で、実際のところ、今日の演奏は究極の《グレの歌》でした。これ以上の演奏はあり得ないでしょう。大満足以上です。
第1部では、冒頭のオーケストラの澄み切った響きで《グレの歌》の世界に一瞬のうちに吸い寄せられます。コンサートホールが森の自然に瞬間移動したかのように感じます。何という美しい響きなのでしょう。まだ、東響の素晴らしい弦楽セクションが未稼働状態なのに木管セクションだけで見事な響きを聴かせてくれます。そして、満を持した弦楽セクションが演奏を開始。オーケストラサウンドの究極を思わせる素晴らしい音楽が綴られていきます。そして、今日もトーヴェ役のドロテア・レシュマンは好調。その美声は昨日以上の素晴らしさ。しかし、その美声以上に魂の込められた音楽表現が素晴らしくて、強い感動を受けます。トルステン・ケールも「不思議なトーヴェ」のリリックな歌唱で魅了してくれます。愛を語りあう二人の歌唱が終了し、山鳩を歌うオッカ・フォン・デア・ダムラウが登場。その堂々たる体躯を活かして、微動だにしない姿勢で深い響きの超絶的に美しい歌唱を展開。いやはや、素晴らしい! 久々にこんな凄いメゾ・ソプラノを聴きました。昨日以上の凄い山鳩の歌です。音楽表現も素晴らしいのですが、それ以前にこの美しい声の響きを聴いているだけで魅了されます。柔らかくて、深々とした響きです。こういう声質のメゾ・ソプラノは昔、聴いた覚えがあります。記憶の底を探ると、思い出しました。オリガ・ボロディナです。彼女もその美声を聴いているだけで心地よいメゾ・ソプラノでした。不意にオッカ・フォン・デア・ダムラウの歌うエボリ公女を聴きたくなります。いかん、いかん、今はこの山鳩の歌に集中しましょう。圧巻の歌唱でした。最後は感動というよりも背中に悪寒が走るほどの興奮が沸き起こりました。
3人の独唱者と東響の最高の演奏で第1部は昨日以上の素晴らしさ。すべてをまとめ上げたジョナサン・ノットが神のように思えます。ここで休憩。休憩中も高揚感は収まりません。それはほかの聴衆のかたたちも同じで第2部、第3部への期待感が高まる一方です。
第2部も東響の素晴らしい響きで幕を開けます。そして、すぐに第3部に入ります。トルステン・ケールの歌唱も次第に熱を帯びて、ヘルデンテノールの本領を発揮します。次いで、農夫役のアルベルト・ドーメンはその実力通りの歌唱。これだけを歌わせるのはもったいないくらい。ワーグナーの楽劇でのヴォータンやアルベリッヒの名唱を思い出します。もっとも以前、ウィーンで《グレの歌》を聴いたときもこのドーメンが素晴らしい農夫を歌いました。現在、彼以上にこの農夫役を歌える人は思いつきません。まったく贅沢なキャストではあります。そして、いよいよ、毎回、素晴らしい合唱を聴かせてくれる東響コーラスが立ち上がります。今日もその大人数での迫力ある合唱を聴かせてくれます。今日は特に高音域での男声合唱が見事な響きでした。道化師クラウス役のノルベルト・エルンストはその張りのある個性的な歌唱が見事です。これまでは、R.シュトラウスのオペラでしか聴いたことがありませんが、このシェーンベルクの《グレの歌》でも、はまり役ですね。第3部の終盤の夏風の荒々しい狩(Des Sommerwindes wilde Jagd)では、さらに語り役のサー・トーマス・アレンが登場。練達の声を聴かせてくれます。何という豪華なキャストでしょう。ウィーンでも、ここまでのキャストは揃わないでしょう。ジョナサン・ノット&東響も昨日以上の精度の演奏を聴かせてくれて、東響コーラスの大合唱と一緒にフィナーレの感動的な盛り上がり。
こんな《グレの歌》はもう生涯聴くことができないほどの素晴らしさでした。今年、4回目の《グレの歌》でしたが、ジョナサン・ノットは流石の音楽作り。指揮もキャスティングも最高でした。昨日と今日、録音していたようですが、CD化されたら、史上最高の《グレの歌》になること間違いなしです。こんな最高の《グレの歌》を2日間、かぶりつきで聴けた幸せはなにものにも代えがたいものです。9月のヨーロッパ遠征でのクルレンツィスのダ・ポンテ三部作にも匹敵する素晴らしさでした。
ますます、ジョナサン・ノットにのめり込みそうです。来シーズンの目玉は楽劇《トリスタンとイゾルデ》ですが、むしろ、一緒に演奏されるシェーンベルクの交響詩《ペレアスとメリザンド》に期待が高まります。きっと、精度の高い超美しい演奏を聴かせてくれそうな予感がします。
今日のプログラムは以下です(昨日と同じ)。
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァルデマール:トルステン・ケール
トーヴェ:ドロテア・レシュマン
山鳩:オッカ・フォン・デア・ダムラウ
農夫:アルベルト・ドーメン
道化師クラウス:ノルベルト・エルンスト
語り:サー・トーマス・アレン
合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平
管弦楽:東京交響楽団
シェーンベルク「グレの歌」 (第1部の後で休憩)
演奏後の会場の盛り上がりは凄まじく、オーケストラ退席後もお馴染みの指揮者コール。ジョナサン・ノットを始め、歌手陣の一人一人ともsaraiは熱い握手を交わすことができました。かぶりつきの席の特権ですよ。
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