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河村尚子のさらなる飛翔@紀尾井ホール 2020.10.13

河村尚子のたゆまない努力が大きな果実を結んだといえる、とても充実した内容のピアノ・リサイタルでした。昨年までの4回にわたるベートーヴェン・ピアノ・ソナタ・プロジェクトでも、はっきりと分かっていたことですが、彼女はピアノ・リサイタルに向けて、途轍もない準備を重ねてきています。どれだけ、練習を積み、どれだけ、曲の解釈を重ねることで、ここまでの高いレベルの演奏につなげることが出来たのでしょう。一音一音、1フレーズ1フレーズが丹念に練り上げられていて、そこはそう弾くのねって、驚きを感じながら、ひたすら、彼女のピアノの響きに引き込まれます。彼女のオリジナリティが随所に感じられて、それでいて、作曲家の意図の枠からはみ出ることのない誠実さも感じます。完璧に弾き込まれた楽譜は高いテクニックで超高速のパッセージも破綻をみせません。

モーツァルトの有名なソナタも新鮮さを湛え乍ら、心地よく聴くことができ、一切、退屈さを感じさせません。とりわけ、第1楽章の変奏曲はまるで、語り部がモノローグを語るような風情で変奏ごとに色んな表情を見せて、長大な楽章がまるで物語絵巻のように展開されます。第3楽章、トルコ行進曲はちょっと早めのテンポで心地よい響きを残して、駆け抜けていきます。

今日、一番、素晴らしかったのは、シューベルトの中期のソナタです。あえて、後期のソナタを弾かずに中期のソナタを弾いた意味が分かるような演奏でした。青春の永遠の憧れを秘めたような演奏は、この曲が持つ明るさやくったくのなさの内に秘めた、シューベルトの心の内のロマンを余すところなく表現していました。特に第3楽章の充実度はいかばかりか、大きな感銘を覚えました。しかし、saraiはその演奏の素晴らしさを少し聴き逃がしていたようです。アンコールで第2楽章が弾かれましたが、これこそ若きシューベルトの永遠へのロマンそのものではないですか。シューベルトとしてはとても短いソナタですが、ぎっしりした内容の音楽をたっぷりと聴かせてもらいました。河村尚子は今後、シューベルトの後期の遺作ソナタ3曲に向けて、そのキャリアを発進させたようです。どういうシューベルトになるか、ちゃんと聴かせてもらいますよ。これからも十分な準備をふまえて、素晴らしい高みに至るシューベルトを期待しています。

後半のショパンも前半のモーツァルト、シューベルトと同様に素晴らしい演奏でした。が、やはり、ここはシューマンを弾いてもらいたいところでした。saraiの個人的な趣味ですが、河村尚子の才能はドイツ・オーストリアものにこそ、向いていると勝手に思ってしまいました。交響的練習曲、クライスレリアーナ、幻想曲・・・


今日のプログラムは以下です。


  モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331
  シューベルト:ピアノ・ソナタ 第13番 イ長調 D664 Op.120

   《休憩》

  藤倉 大:「春と修羅」(栄伝亜夜バージョン)
  ショパン:夜想曲第17番 ロ長調 Op.62-1
  ショパン:スケルツォ 第4番 ホ長調 Op.54
  ショパン:ポロネーズ 第7番「幻想」変イ長調 Op.61

   《アンコール》

    ショパン:夜想曲 第8番 変ニ長調 作品27-2
    ショパン:幻想即興曲 嬰ハ短調 作品66
    シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D664 より、第2楽章「アンダンテ」


最後に予習について、まとめておきます。以下のCDを聴きました。

1曲目のモーツァルトのピアノ・ソナタ 第11番は以下のCDを聴きました。

 マリア・ジョアン・ピリス 1990年5月 ハンブルク、フリードリヒ・エーベルト・ハレ セッション録音
 
ピリスの純粋無垢な演奏に心打たれます。ハイレゾで音質も最高です。


2曲目のシューベルトのピアノ・ソナタ 第13番は以下のCDを聴きました。

 田部京子 2010年2月20日 1999年3月30日~4月2日 豊田市コンサートホール セッション録音
 
シューベルトのスペシャリストである田部京子の奥行のある演奏です。


4曲目のショパンの夜想曲第17番は以下のCDを聴きました。

 ダン・タイ・ソン 1986年9月23日~28日 福島市音楽堂 セッション録音
 
ショパン・コンクールでの優勝の6年後の演奏です。定評通りの素晴らしい演奏。


5曲目のショパンのスケルツォ 第4番は以下のCDを聴きました。

 マウリツィオ・ポリーニ 1990年9月 ミュンヘン セッション録音
 
ポリーニのスケルツォですから、文句ない演奏。意外に中間部の抒情的な演奏が美しいです。


6曲目のショパンのポロネーズ 第7番「幻想」は以下のCDを聴きました。

 マウリツィオ・ポリーニ 1975年11月 ウィーン セッション録音
 
ポリーニのポロネーズも文句ない演奏。幻想的な美しさが表出されています。



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テーマ : クラシック
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金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
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10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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