二月の歌舞伎座はまだ新春の名残があります。館内を見渡すと、玉三郎目当てなのか、女性客が目立ちます。配偶者のお友達も玉三郎が出るということで、ご一緒します。
二月大歌舞伎は2月2日(土)~26日(火)という日程ですから、今日はほぼ中日です。客席はほとんど埋まっています。配偶者は張り切って、着物を着ています。saraiはリラックスしたセーター姿。昨日までのクルレンツィスのコンサートはちゃんとブレザーを着ていましたが、歌舞伎はリラックスして見ましょう。
夜の部は4時半開始ですが、その前にレストランの予約を済ませ、プログラムであらすじを確認しながら、開演を待ちます。今日の演目はすべて、初めて見るものです。
1番目の演目は一谷嫩軍記熊谷陣屋(くまがいじんや)です。主役の熊谷直実は吉右衛門が演じますから、大いに期待できます。
あらすじはホームページに以下の内容が記載されています。
源氏方の武将熊谷直実が自らの陣屋に戻ってくると、妻の相模が息子小次郎の初陣を案じ待っています。小次郎の様子と、平家の公達敦盛を討ったことを明かす直実。そこへ敦盛の母藤の方が現れ、直実に斬りかかりますが、これをなだめた直実は敦盛の立派な最期を語って聞かせます。やがて源義経が現れ、敦盛の首実検が行われますが…。
上記のあらすじには肝心の内容が書かれていません。直実は後白河院のご落胤だった敦盛を討たずに、代わりに自分の息子の小次郎の首を切ったという衝撃の内容がこの歌舞伎の底辺にずっと流れています。最初に直実を演じる吉右衛門が花道から入場しますが、この出から、吉右衛門は無言で物凄い形相です。ですが、このあたりではsaraiもまだ平静に芝居を見ることができます。クライマックスは敦盛の首実検を源義経が行う場面です。義経役は菊之助ですが、声色も明快でいい役者さんになりましたね。これからの歌舞伎を引っ張っていく存在になりそうです。この首実検で敦盛の首ではなく、小次郎の首であることが分かりますが、一同はあえて、敦盛の首だということで通します。小次郎の母、相模の嘆きようはいくばくかという場面です。で、最後は我が子を手にかけた直実は義経に暇乞いを願い、僧侶姿に身を変えて、小次郎の菩提を弔う旅に出発します。吉右衛門が花道に出るところで、菊之助(義経)が呼び止めて、最後に小次郎の首をかざします。吉右衛門はたまらず、その場に崩れ落ち、深い嘆きの迫真の演技。たまりませんね。そのまま、幕が引かれますが、花道手前の吉右衛門だけが幕の前に立っています。すると三味線弾きが登場し、片足を椅子の上に上げて、まるでギターをかき鳴らすように三味線を弾きます。その伴奏にのって、吉右衛門は深い嘆きとともに花道を駆け抜けていきます。何とも素晴らしい幕切れです。そのカッコよさに感嘆しながら、感動を覚えます。こういう歌舞伎を見て、理解でき、感動できる・・・日本人に生まれてよかった! ちなみにこのお芝居のテーマは今日的なテーマ、平和への希求です。
ここで休憩。予約していた、美味しい夕食をいただきます。食事が終わると、すぐに次の演目です。
2番目の演目は新春の華やかを踊る、當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)です。
あらすじはホームページに以下の内容が記載されています。
初春を迎えた工藤祐経の館に、親の仇である祐経を討とうと曽我十郎と五郎の兄弟が春駒売りに姿を変えて入り込みます。賑やかに春駒の踊りを披露する兄弟は祐経との対面を果たしますが、祐経は兄弟の正体に気づいており…。
これは曽我兄弟と工藤祐経の対面する有名な場面です。寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)という歌舞伎にもなっています。今回の舞踊では、最後に工藤祐経が富士山麓での巻狩りの通行手形を曽我兄弟に投げ渡し、そこで討たれる覚悟であることを語ります。ちなみに曽我兄弟の演目は江戸時代から新春には欠かせないものだったそうです。
再び、休憩です。休憩後、いよいよ、玉三郎の登場と相成ります。
3番目の演目は初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言と銘打った、名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)です。
あらすじはホームページに以下の内容が記載されています。
越後の実直な行商人縮屋新助は、深川芸者の美代吉に惚れ込んでいます。しかし美代吉は旦那もちで、さらには船頭三次という情夫までいる奔放な女。美代吉は、深川大祭に必要な100両が用意できずに困ると、金の工面を新助にすがります。新助は故郷の家や田畑を売り払って金を工面しますが、旦那からの手切れ金が届いて金の心配がなくなった美代吉は態度を一変、新助の相手をしなくなります。裏切られ狂乱した新助は…。
この深川芸者の美代吉に扮するのが玉三郎。その情人の船頭三次が仁左衛門。この二人の自堕落さが名優の二人で見事に演じ切られます。玉三郎の艶やかさがまだまだ健在でした。玉三郎がこの美代吉を演じるのは何と32年ぶりだそうです。その時よりさらに4年前、すなわち今から36年前は相手役の縮屋新助は初世尾上辰之助。彼は40歳で亡くなり、今年が三十三回忌だそうです。今回の相手役の縮屋新助は初世尾上辰之助の息子の尾上松緑。その機縁で玉三郎と仁左衛門(彼も36年前に船頭三次役を演じ、当時はまだ片岡孝夫と名乗っていました。その時以来の36年ぶりの船頭三次役。本人はもうこの役をやることはないだろうと思っていた由。)という名優が顔を出してくれたようです。お二人はお歳を感じさせない若々しい演技で楽しませてくれました。初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言で実現した夢の豪華配役でした。
結局、4時半に始まった夜の部も終わってみれば、9時頃の長丁場になりました。たっぷりと久しぶりの歌舞伎を楽しみました。次に歌舞伎を見るのはいつのことだろう・・・。
今日の公演内容は以下です。
《夜の部》
1.一谷嫩軍記熊谷陣屋(くまがいじんや)
熊谷直実 吉右衛門
藤の方 雀右衛門
源義経 菊之助
亀井六郎 歌昇
片岡八郎 種之助
伊勢三郎 菊市郎
駿河次郎 菊史郎
梶原平次景高 吉之丞
堤軍次 又五郎
白毫弥陀六 歌六
相模 魁春
2.當年祝春駒(あたるとしいわうはるこま)
工藤祐経 梅玉
曽我五郎 左近
大磯の虎 米吉
化粧坂少将 梅丸
曽我十郎 錦之助
小林朝比奈 又五郎
3.初世尾上辰之助三十三回忌追善狂言
名月八幡祭(めいげつはちまんまつり)
縮屋新助 松緑
芸者美代吉 玉三郎
魚惣 歌六
船頭長吉 松江
魚惣女房お竹 梅花
美代吉母およし 歌女之丞
藤岡慶十郎 梅玉
船頭三次 仁左衛門
↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね
いいね!
