今日のプログラムはバッハの名曲を最初と最後に置いたもので、実質、バッハの無伴奏パルティータのリサイタルといってもいいでしょう。昨年末にヒラリー・ハーンのバッハの無伴奏パルティータ・ソナタ全曲リサイタルを聴いたばかりで、あの完成度と比べるのは酷かもしれませんが、何か、まとまりきれていない印象がぬぐえません。エーベルレの骨太とも思える武骨さを前面に出した第1番パルティータのアルマンドで始まり、おっ、どんな演奏になるのかと思っていたら、その後は普通の演奏に収まります。超急速の演奏もあったりしましたが、全般には平板な演奏。ヴァイオリンの響きは美しかったので、楽しめはしました。最後のシャコンヌは目立たないパートでの美しい演奏が光りましたし、終盤の力演もなかなかでした。サラバンドも期待しましたが、これはもうひとつ。意外に無伴奏ソナタの1曲など弾いてみれば、もっとよかったかもしれません。彼女にはそのほうがあっていたかもしれません。
イザイは好演。見事に弾き切りました。もっと突っ込んでみてもよかったかもしれませんが、十分な演奏でした。ただ、選曲がこれでよかったかは疑問です。
マッテイスとブーレーズはあまり知らないので、評価できません。ビーバーを当日キャンセルしたのは残念。マッテイスよりもビーバーが聴きたかったのが本音です。
前回、トッパンホールでのバルトーク、バッハ、シューマンが素晴らしかったとのプログラムノートでの記述がありましたが、今回、いきなり、初の無伴奏のリサイタルというのは酷だったのではないでしょうか。無伴奏を弾くにしても、ピアノとの共演のものもプログラムに含めたほうがよかったのではないかと感じました。前途ある素材は大切に育てたいものです。
辛い口調になってしまいましたが、潜在的な力は感じました。これからの成長を祈りたいと思います。
この日のプログラムは以下の内容です。
ヴァイオリン:ヴェロニカ・エーベルレ
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番 ロ短調 BWV1002
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 Op.27-2
《休憩》
ニコラ・マッテイス:《ヴァイオリンのためのエア集》第2巻より〈ファンタジア〉イ短調
ブーレーズ:アンセム I
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ニ短調 BWV1004
《アンコール》
ニコラ・マッテイス:《ヴァイオリンのためのエア集》第2巻より〈ファンタジア〉イ短調
最後に予習について触れておきます。
1曲目と最後のJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番/第2番は以下のCDで予習をしました。
ヒラリー・ハーン 第1番 2017年6月 ニューヨーク州、バード大学、Richard B. Fisher Center セッション録音
第2番 1996年6月 ニューヨーク セッション録音
この曲は名盤揃いですが、愛聴してやまないのは、このほぼ20年をかけて完成させたヒラリー・ハーンの2枚。17歳のデビュー盤でのシャコンヌは感涙ものの素晴らしい演奏です。現在のヒラリーが再録音してほしいのですが、その瑞々しさは再録音されても価値が下がるものではありません。そして、2017年に録音された第1番は録音も素晴らしく、演奏も最高水準です。昨年末の全曲演奏のときの感動が蘇ってきます。
2曲目のイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番は以下のCDで予習をしました。
フランク・ペーター・ツィンマーマン 1994年 セッション録音
ツィンマーマンの若い頃のアルバムです。しかし、見事な演奏を聴かせてくれます。確証はありませんが、この頃、彼が弾いていたストラディバリウスはドラゴネッティという名前のもので、奇しくも今日、エーベルレが弾いていた楽器です。強い響きのする名器ですね。
3曲目のニコラ・マッテイスの〈ファンタジア〉は以下のCDで予習をしました。
レイチェル・ポッジャー 2013年5月 オランダ、ハールレム、メノナイト教会 セッション録音
バロック・ヴァイオリンの第1人者であるポッジャーがバロックのお気に入りの作品を集めて録音したアルバム《守護天使~無伴奏ヴァイオリン作品集》に含まれている演奏です。もちろん、見事過ぎる演奏です。ちなみに今日、当日になってプログラム変更で演奏されなかったビーバーのパッサカリア『守護天使』もこのアルバムで予習しましたが、さらに素晴らしい演奏です。ちなみに昨年、このアルバムに収録された曲を中心にポッジャーの来日コンサートがあったんですね。聴き逃がしてしまいました。もっとも、調布市文化会館たづくり くすのきホールというたった500席のホールでのリサイタルで、チケット入手は困難だったでしょう。聴かれた方は幸運でしたね。
4曲目のブーレーズのアンセム Iは以下のCDで予習をしました。
アーヴィン・アルディッティ 2003年7月28,29日、ロンドン、エアー・スタジオ
現代作品に特化した演奏で最高水準を行くアルディッティ弦楽四重奏団の創設者にして、第1ヴァイオリンのアーヴィン・アルディッティの演奏ですから、この手の作品はへっちゃらの演奏です。ブーレーズにしては、そして、アルディッティにしては、とても聴きやすい演奏に驚かされます。もっと、分けのわからない演奏でもいいんですからね(笑い)。
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