ゲルギエフが全身全霊を傾けて指揮した「悲愴」は両端楽章の第1楽章と第4楽章の慟哭するような音楽がすべてでした。2004年に彼らが録音した演奏はゲルギエフの故郷、北オセチアの小学校における大惨事の直後だったので、まるで大地が慟哭するような演奏でしたが、今日はゲルギエフもウィーン・フィルも聴衆もコロナの影響下にあり、途轍もない共感が生まれ、人間の熱い感情、哀しみにあふれた慟哭がホール全体を包み込みました。これ以上、言葉で表す能力はsaraiにはありません。音楽のチカラにあらためて、驚かされるばかりです。終演後、saraiは隣席の見も知らぬ女性に素晴らしかったですねって、思わず声を掛けてしまいました。彼女もsaraiと同様に感動していたのが見てとれたからです。彼女はぽつりと、ウィーン・フィルが来てくれてよかった・・・と答えたきり、言葉を詰まらせます。深い思いがほとばしり、嗚咽しています。saraiも絶句します。同じ思いです。いえいえ、聴衆全員が同じ思いを共有していたと思います。コロナに感染しなかった人たちも心に深い傷を負ったと思います。その共通体験がこのウィーン・フィルの「悲愴」である意味、昇華したのかもしれません。この場に居合わせた誰もが忘れられないコンサートになったことでしょう。もちろん、saraiも隣席の女性も・・・。
前半の演奏も素晴らしかったんです。とりわけ、デニス・マツーエフのプロコフィエフの演奏には底知れぬ実力を思い知らされました。しかし、今日はそれを書く気力はありません。後半の「悲愴」で音楽の持つ途轍もないチカラを感じさせられましたからね。こういう音楽を聴くと、言葉はチカラを失います。ブログで音楽の感想を書けずに申し訳けありません。こういうコンサートに遭遇してしまったということです。一生に何回もあることではありません。ウィーン・フィルの面々にとってもそうだったのではと想像します。
こういう場を作ってくれたウィーン・フィル、ゲルギエフ、聴衆、関係者のみなさんに感謝の心を捧げ、コロナ禍で犠牲になった人々に哀悼の意を捧げるということでつたない記事を終えます。
今日のプログラムは以下のとおりです。
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
ピアノ:デニス・マツーエフ
管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 コンサートマスター:フォルクハルト・シュトイデ&アルベナ・ダナイローヴァ
プロコフィエフ:バレエ音楽『ロメオとジュリエット』Op.64 より
「モンタギュー家とキャピュレット家」
「少女ジュリエット」
「仮面」
「ジュリエットの墓の前のロメオ」
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番 ト短調 Op.16
《アンコール》グリーグ:組曲『ペール・ギュント』第1番 より 第4曲「山の魔王の宮殿にて」
《休憩》
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 Op.74「悲愴」
《アンコール》
チャイコフスキー:『眠りの森の美女』より「パノラマ」
最後に予習について、まとめておきます。
プロコフィエフのバレエ音楽『ロメオとジュリエット』を予習したCDは以下です。
リッカルド・ムーティ指揮シカゴ交響楽団 2013年10月 シカゴ、オーケストラ・ホール ライヴ録音
意外と言っては失礼ですが、シカゴ響の演奏能力を引き出して、ムーティは見事な演奏を聴かせてくれます。バレエのシーンを彷彿とさせてくれます。
プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番を予習したCDは以下です。
アンナ・ヴィニツカヤ、ギルバート・ヴァルガ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団 2010年4月 セッション録音
これはもう10年前の録音ですが、アンナ・ヴィニツカヤのピアノは実演で聴いた通りの凄い演奏です。テクニックも切れ味もそして、豪快さも兼ね備えていますが、一番素晴らしいのは濃厚なロマン、もっと言えば、色気があることに驚愕します。彼女がこの曲でベルリン・フィルにデビューしたのは昨年、2019年のことです。恐るべきピアニストです。
チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」を予習したCDは以下です。
ワレリー・ゲルギエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2004年9月、ウィーン、ムジークフェラインザール ライヴ録音
当時話題になった、この録音ももう15年以上も前のことです。第1楽章、そして、第4楽章は大地が慟哭するような凄まじい演奏です。現在はあまり評価されていないのが不思議です。ゲルギエフの故郷、北オセチアの小学校において大惨事が起きた時期と重なり、何よりもロシア、なによりも故郷を愛するゲルギエフは最悪の状態だったと言うことで、コンサート中も涙を流しながらの指揮だったようです。なお、同年11月にウィーン・フィルを率いて来日した際には、サントリーホールにて「北オセチアに捧げる心の支援」と題して、この「悲愴」1曲だけのチャリティー・コンサートを行なったそうです。それを聴いた友人の話では終演後の拍手はなく、聴衆は無言で立ち去った感動のコンサートだったそうです。公演直前に新潟県中越地震が発生したため、収益の半分はこの地震の被災地に寄付されたそうです。
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