今日はハンブルクHamburgでゆったり散策。まずはハンブルク市立美術館Hamburger Kunsthalleで名画鑑賞。
2階の常設展示室で20世紀の作品の展示から古典的な絵画の展示に移りました。現在、フランスの印象派を中心とした画家たちの鑑賞を終えて、次はクノップフなどのベルギーの作品、ミレイ、ロセッティなどのラファエル前派やバーン・ジョーンズの作品に移ります。
フェルナン・クノップフの《仮面》。1897年頃、クノップフ、39歳頃の作品です。フェルナン・クノップフは、ベルギー象徴派の代表的な画家です。時に絵画以外のものも制作します。クノップフの作品にはいつも刺激を受けます。この仮面の男性とも女性とも分からぬ美形にいたく魅了されます。因みにこの時期、クノップフはイングランドとの交流を深め、そこでウィリアム・ホルマン・ハント、ジョージ・フレデリック・ワッツ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、フォード・マドックス・ブラウン、エドワード・バーン=ジョーンズといった画家たちと親交を深めるようになりました。この後にラファエル前派の作品が続くので、このあたりにクノップフの作品を展示したものと思われます。

オディロン・ルドンの《バーク(小さな船)》。1900年頃、ルドン、60歳頃の作品です。オディロン・ルドンもフェルナン・クノップフと同様にその作品にはいつもいたく刺激を受けます。本作では小さな手漕ぎボートに乗る男女が柔らかい光彩に包まれて、幻想的な雰囲気を現出しています。象徴主義にも似ていますが、あくまでもルドン独自の孤高のスタイルを貫いた作品のひとつです。ルドンが1900年以降繰り返し用いたモチーフであるバーク(本作では手漕ぎボート)は、正確な物語や図像的な意味なしに、別れ、移行、約束を告げるものとして機能しました。ところで、日本にもルドンの作品を集中的に収集している美術館があるそうです。岐阜県美術館です。是非、訪れたいと思っていますが、未だ果たせていません。

サー・エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズの《ヘスペリデスの庭》。1869/73年頃、バーン=ジョーンズ、36/40歳頃の作品です。エドワード・バーン=ジョーンズもその緻密で精密極まりない美しさの作品でいつも魅了されます。ラファエル前派とも深い関わり合いを持ちましたが、彼はラファエルよりもボッティチェリの影響を色濃く感じさせます。本作に登場するヘスペリデスは、ギリシア神話に登場する世界の西の果てにあるニンフたちです。「黄昏の娘たち」という意味を持ちます。ヘーシオドスによればヘスペリデスは夜の女神・ニュクスの娘たちであり、アイグレー(Aegle、輝き・明るい女)、エリュテイア(Erytheia、紅・赤い女)、牝牛の眼のヘスペレトゥーサ(ox-eyed Hesperethusa、夕焼け女)の3人姉妹で構成されています。彼女たちは不滅の処女であり、百の頭を持つ竜(または蛇)・ラードーンと一緒に、ヘラがゼウスと結婚したときに母のガイアから豊穣と愛の象徴として受け取った金色のりんごを地球の西の境界で守っています。本作の踊っているヘスペリデスの3姉妹は、ボッティチェリの春(プリマベーラ)の3美神をもとにしていると言われています。一方、バーン=ジョーンズは恋人のメアリー・ザンバコを含む実際のモデルに従って顔をデザインしましたが、何となく、ボッティチェリの絵画の女性も連想させます。ヘスペリデスのローブの美しい襞はアンドレア・マンテーニャとボッティチェッリを連想させるものです。このようにバーン=ジョーンズはイタリア・ルネサンス絵画の研究をもとに神話の世界を緻密な美しさで描き上げて、独自の世界を作り出しました。19世紀によみがえったボッティチェリの風情です。

サー・ジョン・エヴァレット・ミレイの《メヌエット》。1866年以降、ミレイ、37歳以降の作品です。ミレイはラファエル前派を代表する画家の一人で、その代表作の《オフィーリア》は今や知らぬ者のいない有名な絵画になりました。しかし、彼はその《オフィーリア》を描いた1852年以降、しばらくすると、その人気が落ち始めます。批評家ジョン・ラスキンの妻であったユーフィミアとの結婚が世間に認められないものとなったのもその一因のようです。ミレイを寵愛していたヴィクトリア女王はユーフィミアの謁見を拒否し、以後ミレイに肖像画を描かせる事はありませんでした。苦境に陥ったミレイが復活したのは、1863年、ロイヤル・アカデミーに出品した『初めての説教』が最も人気のある作品に選ばれ、正会員として選出されたことが契機でした。この『初めての説教』でイギリスに少女画ブームが捲き起こりました。ファンシー・ピクチャーとも呼ばれる子供を描いた絵で人々に広く愛されるようになったミレイが描いた一枚が本作です。ミレイの言葉を借りると、「ただ、微妙で静かな表情のみが完璧な美と両立する。誰が見ても美しい顔を描くなら、人格が形成され表情が決まる前の8歳前後の少女が一番よい」を地で行った作品がこの一枚です。もっともsaraiはこういう作品は好みません。ラファエル前派時代のミレイを愛するのみです。

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの《トロイのヘレナ》。1863年頃、ロセッティ、35歳頃の作品です。ラファエル前派の共同創立者で知的なリーダーであるロセッティが、数年前からイタリアの古典詩の本のイラストレーター、詩人、翻訳者として働いた後、1859年に油絵の世界に戻りました。 寓話的で文学的な言及のある一連の女性の肖像画が登場します。本作のトロイのヘレナのモデルは彼の恋人アニー・ミラーです。アニー・ミラーはもともとウィリアム・ホルマン・ハントによって見出されたラファエル前派を具現するタイプの女性モデルで、ハントの恋人でもありました。ハントのパレスチナへの長期旅行の間にハントの意に反して、ロセッティのモデル兼恋人になったようです。この一件でハントとロセッティは不仲になります。ともあれ、トロイの陥落は、当時の英文学で人気のある話題でした。たとえば、アルフレッド・テニスンも取り上げました。本作ではハリウッドばりの金髪の美女として、アニー・ミラーをモデルにしたトロイのヘレンが描かれていますが、さすがにロセッティらしい魅惑に満ちています。しかし、やはり、ロセッティの2大モデル、エリザベス・シダルやジェーン・バーデンの美には遠く及ばないというのがsaraiの意見ですが、いかがなものでしょうか。何と言っても、この年にはエリザベス・シダルをモデルにした傑作《ベアタ・ベアトリクス》が描かれます。saraiの大好きな絵画の一枚です。

この後は何故か、時代を遡り、ルーカス・クラナッハのコレクションになります。多分、saraiの歩いた経路がおかしかったのでしょう。ともあれsaraiの愛好するクラナッハのコレクションが楽しめます。
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