そして、今日のバルトーク。第3番といえば、最も先鋭的な作品。冒頭の響きは宇宙の深淵を感じさせるミステリアスな響き。素晴らしいアンサンブルです。ルーカスの美しい響き、それに呼応するライナー・シュミット、ヴェロニカ。そして、クレメンスが深々とした響きでスケールの大きな音楽に盛り上げていきます。得も言われぬアンサンブルの妙です。第2部に入ると、音楽が高潮し、熱く燃えがります。以前聴いたハーゲン・クァルテットのバルトークの響きと違い、ある意味、オーソドックスな演奏ですが、実にバルトークの本質に切り込んだ最高の音楽です。この頃のバルトークは恐れるものもなく、己の音楽に一番、没頭している感もあります。彼の6曲の弦楽四重奏曲の中でも1,2を争う傑作に思えます。こういうアグレッシブな作品がバルトークに似合っています。すっかり、ハーゲン・クァルテットのバルトークを堪能しました。
一方、最初と最後に演奏されたハイドンの《エルデーディ四重奏曲》はこれぞ古典という美しい演奏です。アンサンブルの極みとも思える演奏に何のコメントも必要ありません。ただ、ゆったりとその美しさに体を委ねるのみです。4本の弦が順に重なり合う様はポリフォニー音楽の原点を見る思いです。古典主義音楽はそのシンプルさにこそ、すべてがあるという感を抱きます。こういう音楽は一分の隙もない音楽表現を要求されますが、今のハーゲン・クァルテットのアンサンブルは盤石と言えるでしょう。両作品とも楽章構成はほぼ同じですが、終楽章の盛り上がりは聴きものでした。また、《皇帝》の有名な第2楽章の変奏曲は各楽器が主題を引き継ぎながらの変奏ですが、ハーゲン・クァルテットの優しくて、ピュアーな響きの演奏は弦楽四重奏の理想形とも思える最高の演奏でした。
今日のプログラムは以下のとおりでした。
〈ハーゲン プロジェクト 2019〉ハイドン&バルトーク ツィクルス Ⅱ
ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)
ハイドン:弦楽四重奏曲第77番 ハ長調 Op.76-3 Hob.III-77《皇帝》
バルトーク:弦楽四重奏曲第3番 Sz85
《休憩》
ハイドン:弦楽四重奏曲第78番 変ロ長調 Op.76-4 Hob.III-78《日の出》
《アンコール》
ハイドン:弦楽四重奏曲第80番 変ホ長調 Op.76-6 Hob.III-80より 第4楽章
最後に予習したCDですが、もちろん、ハーゲン・クァルテットのCDを軸に聴きました。
バルトーク:弦楽四重奏曲(第3番、第6番)
ハーゲン・カルテット 1995~1998年録音
ハイドン:弦楽四重奏曲 エルデーディ四重奏曲 Op.76
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 1950年-1954年 ウィーン、コンツェルハウス、モーツァルトザール セッション録音
ハーゲンのバルトークは文句なしですが、もっと弾けるような気もします。昔実演で聴いたバルトークはもっと個性豊かで迫力がありました。第6番は素晴らしい演奏でした。この録音から20年を経た今、彼らはどんなバルトークを聴かせてくれるのでしょう。
ハイドンは意外によい録音がありません。結局、古いウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の落ち着きます。彼らの力強い演奏に驚かされます。昔日のウィーンの郷愁を呼ぶという演奏ではありませんが、ハイドンの高い音楽性を表現してくれます。モーツァルトでも素晴らしい演奏を聴かせてくれたハーゲン・カルテットはハイドンでも精度の高い演奏を聴かせてくれると信じています。
さらに以前、バルトークの弦楽四重奏曲第3番の予習をしたときの記事を参考に引用しておきます。
手持ちのLP、CDを総ざらいして、予習しました。予習したのは以下のLP3枚、CD6枚です。
LP:ハンガリー四重奏団(1961年)、ジュリアード四重奏団(2回目録音、1963年)、バルトーク四重奏団(1966年)
CD:ジュリアード四重奏団(1回目録音、1950年)(3回目録音、1981年)、ヴェーグ四重奏団(1972年)、アルバン・ベルク四重奏団(1983年)、エマーソン・カルテット(1988年)、ハーゲン・カルテット(1995年)
LPの3枚、ハンガリー四重奏団、ジュリアード四重奏団(2回目録音)、バルトーク四重奏団はわざわざLPをコレクションするほど気に入ったものですから、もちろん、すべて名演で素晴らしい演奏です。ちなみにsaraiがこの曲を最初に聴いたのはジュリアード四重奏団(2回目録音)でした。今回、ジュリアード四重奏団の3回の録音を聴くと、1回目のモノラル録音は表現主義的とも思える切り込んだ演奏ですが、音楽的には2回目の録音が鋭角的で美しい演奏でこれがベスト。3回目は少なくとも、この第3番はアプローチが弱い感じ。全体で最高に素晴らしいのは、エマーソン・カルテットの演奏です。最高のテクニックでやりたい放題とも思える自由な演奏ですっかり魅惑されました。
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