fc2ブログ
 
  

田部京子のベートーヴェンは熱いパトスの奔流@すみだトリフォニーホール 2020.7.17

コンサートがなかなか聴けない日々が続きますが、その中で、田部京子のベートーヴェンを聴く機会があるのは僥倖としか言えません。先月は東響とのコンビでのベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番でしたが、今日は新日フィルとのベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番。いずれも彼女のCDも出ていない作品で絶対に聴き逃がせません。今回は昨日になって、ぎりぎりのタイミングで追加チケットが売り出されて、慌ててゲット。実際に会場に行ってみると、かなり空席が目立ちます。もちろん、席は前後左右は空けた配置ですが、その配置でもかなりの空席。何故に追加チケットの販売がぎりぎりになったのか、謎です。それにしてもこれでは、コンサートはかなりの赤字でしょう。某大物政治家の3密の3000人規模のパーティーが許されるのなら、整然と行われるオーケストラコンサートが定員半分以下の1000人に制限する理由は判然としません。政治資金が必要な以上にオーケストラの維持費用は死活問題です。制限するのなら、オーケストラへの資金援助は必須でしょう。せっかく日本のオーケストラが欧米のオーケストラの水準まで向上したのに、この音楽文化が後退することになるのは国としての損失です。そういうことを思わせるような素晴らしいオーケストラの演奏でした。頑張れ!新日フィル。

さて、本題に戻りましょう。前半は田部京子が独奏ピアノを弾くベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番。実はこの曲、最近のsaraiのお気に入りの作品の一つです。昨年のアンドラーシュ・シフの演奏は最高でした。
今日の演奏ですが、まず、長いオーケストラの主題提示部が続きますが、オーケストラのピュアーで美しい響きに魅了されます。ほとんど、この新日フィルは聴いていませんし、指揮者の太田弦は多分、初聴きですが、彼らの演奏の見事さに聴き惚れます。そして、田部京子のピアノが満を持して入ってきます。中盤まではエンジンがかからずに彼女のいつもの切れがありません。高域の響きも少し繊細さを欠きます。何せマスク着用での演奏なので、集中力のある演奏が困難なのかしら。しかし、第1楽章の後半あたりから、だんだん、全開モード。集中力のある演奏で切れも響きもよくなります。とりわけ、カデンツァでは、華麗なピアニズム・・・使い古された表現ですが、熱いパトスがほとばしる素晴らしい演奏にぐっと惹き付けられます。第2楽章は何というか、気高い精神の音楽表現でベートーヴェンの本質を突いた最高の音楽が展開されます。ベートーヴェンが作り上げた高邁で深い精神世界を田部京子の詩情あふれるピアノが歌い上げて、太田弦指揮の新日フィルが美しい響きでしっかりと支えます。人間でありながら、神の領域に上り詰めたベートーヴェンの音楽の素晴らしさを現代の日本の音楽家たちが忠実に再現していきます。何か不思議な感覚です。ウィーンの自然の中を散策しながら深い思索にふけるベートーヴェンの姿が現出したような思いに駆られます。音楽は人間が作り上げた最高の文化であることを実感しつつ、また、こうして、生の音楽が聴けることに感謝しながら、演奏家たちと思いを一つにして、最高の音楽を味わいます。第3楽章は音楽の祝祭であり、突進する勢いで終始、奏でられます。高揚する気持ちでフィナーレを迎えます。素晴らしい演奏でした。ただ、田部京子はまだまだ余力を残した演奏。これ以上の演奏ができるだろうと思います。いつか、最高の演奏を聴かせてもらいましょう。もしかしたら、明日のコンサートではもっと弾けるかもしれません。残念ながら、明日は東響のコンサートがあるので、今日と同じ内容のこのコンサートが聴けず、残念です。

後半はシューベルトの交響曲第8番 「グレイト」。第1楽章冒頭のホルンで、テンポがかなり早いので、ちょっと違和感を覚えます。もう少し、ゆったりと重厚なテンポでないとしっくりきません。しかし、これが若き指揮者の太田弦の表現のようです。saraiは今まで、この曲はシューベルトの遺作で最後の交響曲という意識で聴いてきました。ですから、それらしい音楽を期待してしまいます。まあ、考えてみれば、シューベルト自身、この曲が最後の交響曲という意識はなかったでしょう。そうだとすれば、この曲は本来はシューベルトの中期を飾る交響曲で、シューベルトの本当の音楽的熟成はこの後に作曲されるだろう、4曲ほどの交響曲の先にあったはずでしょう。今日の若い指揮者はそのあたりを考えて、ベートーヴェンであれば、第3番《英雄》あたりの位置づけで、このシューベルトの交響曲を演奏しているのではないかと思いながら、saraiもそういう意識を持って、演奏に聴き入ります。うんうん、少し違和感はあるものの若きシューベルトの意欲に燃えた作品として、なかなか素晴らしい演奏ではあります。それに新日フィルのオーケストラの澄み切った響きも素晴らしいです。第1楽章のテンポに慣れたせいか、第2楽章、第3楽章はこれまで聴いてきた演奏とさほど差異は感じられません。ただ、清新な演奏ではあります。そして、第4楽章の晴れやかな音楽は若きシューベルトがこれから、新しい音楽を切り開いていく気概に満ちた宣言のようにも感じられます。その伸びやかな高揚感にあふれた音楽にsaraiも同調して、気分が高揚します。これがシューベルトの中期の音楽だとすれば、シューベルトの音楽的才能はモーツァルトやベートーヴェンを超えるかもしれないと驚愕します。あの遺作の3曲のピアノ・ソナタも中期の作品(ベートーヴェンで言えば、アパッショナータやワルトシュタイン)とすれば、後期のピアノ・ソナタはどんな高みに上り詰めたんでしょうか。太田弦が提示した音楽はある意味、衝撃的でした。もっとも、音楽表現自体はよく練れた穏当なものではありました。これからはシューベルトの晩年の作品の聴き方が変わるかもしれません。やはり、生で聴く音楽は色々と感じるところがあります。早く、音楽が普通に聴ける状況になることを切に願います。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:太田弦
  ピアノ:田部京子
  管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団  コンサートマスター:崔文洙

  ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 Op. 15

   《休憩》

  シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944 「グレイト」


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のベートーヴェンのピアノ協奏曲 第1番は以下のCDを聴きました。

 内田光子、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル 2010年2月4日 ベルリン、フィルハーモニール ライヴ録音
 アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーン交響楽団 1979年、TV放送のために催された特別公開演奏会でのライヴ録音
 
何といっても、ジュリーニの指揮での分厚い響きの素晴らしさとミケランジェリの切れ味鋭いピアノの演奏は最高の音楽を聴かせてくれます。ミケランジェリの録音の中でも最高の1枚です。一方、ラトルはモダンな表現でこの曲の別の一面を聴かせてくれ、内田光子のピアノも素晴らしいタッチの響きを聴かせてくれ、ミケランジェリ盤に肉薄します。


2曲目のシューベルトの交響曲第8番 「グレイト」は以下のCDを聴きました。

 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団 1970年、セッション録音
 
ゆったりしたテンポのスケール感のある演奏ですが、それでいて活き活きとした見事な演奏です。これはセルの最後の録音のうちの一つ。ハイレゾでの音質も素晴らしいです。



↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!








テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

       田部京子,
人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR