでしょう。明らかにコパチンスカヤが主導権を持った演奏ですが、その天衣無縫とも言える演奏にぴったりとオーケストラをつけるクルレンツィスも凄い。終いには両者がやりたい放題にやって、楽趣は尽きることがありません。saraiはやりたい放題でありながら、音楽性を失わない、こういう演奏は好きですよ。一体、生での演奏はどうなるのか、楽しみです。おとなしく合わせるのか、もっと、ばりばりと演奏して、崩壊するのか、予測はできません。


チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」はもちろん、予習は不要ですが、これだけは聴いておかねばという以下のCDを聴きました。

 テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナ 2015年2月9-15日録音 フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセ

コパチンスカヤとのヴァイオリン協奏曲を聴いた後でこれを聴くと、あまりに普通の演奏に聴こえてしまいます。やはり、コパチンスカヤが加わるととんでもないことになるようです。とはいえ、この演奏も第4楽章に至ると、普通聴く、深刻な音楽とは一線を画します。芯の通った強さがずっと持続します。人は強く前を向いて、己の厳しい人生に立ち向かっていくというメッセージ性も感じます。しかし、そういうことではなく、不要な人間ドラマを排して、音楽の高みを目指した演奏なのかもしれません。クルレンツィスの音楽への精進のようなものが実演で聴けるのでしょうか。



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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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