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河村尚子、これぞラフマニノフ! with 読売日本交響楽団@東京芸術劇場コンサートホール 2020.10.25

河村尚子のラフマニノフが聴きたくて、急遽、チケットを購入して、コンサートに駆けつけました。期待以上の演奏に感動しました。まず、その硬質なタッチのピアノの響きに魅了されます。先日のリサイタルでのモーツァルト、シューベルト、ショパンもよかったけれど、今日のラフマニノフはまさに自由奔放な演奏で軛から解放されたみたいで、本領発揮です。切れのある演奏にしびれます。その素晴らしい河村尚子のピアノの響きを見事に支えるのは老境の小林研一郎。ピアノがメロディーを弾いても、分散和音を散りばめても、オーケストラはピアノの響きを際立たせます。素晴らしいサポートです。変奏がどんどん進み、第17変奏の素晴らしい分散和音のピアノが音楽を盛り上げていき、遂に有名な第18変奏の美しいメロディーに至ります。ロシアを去り、ルツェルンの湖畔に居を構えたラフマニノフの故国へのノスタルジックな思いが凝縮されたような哀愁を誘うメロディーが素晴らしく美しい音色で演奏され、saraiは感極まります。音楽は頂点を迎え、独奏ピアノにオーケストラの美しい弦が重なります。普通はオーケストラを思いっきりドライブするところですが、小林研一郎の指揮は微妙に音量を抑え、ピアノの響きを浮き立たせます。もう、うるうるしながら、この美しい音楽に耳を傾けるsaraiです。頂点を過ぎて、最後にまた回想するようにピアノのソロで抒情的なメロディーが歌われます。うーん、最高! そして、第19変奏に入り、ピアノは勢いよく突進していきます。その素晴らしいタッチに魅了されます。思わず、河村尚子の足がペダルを踏む様を観察します。左足でリズムをとりながら、右足で軽くペダルに触れています。実に歯切れのよいピアノはほぼノンペダルですね。《怒りの日》の旋律も交えながら、フィナーレに向かって疾走。最後は痛快にフィナーレ。素晴らしい演奏でした。こんなラフマニノフが弾けるのだから、もう、ショパンは弾かなくてもいいのにと内心思ってしまいます。そんなsaraiの思いを嘲笑うがごとく、小林研一郎にステージの袖でうながされて、弾き始めたアンコール曲は何とショパンの夜想曲(遺作)です。これがまた、飛びっきり美しいショパンです。内心苦笑しつつもそのショパンに魅了される、情けないsaraiです。
でも、今度はショパンじゃなくて、プロコフィエフの戦争ソナタが聴きたいよ ⇒ 河村尚子

今日のコンサートはグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲で始まりました。80歳の御年とは思えない小林研一郎の元気良い指揮で派手な演奏。さすがに読響のアンサンブルは最高です。それに今日は小森谷巧と長原幸太のダブルコンマスと気合がはいっています。後で知りましたが、小林研一郎は代役だったんですね。本来は何とロトだったんです。コロナがなければ、ウィーンで聴けた筈のロト・・・。うーん、でも我が国が誇る至宝、小林研一郎が代役ですから、何も問題ありません。

後半はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。小林研一郎はどんな「英雄」を聴かせてくれるんでしょう。まず、冒頭のジャン、ジャン。素晴らしい響きです。その後は何と美しいアンサンブルの響きが続きます。雄渾さとか勢いとかは完全封印。小林研一郎の手もほとんど動きません。テンポは中庸でほぼインテンポ。読響の美しいアンサンブルの響きが静かに流れていきます。この曲は作曲当時、革新的な作品として登場しましたが、今日は古典美に満ちた作品として演奏されます。小林研一郎は齢80にして、この境地に至ったのでしょうか。でも、枯れた演奏ではなく、この曲を静謐に室内オーケストラのようにあえて演奏しているようです。むしろ、80歳にして、思い切って、こういう演奏にチャレンジしたかのようです。そのまま、第2楽章に入ります。どうやら、彼はこの第2楽章を中心に据えた演奏を試みているようです。どっしりとした葬送行進曲ではなく、深い抒情味に満ちたベートーヴェンの精神世界を表現しています。うーん、こんな演奏もあるのね。読響の美しいアンサンブルなくしては成立しない音楽表現です。若い指揮者がこんな演奏をしたら、何を言われるか、分かりませんが、80歳の巨匠ゆえに許される音楽表現です。まあ、第2楽章までは納得できました。第3楽章、第4楽章も路線変更はなく、緩やかな音楽、室内オーケストラの箱庭的な表現が続きます。そういう響きできびきびとテンポアップすれば、最近はやりのオリジナル志向の音楽ですが、テンポはゆったりです。80歳の思い切った挑戦は面白かったのですが、音楽的にはあまり成功しなかったような気がします。やはり、この曲はフルトヴェングラー的なアプローチしかないでしょう。コバケン健在だけが印象付けられた演奏でした。

最後にマスクを着けたまま(今日の演奏者でマスクを着用していたのは指揮者の小林研一郎のみ!)、ご挨拶がありました。顔はマスクで隠されていますが、声を聴いて、小林研一郎だと確認できました。そして、アンコール曲が演奏されます。弦楽だけで飛びっきり美しいダニーボーイです。


今日のプログラムは以下です。

  指揮:小林研一郎
  ピアノ:河村尚子
  管弦楽:読売日本交響楽団  コンサートマスター:小森谷巧

  グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
  ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43
   《アンコール》ショパン:ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作

   《休憩》

  ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 Op.55「英雄」

   《アンコール》
    ダニーボーイ(アイルランド民謡)


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のグリンカの歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲は以下のCDを聴きました。

 エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団 1981年11月29日 レニングラード・フィルハーモニック大ホール ライヴ録音
 
ムラヴィンスキーの鋼鉄のような指揮で鉄壁の演奏です。


2曲目のラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》は以下のCDを聴きました。

 ヴァレンティナ・リシッツァ、マイケル・フランシス指揮 ロンドン交響楽団 2010年3月 ロンドン ライヴ録音
 
ヒラリー・ハーンの伴奏のような形で初めて聴いたときのリシッツァは正直、あまり感心しませんでしたが、今や、大きく成長しました。このラフマニノフの協奏曲全集も素晴らしい出来です。


3曲目のベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」は以下のLPを聴きました。

 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル 1950年6月20日 ベルリン ライヴ録音
 
先日購入したRIAS全集のLPレコードです。感想は不要でしょう。これ以上の演奏はフルトヴェングラーのほかの録音以外にはありません。



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金婚式、おめでとうございます!!!
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京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

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じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
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クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
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07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

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