バッハ・コレギウム・ジャパン のバッハを聴いて、満足しないことはありません。今日のように初聴きの曲ばかりだったとしても、その素晴らしい響きは器楽はもちろん、声楽も最上級です。
前半はまず、鈴木優人のパイプオルガンでコラール風の曲が2曲。安定した響きで心が癒されます。ファンタジアはコラール風の主題がフーガで折り重なって、妙なる音楽を形成します。激することも熱くなることもありませんが、その真摯な演奏に深い安寧を覚えます。続くコラールは短い曲ですが、祈りに満ちた音楽をしみじみと聴き入るのみです。オルガンで演奏されるコラールは今日のコンサートの幕開けにふさわしい雰囲気を醸し出します。
次はペルゴレージのスターバト・マーテルをバッハが編曲したもので、ドイツ語の歌詞で歌われます。ソプラノとアルト(カウンターテナー)の二人の歌手と小規模な室内オーケストラ(ヴァイオリン4人とヴィオラ1人、チェンバロと通奏低音)での演奏です。実はsaraiは原曲とこのバッハの編曲版の違いがあまり分からないんですが、いずれにせよ、その密やかで静謐さに満ちた演奏は心を優しく包み込みます。歌手2人の出来が素晴らしく、ソプラノの松井亜希がこんなに素晴らしいとは初めて気が付いた思いです。力みのないピュアーな高音はとても心地よく響きます。音楽的な表現も見事です。カウンターテナー(CT)のベンノ・シャハトナーは初めて聴きますが、ともかく、その声の透き通った美しさに魅了されます。sarai好みのCTです。正直言って、一声聴いて、ほっとします。意外にsarai好みの透き通った声のCTはなかなかいないので、がっかりすることも多いですからね。2人の美しい声の独唱、重唱が続き、何とも言えない心地になります。BCJの古楽アンサンブルも2人の独唱者と同様に美しい響きの演奏です。古楽の楽しみ、極めれりという心境です。最後のアーメンでこの美しい古楽は静謐に終わります。鈴木雅明の音楽構成・解釈・表現の見事さが際立っていました。
後半は鈴木雅明がマイクを持って、舞台に現れて、簡明な講義があります。後半のモテットというのは“言葉”という意味であり、カンタータ以上に合唱に重点があるそうです。19世紀には、器楽なしで合唱のみでの演奏も流行したそうですが、バッハの時代には器楽と共に演奏されたので、BCJでは器楽付きで演奏するそうです。また、本来、モテットはお葬式に演奏するためのもので、晴れやかな音楽であったとしても、それは死者が天国に迎い入れられるためということ。しかしながら、今日演奏するモテットは難しい対位法の技法を用いているので、お葬式前に急に演奏の準備をするのは難しかろうという点も指摘されました。
後ろに合唱隊がずらりと並びます。最初はどういう並び方か、分かりませんでしたが、よくよく聴いて分かりました。左右に混成四部の2つの合唱隊が分かれて並び、それぞれはソプラノ3人、アルト(CT含む)3人、テノール2人、バス2人という構成です。計20名で、その中に独唱者4人も含まれています。室内オーケストラは先ほどの構成にオーボエ3人(オーボエ・ダ・モーレ(もしくはバロックオーボエ)1人とオーボエ・ダ・カッチャ二人)とファゴット1人を加えたもので、曲によっては通奏低音のみになります。
まず、器楽のみで、カンタータ《わが片足すでに墓穴に入りぬ》BWV 156より〈シンフォニア〉が演奏されます。有名な旋律がオーボエの三宮正満によって吹かれますが、いつもの名人ぶりに比べると、少し響きに精彩がありません。オーボエは繊細な楽器なので、いつも絶好調とはいかないのですね。ともあれ、美しい旋律に心が和みます。
続いて、モテットのBWV 226、BWV 229、BWV 225。それぞれ、3曲、2曲、3曲から構成される小規模な合唱曲です。たしかに複雑な対位法の合唱が左右の合唱隊が入れ替わり歌いながら進行します。素晴らしい声楽の響きにうっとりと聴き入ります。コラールが歌われると、心が洗い清められる思いです。バッハのコラールの合唱の美しさは素晴らしいです。BCJの合唱はそれを見事に表現します。お葬式でこういう美しいコラールが歌われる胸がジーンと熱くなるでしょう。
今日は珍しくアンコール曲があります。今回のコンサートは今シーズンの定期演奏会の最後なので、シーズン全体のアンコールだそうです。また、今日のCTはヨーロッパで活躍している人でBCJに初登場なので、アルトのアリア1曲だけのカンタータ BWV53をやるとのこと。もっともこの曲はバッハの真作ではないことが分かっているそうです。ともあれ、CTのベンノ・シャハトナーは美しい歌声を聴かせてくれました。
今日のプログラムは以下です。
指揮・チェンバロ:鈴木雅明
ソプラノ:松井 亜希
アルト:ベンノ・シャハトナー
テノール:櫻田 亮
バス:ドミニク・ヴェルナー
オルガン独奏:鈴木 優人
オーボエ:三宮正満、荒井豪、森綾香
ヴァイオリン:若松夏美、高田あずみ
ヴィオラ:秋葉美佳
チェロ:山本徹
ヴィオローネ:西澤誠治
ファゴット:堂阪清高
合唱・管弦楽:
バッハ・コレギウム・ジャパン J. S. バッハ
ファンタジア ハ短調 BWV 562
《われらの悩みの極みにありて》BWV 641
詩編51編《消してください、いと高き主よ、私の罪を》BWV 1083
〜ペルゴレージ《スターバト・マーテル》による〜
《休憩》
カンタータ《わが片足すでに墓穴に入りぬ》BWV 156より〈シンフォニア〉
モテット《み霊はわれらの弱きを助けたもう》BWV 226
モテット《来ませ、イエスよ、来ませ》 BWV 229
モテット《主に向かいて新しき歌をうたえ》BWV 225
《アンコール》
カンタータ《いざ打てかし、願わしき時の鐘よ》BWV 53(偽作、ゲオルク・メルヒオル・ホフマン作?)
最後に予習について、まとめておきます。
最初のファンタジア ハ短調 BWV 562は当初のプログラムで予告されていなかったので予習なし。《われらの悩みの極みにありて》BWV 641は以下のCDで予習をしました。
アンジェラ・ヒューイット(ピアノ版) 2001年頃までに録音
ロベルト・ケプラー(ジルバーマン・オルガン) 1966年頃の録音 フライブルク大聖堂
マリー=クレール・アラン 1990年9月、アルクマール(オランダ)、聖ラウレント教会
本来はオルガンで弾かれるべきでしょうが、アンジェラ・ヒューイットのピアノの抒情的な思い入れには痺れます。
詩編51 BWV 1083は以下のCDで予習をしました。
エマ・カークビー(ソプラノ)、ダニエル・テイラー(カウンターテノール)、シアター・オブ・アーリー・ミュージック 2006年2月 Chapelle Notre-Dame-de-Bon Secours, モントリオール, カナダ
古楽の名手、エマ・カークビーのソプラノが際立っています。なお、カークビーはペルゴレージの原曲も2度も録音しています。
追加でペルゴレージの原曲《スターバト・マーテル》も以下のCDで聴きました。
バーバラ・ボニー、ショル、ルセ指揮ル・タラン・リリーク 1999年録音
バーバラ・ボニーの美しいソプラノが聴きものです。アンドレアス・ショルのカウンターテノールももちろん、美しいです。
カンタータ《わが片足すでに墓穴に入りぬ》BWV 156の〈シンフォニア〉は以下のCDで予習をしました。
バティアシヴィリ、バイエルン放送室内管弦楽団 2013年12月 グリューンヴァルト、アウグスト・エファーディング・ホール
ヴァイオリンが旋律を奏でる編曲版です。バティアシヴィリの美しいヴァイオリンの音を堪能できます。
モテットのBWV 226、BWV 229、BWV 225は以下のCDで予習をしました。
野々下由香里、松井亜希(ソプラノ)
ダミアン・ギヨン(アルト)
水越啓(テノール)
ドミニク・ヴェルナー(バス)
鈴木雅明(指揮)
バッハ・コレギウム・ジャパン 2009年6月 神戸松蔭チャペル
何の不足もない演奏です。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽