ロータス・カルテットは今や、saraiが愛好するカルテットのベスト3にはいります。たとえ、トリオの演奏になっても流石の演奏を聴かせてくれます。トリオだと、なぜか、立奏なんですね(もちろん、チェロは着席)。
前半はベートーヴェンの弦楽三重奏曲。ベートーヴェンは若いころに作品9の3曲を書いて、このジャンルの作曲はやめて、弦楽四重奏曲に打ち込みます。今日はその中の1曲。Op.9-1です。
ロータス・カルテットの3人の演奏は見事ですが、はっきり言って、この曲は物足りません。やはり、3声では、ベートーヴェンの真骨頂が活かされない感じです。ベートーヴェンが作品9の3曲だけ書いて、このジャンルから撤退したことが分かるような気がします。西洋音楽の基本はやっぱり、4声以上なのねって実感させられます。バロックのトリオソナタは通奏低音が入りますから、実際は4声以上の音楽です。
後半のモーツァルトのディヴェルティメント K.563は同じ弦楽三重奏ですが、これはベートーヴェンと違って、とても充実した作品です。では、3声だから表現力がないというわけではないのですね。このモーツァルト晩年(モーツァルト32歳、3大交響曲の直後に作曲)の名作をロータス・カルテットの3人が最高の演奏で聴かせてくれます。第1楽章の豊かな響き、そして、第2楽章の哀愁のあるアダージョ。うっとりりと聴いていると、第3楽章の美しいメヌエットの後、第4楽章の美しい(懐かしい)メロディーの演奏が始まります。そして、この楽章の後半、とても熱く、高揚した音楽に上りつめていきます。虚を突かれた感じで、圧倒されます。この楽章で終わっても大変、感動したでしょう。第5楽章はまたメヌエット。その名の通り、流麗で踊り出してしまうようなノリの良い演奏です。気持が昂ぶります。最後の第6楽章はそよ風を思わせる清々しい音楽です。《フィガロの結婚》のそよ風のデュエット(手紙の二重唱)を想起します。saraiが名づけると、そよ風のトリオです。なんとも心地よい演奏に感銘を受けます。結局、後半の3楽章がとても素晴らしい演奏で大変、魅了されました。saraiの不明により、こういうモーツァルトの傑作を聴き逃がしていました。言い訳けになりますが、ディヴェルティメントという名前がいけませんね。初期の軽い喜遊曲と同じような曲だと誤解してしまいます。晩年の室内楽の傑作のひとつです。
やんやの喝采に応えて、アンコールはベートーヴェンの弦楽三重奏曲 第4番 ハ短調 Op.9-3から、スケルツォです。これはとても短い曲ですが、充実した曲です。これなら、今日の本編はこのハ短調の曲をやってくれたほうがよかったかなと思いました。それにしても、ロータス・カルテットの演奏は素晴らしい。次回は第2ヴァイオリンのマティアス・ノインドルフも来日し、4人揃っての演奏を期待します。
今日のプログラムは以下です。
弦楽三重奏:ロータス・カルテット
小林幸子vn 山碕智子va 斎藤千尋vc
ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第2番 ト長調 Op.9-1
《休憩》
モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調 K.563
《アンコール》
ベートーヴェン:弦楽三重奏曲 第4番 ハ短調 Op.9-3 より、第3楽章 スケルツォ
最後に予習について触れておきます。
1曲目のベートーヴェンの弦楽三重奏曲 第2番は以下のCDを聴きました。
トリオ・ツィンマーマン [フランク・ペーター・ツィンマーマン (Vn)、アントワーヌ・タムスティ (Va)、 クリスチャン・ポルテラ (Vc)]
2010年7、8月録音/旧ストックホルム音楽アカデミー、2011年8月録音/ポツダマー・マイスターザール (ベルリン)
演奏はよいのですが、曲が単調でやや退屈な感じです。聴いたのはOp.9-1のみです。Op.9-3ならば、感想が異なるかもしれません。
2曲目のモーツァルトのディヴェルティメント K.563は以下のCDを聴きました。
ギドン・クレーメル、キム・カシュカシアン、ヨーヨー・マ 1984年録音
このCDはアダージョとフーガ K.546(弦楽四重奏) とカップリングしたCDですが、両曲とも優れた演奏。とりわけ、ディヴェルティメント K.563の第1楽章 アレグロと第2楽章 アダージョが際立って素晴らしい。
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