ルツェルンLuzernの街歩き中で、ローゼンガルト・コレクションSammlung Rosengartに立ち寄っています。現在、クレーの作品をピックアップして、ご紹介しているところです。ここまで、1913年から1924年までの作品を見てきました。
これから、1925年の作品から、順にsaraiが気に入った作品を見ていきます。なお、制作年の後ろの括弧の中の数字はその年の作品番号です。
《魚の絵》。1925年(5)、クレー46歳頃の作品です。海の底を思わせる深いブルーと薄いブルーがグラデーションした画面に魚がいっぱい泳いでいます。クレーの魚シリーズの一枚ですが、なんと美しい絵なんでしょう。この年、傑作中の傑作、《金色の魚》(ハンブルク市立美術館所蔵)も描かれます。《金色の魚》は画面の中央に大きく魚を配した作品ですが、この多くの魚が群れ泳ぐ作品は別の方向性の傑作です。

《造花のある静物画》。1925年(24)、クレー46歳頃の作品です。ブラシで描いたモノクロ作品です。タイトルのとおり、造花を描いた不思議な静物画です。造花と言っても、紙細工で不器用に作った花がモティーフで実際にそういうものを見て描いたのか、クレーが実際の花を頭の中で再構成したものか、判然としません。saraiは後者に1票。

《凧の上がる村》。1925年(75)、クレー46歳頃の作品です。銀色の水彩絵の具とペンとインクで輪郭を描き、水彩で色付けした作品です。長閑な村の風景がかちっと描かれています。いつものようにフォルムをべた塗りで色付けするのではなく、筆跡の残るように薄く色づけしています。リトグラフのような味わいの佳作です。

《古典的な庭園》。1926年(1)、クレー47歳頃の作品です。縦横の直線で緻密に輪郭を描き、濃淡を変えた茶色の水彩1色で色付けしています。まるでエッチングのように見えます。庭園の丘や木々や花の描き方がとてもユニークです。クレーのこういう作品は初めて見たような気がします。

《魚-人の顔》。1926年(30)、クレー47歳頃の作品です。これは素晴らしいですね。古代のロマンを描いた象徴主義の作品であるかのごとくに見えます。まず、画面全体の茫漠として神秘的な色彩に魅了されます。薄いブルーと薄いオレンジ色のグラデーションが何と素晴らしい色彩なのかとうっとりとします。そして、画面右下の女性的な顔の一部の美しさに見とれます。緻密に描かれた髪は装飾的な文様で、2つの切れ長の目が印象的です。目を魚仕立てで描いていますが、そんな工夫は不要なくらい、繊細で神秘的な顔です。
こんな素晴らしいクレーの作品は見たことがありません。クレーの作品のベスト10に推したい絵です。

《寝台に横たわるヘタイラ》。1926年(57)、クレー47歳頃の作品です。これも素晴らしいですね。パッと見た目には、アラビアの王宮のシェエラザードを連想しましたが、このベッドの女性はヘタイラとのこと。ヘタイラとは古代ギリシャの教養豊かな高級娼婦のことです。ヘタイラが描かれた有名な美術作品としては、フランスの画家ジャン=レオン・ジェロームが1861年に制作した絵画、《アレオパゴス会議のフリュネ》(ハンブルク市立美術館所蔵)があります。。
その《アレオパゴス会議のフリュネ》では裁判にかけられたヘタイラのフリュネは弁護人が陪審席の前で彼女の衣服をはぎ取り、美しい裸体をさらすと、彼女はそのあまりの美しさの故に無罪を勝ち取るという伝説が描かれています。
クレーはもちろん、その作品を念頭にこの作品を描いたのでしょう。しかし、クレーは女性のエロスよりも可愛らしさを表現したようです。画面の薄い黄色と薄い赤紫のグラデーションがとても美しい作品です。

《階段と門》。1926年(80)、クレー47歳頃の作品です。ひたすら、稲荷神社の連続する鳥居のような門とそこにある階段が画面全体を覆い尽くす作品です。よく見ると、画面の左側には小さな文字も書かれているようです。水彩の色付けはまるで染みのように描かれています。精緻な抽象画とも言えます。

1925年、1926年の作品を鑑賞しましたが、この頃はクレーのほぼ10年に及ぶバウハウス時代の真ん中あたりで、次々と傑作を描く、いわば、中期の傑作の森の時代と言えそうです。クレーの野心的な絵画探求はさらに続きます。
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