今年の演奏を理解するために、昨年の演奏について書いた記事の一部を以下に引用します。
ーーー昨年の記事ーーー
ジョナサン・ノット&東京交響楽団の第九を聴くのは今年で4年目になります。昨年、遂にノットもこの第九を完璧に己のものとし、今回は奇跡のような自在のオリジナリティあふれる演奏を聴かせてくれました。もっとも、まだまだ、伸びしろを残した演奏で来年以降も飛躍が続くでしょう。第1楽章から、ノットの素晴らしい指揮姿から目が離せません。何故か、モーツァルトのドン・ジョヴァンニの地獄落ちを思わせる白熱した演奏に驚愕します。そして、そのアーティキュレーションの見事さに、感銘を受け続けます。とりわけ、アゴーギクの微妙さが驚異的です。その結果、オーケストラへの要求水準が高過ぎますが、東響のメンバーが必死にくらいついて、次第に熱い演奏に高まっていきます。ノットと東響のこういう関係がとても好ましく感じられます。ノットと東響はこうして切磋琢磨して成長してきました。それにしても第1楽章の高速演奏にしびれます。
ーーーここまでが昨年の記事の引用ーーー
まさに昨年書いたことが今年の演奏につながり、ジョナサン・ノットもさらに自分の音楽表現に磨きがかかり、東響は遂にジョナサン・ノットの高い要求水準をクリアするレベルの演奏を行いました。第1楽章と第2楽章は完璧とも思える演奏。第3楽章はジョナサン・ノットの表現力が増して、何とも美しい演奏に昇華しました。そして、第4楽章は独唱陣、合唱、オーケストラがジョナサン・ノットの棒のもとに一体となった圧倒的な音楽を聴かせてくれました。もう、最後は感動するしかありませんでした。saraiの動悸が高まり、頬は紅潮し、物凄い緊張感を覚え、感覚は研ぎ澄まされて、ジョナサン・ノットが表現するベートーヴェンの音楽と一体化し、桃源郷にはいりこんだ思いになりました。
今年はよほどリハーサルを重ねたとみえて、音楽の精度だけでなく、オーケストラの配置も考え抜かれたものです。対向配置の第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンはステージの中ほどに引っ込んだ位置で横に長く配置されています。5プルトという少な目の構成ですが、音は素晴らしく響きます。ヴィオラは第2ヴァイオリンの背後に4プルト。チェロは第1ヴァイオリンとヴィオラの間に3プルトで密集しています。コントラバスは第1ヴァイオリンの背後です。この配置は弦の響きの分解がよくて、それぞれの音がよく聴こえます。無論、まとまりのよさを欠くことはありません。管は2段ほど高い中央に固まっていて、特に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの間に割ってはいるような音響になっています。このオーケストラの配置が音響のよさを生み出しています。
独唱者はステージ前面の指揮者のすぐ前で、ちょうど、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの間に収まっています。したがって、何も邪魔されないで独唱者の声が飛び込んできます。大編成の東響コーラスはいつものように背後の2階席に陣取っています。合唱の声もオーケストラの上を何にも邪魔されずに上から降り注いできます。
今日のオーケストラ、独唱者、合唱の配置は理想的なものに思えます。最前列中央のsaraiは特等席で、この音響を味わうことができました。
第1楽章の冒頭から弦楽アンサンブルの歯切れのよい音が響いてきます。冒頭のカオスの中から実在が出現するようなフレーズの音の響きが美しく、それは何度も繰り返し現れますが、その音楽の質の高さに、ただただ、感銘します。そして、第1楽章では、何と言っても東響の切れの良いアンサンブルが凄過ぎて、ノットがそれをさらに煽り立てるように激しい指揮で追い込んでいきますが、東響のアンサンブルは万全でしっかりと受けとめていきます。息もできない緊張感の中、圧巻の演奏で第1楽章は終わります。ふーっとsaraiは息をつく思いです。第2楽章もそのままの勢いで切れのよいアンサンブル。実に素晴らしい響きの音楽が鳴り響きます。とりわけ、トリオの部分の音楽的な精度の高さに魅了されます。弦の素晴らしさはもちろんですが、管の素晴らしいこと。音楽に聴き惚れているうちに第2楽章もすーっと終わります。ここまで、ジョナサン・ノットの気合いのはいった凄い指揮に魅了されます。圧倒的な体の使い方に驚嘆します。汗を浮かべつつも凄い形相での指揮です。彼は完璧にこの曲の楽譜を研究し尽くしたようです。理解し尽くしたもののみがなしえる指揮に思えます。
ここで独唱陣4人の入場。合唱の東響コーラスは最初から後方席に陣取って、出番を待っています。
第3楽章が始まります。音楽的にとても美しい演奏です。ノットの解釈は万全です。中庸のテンポで粛々と流れるような演奏です。ノット独自の表現もすっかりと確立したようです。とても魅了される音楽になりました。
第3楽章が終わると、間を置かずに恐怖のファンファーレが熱く奏でられます。そして、行き着く先は器楽による“歌”、歓喜の歌です。ヴァイオリンで奏でられるまでの流れが絶妙で、トゥッティで歓喜の歌が演奏されると心が熱くなります。ここから声楽が加わります。バリトンの与那城敬は昨年以上の踏ん張った歌唱で、東響コーラスの大合唱を呼び込みます。4重唱は独唱陣が好調で素晴らしい響きです。テノールの小堀勇介が素晴らしい歌唱で先導する行進曲風の音楽はオーケストラだけの演奏に変わり、東響の素晴らしいアンサンブルが響き渡ります。とりわけ、ヴァイオリンの響きの素晴らしさに魅了されます。
ここから、合唱の素晴らしいパートに入っていきます。この音楽の最も重要な部分です。圧倒的な東響コーラスに耳を傾けながら、第九の真髄を味わっていきます。そして、2重フーガでの清らかな女性合唱と力強い男声合唱との交錯で心を揺さぶられます。再び、独唱陣が立ち上がり、最後の4重唱。フーガ風の最高の歌唱で心が熱くなり、感動の極み。独唱陣は渾身の力をふりしぼり、最後のフェルマータの美しい響き。深く感動します。その残影の後、物凄い合唱が燃え上がり、音楽は最高峰に上り詰めます。そして、圧倒的な東響の力が火の玉のように燃え上がって、爆発的なコーダに突入。圧巻のフィナーレです。ベートーヴェンの特別な音楽をノットと東響、そして、東響コーラス、4人の好調な独唱者が極上の演奏を聴かせてくれました。
最後は付けたしのような《蛍の光》。もったいないような美しい演奏でした。
最後の最後はほとんどの聴衆が居残って、指揮者コール。誰もいなくなったステージに満面の笑みを浮かべたジョナサン・ノットが登場。今年最後の彼の姿を目に焼き付けて、すべて終了。
今年もジョナサン・ノットはR.シュトラウスの楽劇《エレクトラ》と今日の第九で最高の音楽を聴かせてくれました。来年は《薔薇の騎士》と第九ですね。きっと、期待に応えてくれるでしょう。
今日のプログラムは以下です。
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:三宅理恵
メゾソプラノ:金子美香
テノール:小堀勇介
バリトン:与那城敬
合唱:東響コーラス(合唱指揮:河原哲也)
管弦楽:東京交響楽団(コンサートマスター:小林壱成)
ベートーヴェン:交響曲 第9番 ニ短調 Op.125
《アンコール》 蛍の光 AULD LANG SYNE(スコットランド民謡)
最後に予習について、まとめておきます。
ベートーヴェンの交響曲 第9番は以下の演奏で予習したばかりです。素晴らしい演奏だったので、もう一度聴こうと思いましたが、ベルリン・フィル デジタル・コンサートホールには、ほぼ同じキャストの別の公演も収録されています。
キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2019年8月23日、ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 マルリス・ペーターゼン(ソプラノ)
エリーザベト・クルマン(アルト)
ベンヤミン・ブルンス(テノール)
ユン・クヮンチュル(バス)
ベルリン放送合唱団
ギース・レーンナールス(合唱指揮)
キリル・ペトレンコ首席指揮者就任演奏会(ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)
で、急遽、考え直して、以下の演奏を聴きました。
キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 2019年8月24日、ベルリン・フィルハーモニー ライヴ収録 マルリス・ペーターゼン(ソプラノ)
エリーザベト・クルマン(アルト)
ベンヤミン・ブルンス(テノール)
ユン・クヮンチュル(バス)
ベルリン放送合唱団
ギース・レーンナールス(合唱指揮)
ブランデンブルク門前で行われる入場無料の野外コンサート(ベルリン・フィル デジタル・コンサートホール)
上記のキリル・ペトレンコ首席指揮者就任演奏会の翌日のコンサートです。心なしか、ペトレンコは前日の終始、緊張感に包まれた指揮から柔らかい表情に変わっているように思えました。演奏は前日同様、スーパースター揃いのベルリン・フィルがペトレンコの見事な指揮の下、最高のパフォーマンスで魅了してくれました。これが無料のコンサートだとはね・・・。
なお、このコンサートはベルリンの壁崩壊30周年を記念したものです。30年前はバーンスタインが国際共同オーケストラを指揮して記念コンサートを東ベルリン、シャウシュピールハウスと西ベルリンのフィルハーモニーで行っています。バーンスタインはその翌年、肺がんで亡くなりましたから、貴重な文化遺産にもなりましたね。
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