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ルツェルン散策:ローゼンガルト・コレクション~クレーの名作 1927年-1929年

2019年9月14日土曜日@ルツェルン/11回目

ルツェルンLuzernの街歩き中で、ローゼンガルト・コレクションSammlung Rosengartに立ち寄っています。現在、クレーの作品をピックアップして、ご紹介しているところです。ここまで、1913年から1926年までの作品を見てきました。
これから、1927年の作品から、順にsaraiが気に入った作品を見ていきます。なお、制作年の後ろの括弧の中の数字はその年の作品番号です。

《前後不覚中の小さなお馬鹿さん》。1927年(170)、クレー48歳頃の作品です。クレーは晩年の天使シリーズを始めとする線画が印象深いですが、以前より、デッサン画はもちろん、線画を描き続けていました。この滑稽な作品は天使シリーズの一面につながるものです。深刻さもこういう軽み(かろみ)も併せ持つのがクレーの魅力です。

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《セレモニーの入り口》。1928年(156)、クレー49歳頃の作品です。晴れやかなセレモニーイベントの雰囲気をあえて稚拙な筆で描いた一作です。テクニックや芸術的な深みを捨てて、幼児のような心でストレートな表現をできるか・・・クレーの真摯な模索です。

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《フェンスで囲まれている》。1928年(74)、クレー49歳頃の作品です。上の作品はあえて稚拙な筆で描きましたが、クレーが本気で描くとこんなに凄いものが生まれます。構成と言い、色彩のバランスといい、パーフェクトな作品です。この魅力に満ちた画面は天才のみによって発想できるものでしょう。抽象画で美の極致を描き出した一枚です。

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《無題》。1928年(74)、クレー49歳頃の作品です。もともと、上の作品《フェンスで囲まれている》のオリジナルな作品で、作品番号も同じです。が、どう見ても上の作品の完成度が高いですね。

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《肥沃な国の国境線(あるいはボーダー柄)の記念碑》。1929年(40)、クレー50歳頃の作品です。うーん、抽象性の高い作品で、読み解きが難しいですね。単純にこういうボーダー柄模様のモニュメントと思えばいいのでしょうか。意味の解釈を諦めて、抽象画としての魅力を探ると・・・分かりません。地柄の画面全体のボーダーの上に数枚の矩形や台形のボーダー柄のパッチが張り合わされています。じっと見るとパッチが3Ⅾ的に浮き上がって見えます。そういう絵としての遊びがこの絵の表現の狙いなんでしょうか。謎のような作品です。前年からのエジプト旅行が契機になっているような気もします。すると、肥沃な国とはエジプトか・・・。

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《結晶の風景》。1929年(75)、クレー50歳頃の作品です。クレーの作品はますます抽象度を高めていきます。風景画がこんな風ですからね。絵の構成要素を単純化して、色彩効果を主体にして、美の本質に切り込んでいくというアプローチなんでしょうか。すべてが挑戦であり、オリジナリティのあくなき開拓です。過程的な作品も完成度を高めた作品も混在します。

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《静物》。1929年(345)、クレー50歳頃の作品です。普通の静物画は具象的なモティーフをもとに画面を構成しますが、この静物画は抽象的なモティーフを画面に配置して構成しています。この作品も新たな挑戦の分野での過程的な作品なんでしょう。クレーが抽象画で多用してきた直線とか矩形が捨て去られ、すべて、閉曲線による自由図形がモティーフになっていることが注目されます。黒い矢印は注目すべき場所を指示しているのがクレーの作法でしたが、ここではさもない図形を指し示しています。中央の赤の図形を含む目立つモティーフが中心的なモティーフではないと読み取れますが・・・。例えば、全体を人物と見立てれば、この下の2本のモティーフは足にあたります。そういう地味だけれど、これは重要なパーツなんだよって、読み解けば、あまりに下らないかなあ。見るものに考えさせるところにこの作品の力点があるのかもしれません。

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《窓の背後の恐怖》。1929年(328)、クレー50歳頃の作品です。安定した創作活動を続けてきたバウハウス時代も時代の潮流に吞み込まれていこうとします。ナチスはまだ、産声を上げたばかりですが、世界恐慌の波はドイツを転落させていきます。窓の奥で何かに怯えている人物はクレー自身のような気がします。芸術家も否応なく、時代背景のもとに創作活動を続け、生身の人間として、限界状況を受け入れるしかありません。

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創作活動の根幹を成してきたバウハウス時代もあと2年ほど残すだけになり、クレーも苦悩します。しかし、最高傑作《パルナッソス山へ》はその苦悩の先に生まれることになります。芸術家は時代と戦い、己の中に道を見つけていきます。



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東京交響楽団、復活した美しい響き@東京オペラシティコンサートホール 2020.10.3

前半の曲はちょっとムードミュージック的に聴かせどころもありますが、saraiの守備範囲ではないので、特にコメントなし。

後半のシベリウス、想像の範囲外の素晴らしい演奏。saraiの音楽好きの友人にオーケストラの音響マニアがいますが、やっとその意味が分かったような気がします。saraiにとって、音楽とは人間が創造する崇高な精神世界であり、音響はあくまでもその手段に過ぎないと思っていました。でも、考えてみれば、オーケストラの音響は自然界に存在しないもので、人間の精神活動によって生み出されるものです。ですから、美しい音響はそれ自体、精神活動の証しなのでしょう。今日のシベリウスの演奏は東響のオーケストラ能力をフルに発揮した素晴らしい音響が響き渡りました。まさに“鳴っている”という感じです。とりわけ、第4楽章は弦の美しい響き、木管の冴えた響き、ホルンの堂々たる響き、それらが交互に響き、そして、最後はそれらが融合して、最高の音響で魅了してくれました。実はステージ上の東響の配置はコロナ前の通常の配置で、コロナ禍のときのような間隔を空けた配置ではなかったんです。密集した奏者が奏でる響きは実にまとまった音響になることを久しぶりに体験しました。東響のアンサンブルの復活です。

素晴らしい音楽を聴けた喜びで胸が熱くなりました。東響を応援してきた音楽ファンとしてはこれ以上のことはありません。この上はジョナサン・ノットが東響を早く指揮してもらいたいものです。いずれはマーラーの復活をコロナ後の記念演奏として、プログラムに載せてくれることを期待します。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:大友直人
  ソプラノ:嘉目 真木子
  テノール:錦織 健
  管弦楽:東京交響楽団  コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  千住 明/松本 隆(作詞):詩篇交響曲「源氏物語」 (2008)
 Ⅰ 序曲 Ⅱ桐壺 Ⅲ夕顔 Ⅳ若紫 Ⅴ葵上 Ⅵ朧月夜 Ⅶ須磨 Ⅷ明石 Ⅸ幻 Ⅹ終曲

   《休憩》

  シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 op.43


最後に予習について、まとめておきます。

2曲目のシベリウスの交響曲第2番は以下のLPレコードを聴きました。

 ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団 1966~70年、ロンドン、キングズウェイ・ホールおよびアビー・ロード・スタジオ セッション録音

全集盤からの一枚です。素晴らしい音響、素晴らしい録音で言うことがありません。亡くなった叔父さんから、晩年にいただいたLPレコード群の中の逸品です。全集を聴き通さないといけませんね。それにしてもバルビローリのツボを押さえた指揮は素晴らしいし、彼の手兵のハレ管弦楽団は素晴らしい反応でその指揮に応えています。バルビローリはマーラーだけでなく、ブラームスもシベリウスも素晴らしい!



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首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

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金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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