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チャイコフスキーの音楽の本質を描き尽したクルレンツィス&ムジカエテルナ@サントリーホール 2019.2.13

3回にわたるクルレンツィス&ムジカエテルナの日本デビュー公演を聴き終えて、最高の充足感にふけっています。当初、彼らの日本デビューがオール・チャイコフスキーのプログラムであると聞いたときは、何で?と思ったのは事実ですし、招聘元も「2019年はクルレンツィスがチャイコフスキーに集中する年ということでクルレンツィスの意向なんです」と言い訳っぽい説明をしていたことを思い出します。ちょうど1年前の話です。公演を聴き終わった今、何故、チャイコフスキーだったのか、それなりに理解できました。そもそも、チャイコフスキーでどこが不満と思ったのか、自分に問いかけたい思いです。ともあれ、クルレンツィスをザルツブルク音楽祭で昨年、一昨年と聴いた上で、今回の来日公演でチャイコフスキーの音楽をじっくりと聴いたので、クルレンツィスとは何者かということがおぼろげながら分かってきました。

当たり前のことですが、クルレンツィスは音楽に真正面から取り組む、生真面目過ぎるほどの人だということを感じました。オリジナル演奏で超個性的な音楽を表現するというのも彼の音楽へのアプローチ姿勢の一面が現れたものでしょう。今回のチャイコフスキーの音楽表現では、コパチンスカヤと共演した演奏での超個性的な音楽もありましたが、あれはコパチンスカヤのスタイルによるところが大きく、それ以外では、真正面からチャイコフスキーの音楽に取り組んだ、ある意味、ノーマルなスタイルの表現が支配的でした。その上で、クルレンツィスの音楽表現が深くて、美しいことに驚きました。チャイコフスキーの演奏では、これまで、ムラヴィンスキーやスヴェトラーノフが神格化されていて、もちろん、saraiも大好きですが、そういう、言わば正統的なチャイコフスキーの表現者たちと、正面から堂々と渡り合い、あるいは凌駕するレベルにクルレンツィスが達しているとsaraiは感じたんです。もちろん、これはクルレンツィスが持っている音楽能力の一部をチャイコフスキーの音楽で示しただけのものです。しかし、これが示していることはとても重要です。一気に飛躍して、結論を言えば、クルレンツィスはオリジナル演奏で頭角を現した個性的な音楽家という枠を大きく超えて、どんなジャンルの音楽でも、今後の音楽界で最高の逸材であり続けるだろうということです。数十年に一人の逸材(百年に一人と書きたいところですが、そこまでsaraiの人生は長くない)であることは間違いありません。これから、クルレンツィスを中心にクラシック音楽が発展していくと言ったら言い過ぎでしょうか。そこまで言うのは、クルレンツィスが実績を積んできたオペラという世界があり、さらにはモーツァルトのオペラという鉄板があるからです。そういう世界をこのチャイコフスキー、さらには、マーラー、ショスタコーヴィチまで広げてきた事実を踏まえると、あながち、saraiの世迷い言でもないかもしれません。そういうことをsaraiに思わしめたクルレンツィスの素晴らしい来日公演でした。

さて、今日の公演にも軽く触れておきましょう。前半のチャイコフスキーの組曲第3番は初聴きです。と言うか、恥ずかしながら、こういう曲があることすら知りませんでした。管弦楽のための組曲は全部で4作あるんですね。しっかり予習して、曲の概要はつかみました。でも、そういうことですから、あまり、突っ込んだことは言えません。第1曲のエレジーは実に整った演奏で、長大な第4曲の主題と変奏は壮大な演奏だったということくらいです。
驚きだったのは、その曲の終了後、拍手を制して、別の曲が演奏され始めたことです。あれっ、後半の曲は休憩なしに演奏されるんだっけ? ん、なにかおかしい・・・あれっ、ヴァイオリンの独奏が始まった! 何と、1日目、2日目に演奏されたヴァイオリン協奏曲じゃ、ありませんか。でも、ここにはコパチンスカヤはいない。ヴァイオリンの独奏は今回初めて登場した、もう一人のコンサートマスターです。意味が分からない。まさか、これって、演奏会の途中でのアンコール曲? 結局、ヴァイオリン協奏曲の第3楽章だけが演奏されました。このコンサートマスターもなかなか上手かったけど、あの超個性的だったコパチンスカヤの演奏が耳にまだ残っています。一体全体、クルレンツィスはどういうつもりで、ここでコパチンスカヤ抜きでヴァイオリン協奏曲の一部を披露したんでしょう? 意味分かりません。仮説はいろいろ考えられるけど、いずれにせよ、クルレンツィスは個性的な謎の人物だということです。普通はこういう行動はとりませんよ。我が人生で初の椿事です。分けの分からないアンコールが演奏されたということです。さらにこのコンサートマスターはイザイのソナタまで弾いてしまいました。どういうこと? 結局はこのヴァイオリン協奏曲が本当にアンコール曲だったようで、コンサート終了後にはアンコールはありませんでした。もしかしたら、今日はコパチンスカヤはいないけど、今日だけ聴く聴衆のために1日目、2日目に演奏されたヴァイオリン協奏曲を聴かせてあげようというサービスだったの? 今日はコパチンスカヤはどこにいるんだろう?

後半はチャイコフスキーの幻想曲、幻想序曲。幻想序曲「ロメオとジュリエット」と 幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」は姉妹曲のようによくCDでも組み合わせられる曲ですね。幻想序曲「ロメオとジュリエット」は既に2日目のアンコール曲として演奏されましたが、今日もほぼ同じ演奏でした。ただ、アンコール曲ではないので、聴く側の心構えが違い、落ち着いて、きっちりと聴きとりました。ロマンティックな美しい演奏でした。交響曲第6番「悲愴」、交響曲第4番と共通して、過酷な運命にさらされる人間の生き様が色濃く表現されます。クルレンツィスはチャイコフスキーの音楽の中でも、運命をテーマにしたものを集中的に取り上げたようです。深刻な限界状況の中で実存としての人間が強く、美しく生き、そして、死ぬということを音楽として、昇華させるというクルレンツィスの挑戦は素晴らしく輝きました。
その集大成が最後の幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」です。前半とフィナーレは過酷な運命が激しく演奏されましたが、その運命に挟まれた生命の輝きの美しかったこと! まるで佳人フランチェスカの類稀なる美しさが音楽として輝いたような極上の世界が現出しました。クルレンツィスの見事な指揮、ムジカエテルナの美しいアンサンブルが最高に発揮されました。運命が如何に過酷であろうとも、その状況下を生き抜く人間の素晴らしさが賛歌として表現されました。クルレンツィスがチャイコフスキーの音楽から汲み取ったものは人間賛歌だったのでしょうか。3回のコンサートの後半のプログラムはこの共通的なテーマで統一されていたように感じました。

さて、クルレンツィスは日本で今度は何を聴かせてくれるでしょう。クルレンツィスが日本で演奏するのはまさに音楽的な事件にほかなりません。それもとびきり素晴らしい事件です。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:テオドール・クルレンツィス
  管弦楽:ムジカエテルナ

  チャイコフスキー: 組曲第3番 ト長調 Op.55

   《アンコール》
    チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35より第3楽章
    イザイ:ヴァイオリン・ソナタ第2番より第1楽章
     (ヴァイオリン・ソロ:アイレン・プリッチン(ムジカエテルナのコンサートマスター))

   《休憩》

  チャイコフスキー: 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
  チャイコフスキー: 幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」 Op.32


最後に予習について、まとめておきます。

チャイコフスキーの組曲第3番は以下のCDを聴きました。

 エフゲニ・スヴェトラーノフ指揮ロシア国立交響楽団 1985年

曲の性格もあるのかもしれませんが、意外におとなしくて、繊細な演奏です。聴き込むと、演奏の機微が分かってくるのかもしれませんが・・・。

 アンタル・ドラティ指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年8月録音 ワットフォード・タウン・ホール ロンドン郊外

メリハリのきいた明快な演奏です。入門用にはもってこいの演奏と言えます。


チャイコフスキーの幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」は以下のCDを聴きました。

 レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1979年10月 テル・アヴィヴ ライヴ録音

さすがにバーンスタインらしい熱のある演奏です。すっかり、聴き惚れました。

 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック 1989年10月

バーンスタイン指揮のイスラエル・フィルのCDを聴いた後で、バーンスタインがニューヨーク・フィルと再録音していたことに気が付きました。それもバーンスタインが亡くなる、ちょうど1年前。彼は自分の死期が近いことは自覚していた筈です。そういうことを考えながら聴いたので、演奏の壮絶さに圧倒されました。確か、バーンスタインがニューヨーク・フィルとこの曲を最初に録音したのは1960年。この録音のほぼ30年前です。少なくとも3回は録音したのですね。彼にとっても思い入れのある曲なんでしょう。バーンスタインはマーラーを振るような熱っぽさでチャイコフスキーを演奏しているのが興味深いところです。

 エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 1977年 ライヴ録音

チャイコフスキーと言えば、やはり、ムラヴィンスキーも聴かないといけないでしょう。これはライヴで、ムラヴィンスキーらしいストレートな表現とロシアの大地を感じさえる雰囲気にあふれた、素晴らしい演奏です。これは決定盤でしょう。実はスヴェトラーノフも聴くつもりで用意していましたが、時間切れで聴けませんでした。スヴェトラーノフの「ロメオとジュリエット」も同様に時間切れ。残念。


チャイコフスキーの幻想曲「ロメオとジュリエット」は一昨日のアンコール曲で演奏されたので、それで最上の予習は終えましたが、それでも以下のCDを聴きました。

 レナード・バーンスタイン指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1979年10月 テル・アヴィヴ ライヴ録音

これも幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」と同様の傾向の素晴らしい演奏です。

 レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック 1989年10月

これも「フランチェスカ・ダ・リミニ」と同様に再録音されていました。それも同時期の録音です。亡くなる1年前です。濃厚なロマンに満ちた素晴らしい演奏です。



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オペラ・美術が大好きでヨーロッパの旅にはまっています。音楽の聖地ウィーンが中心で、イタリア、フランス、ドイツも巡っています。国内外のオペラ・コンサートの体験もレポートします。

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ありがたいコメント、嬉しいです。マーラーのファンのかたにこそ、読んでいただきたかったので、気持ちを共有できた思いです。自然の中にこそ、マーラーの音楽の本質はあり

04/23 23:45 sarai

マーラーの作品を聴きながら、ブログを読ませていただいています。
読みながら画像を見て、マーラーの過ごした風景に想いを馳せて楽しんでいます。
素敵なブログをありがと

04/23 21:47 

マーラー6番ですか・・・ハンマー打撃は勘弁してほしいものです。あったとしても、3回目の打撃だけは・・・

04/11 18:10 sarai

まさにマーラー6番な状況です笑

04/11 17:51 kico

お互い、残念でしたね。今年でヨーロッパ遠征を終わりにする予定でしたが、悲劇的な状況になりました。天はまだ我に旅を続けよというご託宣を与えたのでしょうか。1年延期

04/11 03:13 sarai

以前にもコメントさせていただいた者です。来ましたね、楽友協会からのメール。私たちはとりあえず1年延期としましたが、どうでしょうね。困っている人が多い中贅沢な悩み

04/11 00:33 kico

お返事ありがとうございます。
本当に!私もレイルジェットや美術館の手配もしているので、祈るような気持ちです。

03/10 19:06 kico
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