今年のハーゲン・クァルテットの〈ハーゲン プロジェクト 2019〉、3夜連続のハイドンとバルトークのコンサート・シリーズの第3夜、最終回です。
今日のバルトークは第6番。ナチスの圧力でヨーロッパを去ることになるバルトークがヨーロッパで最後に完成させた作品です。バルトークにしては少しメローな作品。ハーゲン・クァルテットならば、第4番か第5番を選ぶと思っていました。しかし、ハーゲン・クァルテットの演奏は決して、そういう女々しい表現に陥ることはありません。あくまでも綺羅星のように並ぶ、バルトークの6曲の弦楽四重奏曲の1曲として、真摯に向かい合った演奏です。第1楽章冒頭のヴェロニカ・ハーゲンのヴィオラソロのメストはまなじりをきっとあげた演奏。かっこいいね。第1楽章はもっと強く突っ込んだ演奏がほしかったところですが、バルトークらしい複雑な線で織りなす音楽の妙を味わえます。第2楽章はクレメンス・ハーゲンの素晴らしいチェロソロでメストが演奏された後、付点音符の行進曲風のメロディが諧謔的に演奏されますが、これは素晴らしい。さらにトリオでの奇妙なパートも、ヴェロニカのギター風のピチカートを織り交ぜた演奏が見事。こういう演奏は耳だけでなく、目でも楽しめます。第3楽章の精度の高い演奏を経て、第4楽章はリトリネロ主題のメストが全面に浮き立つ哀歌です。ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲はベートーヴェン個人の諦念に満ちたものですが、バルトークの場合、個人的な思いは時代を象徴するような音楽表現に昇華します。《絃と打とチェレスタの音楽》では限界状況を浮き彫りにするような恐ろしい音楽になりましたが、この弦楽四重奏曲では、時代を弔うようなペーソスと、さらに言うならヨーロッパ文明への絶望感に満ちた音楽になります。そんなネガティブ感に満ちた音楽をハーゲン・クァルテットは精妙なアンサンブルでパーフェクトに歌い上げます。saraiはこんなバルトークは嫌いです。バルトークはアグレッシブで先鋭的であってほしい。こんなバルトークにした時代を憎みます。同様にシュテファン・ツヴァイクを自殺に追いやったのもこの同じ時代。そんな時代が再来する予感がする今の時代にも大いなる危惧を抱いています。
最後は音楽以外の何かわけのわからないことを思いながら、ハーゲン・クァルテットの演奏に耳を傾けていました。やはり、今回のツィクルスのシメは第5番あたりがよかったとも思いました。何故なら、色んな意味で未来への展望がなくなるからです。
一方、最初と最後に演奏されたハイドンの《エルデーディ四重奏曲》は今日も典雅で美しい演奏です。ハイドンの時代には悩みはなかったのか、それとも古典主義の音楽は、そういうネガティブな概念を音楽に持ち込まなかったのか、変なことに頭を捻ってしまいます。これも今日のバルトークの第6番という選曲が悪かったからではないでしょうか。
それにしても最初に演奏された弦楽四重奏曲第79番《ラルゴ》の完成度の高い演奏には圧倒されました。美し過ぎて、天国に連れていかれた思いです。それに名曲ですね。ピログラムノートにもありましたが、過小評価されて、それほど演奏機会がないのが残念です。いずれ再評価されて、ハイドンのブームがやってくるのかな・・・。
ハーゲン・クァルテットは見栄えも成熟して、音楽もいい意味で成熟して、これからがますます楽しみです。来日するのはまた、2年後でしょうか。バルトークの残りの3曲を演奏することをで忘れないでくださいね。 → 関係者各位
今日のプログラムは以下のとおりでした。
〈ハーゲン プロジェクト 2019〉ハイドン&バルトーク ツィクルス Ⅲ
ハーゲン・クァルテット Hagen Quartett
ルーカス・ハーゲン Lukas Hagen (ヴァイオリン)
ライナー・シュミット Rainer Schmidt (ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲンVeronika Hagen (ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン Clemens Hagen (チェロ)
ハイドン:弦楽四重奏曲第79番 ニ長調 Op.76-5 Hob.III-79《ラルゴ》
バルトーク:弦楽四重奏曲第6番 Sz114
《休憩》
ハイドン:弦楽四重奏曲第80番 変ホ長調 Op.76-6 Hob.III-80
《アンコール》
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D804《ロザムンデ》より 第3楽章 メヌエット
最後に予習したCDです。
=======ここは昨日と同じ===============
バルトーク:弦楽四重奏曲(第3番、第6番)
ハーゲン・カルテット 1995~1998年録音
ハイドン:弦楽四重奏曲 エルデーディ四重奏曲 Op.76
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団 1950年-1954年 ウィーン、コンツェルハウス、モーツァルトザール セッション録音
ハーゲンのバルトークは文句なしですが、もっと弾けるような気もします。昔実演で聴いたバルトークはもっと個性豊かで迫力がありました。第6番は素晴らしい演奏でした。この録音から20年を経た今、彼らはどんなバルトークを聴かせてくれるのでしょう。
ハイドンは意外によい録音がありません。結局、古いウィーン・コンツェルトハウス四重奏団の落ち着きます。彼らの力強い演奏に驚かされます。昔日のウィーンの郷愁を呼ぶという演奏ではありませんが、ハイドンの高い音楽性を表現してくれます。モーツァルトでも素晴らしい演奏を聴かせてくれた
ハーゲン・カルテットはハイドンでも精度の高い演奏を聴かせてくれると信じています。
=======ここまでは昨日と同じ===============
バルトークの弦楽四重奏曲第6番は追加予習をしました。
手持ちのLPで予習しました。予習したのは以下のLP2枚です。
LP:ハンガリー四重奏団(1961年)、ジュリアード四重奏団(2回目録音、1963年)
LPコレクションはsaraiの宝物。すべて名演で素晴らしい演奏です。ちなみにsaraiがこの曲を最初に聴いたのはハンガリー四重奏団でした。人間の記憶はあてにならないもので、ハンガリー四重奏団の演奏はもっとしっとりとしたものだと思っていました。しかし、その力強い表現に驚かされました。この曲は今回のハーゲン・クァルテットの演奏もそうですが、多様な音楽を内包していて、色んな表現が可能だということを痛感しました。一方、ジュリアード四重奏団は、これは超名演です。この時代のジュリアード四重奏団のバルトーク演奏は全6曲、バイブルみたいなものであることを今更ながら、強く感じました。このジュリアード四重奏団の2回目の録音が旧約聖書、エマーソン・カルテットの録音が新約聖書でしょうか。そして、成熟したハーゲン・クァルテットが再度、録音すれば、その2強に割ってはいれるのではないかとひそかに思っています。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽