コパチンスカヤとセットで購入したリサイタルです。コパチンスカヤに続き、バルトークが聴けるのも期待できます。それに日下紗矢子は読響のコンミスとしてはいつも満足の演奏を聴かせてくれています。ソロ演奏は2015年にチェロとの2重奏を聴いて以来、2度目です。そのときが日下紗矢子の演奏を最初に聴いたときで、高音の美しい響きが印象に残っています。シュルホフの演奏が素晴らしかったです。そのときの記事は
ここです。
今日は近現代がテーマで20世紀初頭のウィーン学派の12音のノントナール音楽に始まり、1960年以降のポストモダーンの音楽というなかなかの難物を構成したプログラムです。そのため、しっかり、予習して、コンサートに臨みます。日下紗矢子はしっかり、プログラムを考えたようで、ウェーベルン、バルトークはその真骨頂とも言える難しい作品をラインアップしています。ポストモダーンは比較的聴きやすい曲をセレクトしてくれました。彼女の優しさをありがたく受け止めさせてもらいます。したがって、今日はシュニトケを聴くのが楽しみです。ちなみに今回のリサイタルは日下紗矢子の4回にわたる《ヴァイオリンの地平》というシリーズの最終回なのだそうです。これまでの3回は聴き逃がしました。1回目のバロック、2回目の古典派、3回目のドイツ・ロマン派と続いてきたようです。でも、これまでもそれほどの有名曲は取り上げてこなかったようですから、彼女の音楽に向かう姿勢が感じられます。
まず、個々の演奏にはいる前に総評を書きます。すべてが完璧ではありませんでしたが、大変、レベルの高い、素晴らしい演奏でした。一番素晴らしかったのは、3曲目のシュニトケです。2曲目のバルトークもよかったのですが、演奏のノリが部分的に今一つの感じるとことがありました。これは後述しますが、予習したイザベル・ファウストのCDが素晴らし過ぎたことが要因です。1曲目のウェーベルン、4曲目のジョン・アダムズも高レベルの演奏で十分に楽しめましたが、まあ、曲が曲なので、そんあところでしょう。日下紗矢子の演奏は常にゆるぎない自己を基盤として、作品とほどよい距離を置いた知的な演奏だと言えます。テクニック、ヴァイオリンの響き、音楽性は非常に高いレベルにあります。以前も書きましたが、同世代には優秀な女性ヴァイオリニストがひしめきあっています。
saraiが大好きな庄司紗矢香の輝くような個性とはまた違ったタイプですが、室内楽では安定した演奏が持ち味で、そのクレバーさが光ります。ちなみに庄司紗矢香よりも4歳年上ですが、パガニーニ国際コンクールで庄司紗矢香が1999年に史上最年少で優勝した翌年の2000年に惜しくも第2位になり、キャリア的には遅い登場となりました。ヒラリー・ハーン、リサ・バティアシュヴィリとは同い年。ジャニーヌ・ヤンセンは1歳上。パトリシア・コパチンスカヤは2歳上。ユリア・フィッシャーは庄司紗矢香と同い年で4歳下。国内外、この世代のヴァイオリニストは才能がひしめいています。
ウェーベルンの4つの小品 Op.7は本格的な無調音楽で、かつ、凝縮した音楽です。集中して聴く曲です。日下紗矢子と言えば、自分を失うことなく、過度の緊張感はなく、余裕でこの難曲を弾き切ります。素晴らしいのですが、こういう曲はムターのようにもう少し噛み砕いて演奏してくれれば、もっとよかったかな。
続いて、期待のバルトークの無伴奏ソナタです。素晴らしい響きですが、結構、普通の演奏。コパチンスカヤほどの個性とは言いませんが、もう少し突っ込んでほしいと思っていたら、第1楽章の終盤の美しい抒情に聴き惚れます。エンジンがかかったかなと思っていたら、第2楽章はまた普通の演奏、これも後半はヒートアップした素晴らしい演奏。結局、第3楽章も第4楽章も同じような展開です。どういうことなのでしょうか。各楽章、最初からノリのよい演奏をしてくれればと思いました。もっとも、やはり、予習で聴いたイザベル・ファウストの精度の高い演奏と比べると、物足りなかったのは事実で、これは仕方ありませんね。
後半のシュニトケのヴァイオリン・ソナタ第2番《ソナタ風》。これは超素晴らしい演奏でした。あの素晴らしかったクレーメルも真っ青というレベルの凄い演奏でした。力感もありますが、全体としてが十分に脱力して、ゆるぎない自己の元、しなやかな演奏を聴かせてくれました。こういう音楽を聴くと、こちらもインスパイアされて、生きる力を与えられます。行き詰ったときには、是非、この音楽で立ち直り、勇気を与えてもらいたいものです。そういう意味では、是非、CDに録音してほしいですね。そうすれば、いつでも聴けますからね。
最後のジョン・アダムズのロードムービーは典型的なミニマルミュージック。まるでゲーム音楽でも聴いているような、ノリのよさです。きっと、ポストモダーンの音楽の中でも聴きやすい音楽をセレクトしてくれたんだろうなあと彼女の優しさに感謝します。実際、アンコールの際のお話で、「難しい音楽なのに大勢の聴衆が来てくれて、演奏の間、身じろぎもせずに聴き入ってくれて、ありがとうございます。」と言う異例の言葉がありました。ずい分、聴衆に気を遣っている様子が分かり、ほほえましく思いました。
最後のアンコールのバッハで気がやすんだのは事実です。。
この日のプログラムは以下の内容です。
ヴァイオリン:日下紗矢子
ピアノ:ビヨルン・レーマン
ウェーベルン:4つの小品 Op.7(1910)
バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz117(1944)
《休憩》
シュニトケ:ヴァイオリン・ソナタ第2番《ソナタ風》(1968)
ジョン・アダムズ:ロードムービー(1995)
《アンコール》
ミヒャエル・フォークト:ゲノフェーファ ヴァイオリン・ソナタ(日下紗矢子のために)Genoveva v. St. für Sayako Kusaka 世界初演
J.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 BWV1023より 第3楽章 アルマンド
最後に予習について触れておきます。
1曲目のウェーベルンの4つの小品 Op.7は以下のCDで予習をしました。
ギドン・クレーメル、オレグ・マイセンベルク 1994年5月 ドイツ、ノイマルクト
曲自体の性格のせいですが、少々、難解な演奏です。曲の把握が難しいので、別の演奏を聴くことにします。
アンネ=ゾフィー・ムター、ランバート・オーキス 2000年5月 ライヴ録音
期待通り、ムターはできる範囲内で分かりやすい演奏を聴かせてくれます。ムターが十分に消化した素晴らしい演奏です。
2曲目のバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタは以下のCDで予習をしました。
ギドン・クレーメル 2006年12月 ベルリン・フィルハーモニー ライヴ録音
ベルリン・フィルハーモニーでのアルゲリッチとのコンビのリサイタルの2枚組CDの中の1曲です。これはクレーメルの突っ込んだ演奏ではありますが、saraiにはこれがバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとはどうしても思えません。全然、印象が異なります。最初は間違ったCDを聴いてしまったと思ったほどです。これも別のCDで聴き直しましょう。
ユーディ・メニューイン 1947年6月
この曲はメニューインがバルトークに委嘱した作品で、もちろん、メニューインが初演し、病魔に苦しんでいたバルトークも一時的に体調がよく、初演に立ち会っており、その演奏を大変評価したそうです。この演奏は初演の2年半ほど後のもので、最初の録音です。確か、メニューインはこの後、2回ほど録音を残しています。バルトークのお墨付きの演奏(この録音時にはバルトークは他界していますが)ですから、まさにバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタそのものです。しかし、録音も古く、今一つ、演奏も納得できません。何か力み過ぎのような気がします。熱いエネルギー感にはあふれているんですけどね。クレーメルのどこか、醒めたような演奏に比べると、断然、素晴らしいので、この演奏で打ち止めでもいいんですが、誰か、ほかの演奏を探してみましょう。
イザベル・ファウスト 1996年6月 フランス放送局106スタジオ、パリ
この演奏には度肝を抜かれました。完璧に楽譜を読み込んだと言える最高の凄い演奏です。細部の仕上がりの素晴らしさはもちろん、熱いエネルギー感も湛えています。イザベル・ファウストのCDの中でも、これまで聴いた最高の演奏です。もちろん、バッハの無伴奏ソナタ&パルティータをはるかにしのぐ演奏です。ヴァイオリンの響きも美し過ぎるほどです。奇跡の名演と呼んで、差し支えないと断言できます。しかし、こんなものを予習で聴くと、誰の演奏を聴いても満足できなくなりそうです。それにしてもバルトークの無伴奏がバッハの無伴奏に匹敵する傑作であることを初めて実感できました。
3曲目のシュニトケのヴァイオリン・ソナタ第2番《ソナタ風》は以下のCDで予習をしました。
ギドン・クレーメル、アンドレイ・ガヴリーロフ 1979年録音
ウェーベルン、バルトークで満足できなかったクレーメルの演奏ですが、このシュニトケは最高に素晴らしいです。これ以上の演奏は考えられないほどです。クレーメルと言えば、シュニトケの伝道者のような人ですから、当然なのかもしれません。これは他のCDを聴く必要はありません。
4曲目のジョン・アダムズのロードムービーは以下のCDで予習をしました。
リーラ・ジョセフォウィッツ、ジョン・ノヴァチェク 2003年7月28,29日、ロンドン、エアー・スタジオ
これは大変聴きやすく、そして、素晴らしい演奏です。ミニマルミュージックにふさわしく、小気味よい演奏が心地よく聴けます。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽