まあ、それでも今日は後期の3つのソナタの素晴らしい演奏を聴いて、まるで全曲のソナタを締めくくったような錯覚に陥りました。メジューエワの第27番から第32番までの後期ソナタは素晴らしい演奏でした。
まず、マチネの第7回の公演では、前半の第13番と第14番はエンジンがかかりきれていませんでしたが、後半のプログラム、第18番で持ち直し、最後の第27番は最高の演奏でした。前回も書いた通り、メジューエワは日本を拠点に活躍しているとは言え、ロシア人ピアニストの強靭なピアニズムを聴かせてくれます。その男性的とも言えるピアノはベートーヴェンのピアノソナタで本領を発揮してくれます。ベートーヴェンの音楽を小細工なしに直線的な演奏で堪能させてくれます。そういうストレートな表現はベートーヴェンの後期の精神の高みに上り詰めた作品をまざまざと感じさせてくれます。第27番は中期に分類されますが、その本質は後期のソナタと同様に高い精神性を持つ作品であることを実感させてくれました。
やはり、メジューエワの演奏は後期のソナタにこそ、その特性が活かされると思っていたら、アンコールで第1番のソナタを弾いてくれて、その演奏がまた、素晴らしいものです。うーん、単に今日の前半はエンジンがかかっていなかっただけなのかしらね・・・。
夜の第8回公演まで、間があるので、早めの夕食をいただきましょう。前回は老舗の伊豆栄で鰻をいただきましたが、今日は老舗の井泉でとんかつをいただきます。上野界隈は老舗の料理店が多いので、舌も楽しめます。上野動物園前にあるスターバックスでコーヒーをいただいていると、夜の公演の時間が迫ってきます。
第8回公演はベートーヴェンの最後の3つのソナタ。後期の弦楽四重奏曲と並んで、ベートーヴェンの音楽の集大成と言えるものです。本当は今日はサントリーホールで東響の定期演奏会がありますが、そのチケットを他の方に譲って、この公演を選びました。メジューエワの後期のソナタを聴き逃がしたくないですからね。
その期待は報われました。まず、第30番のソナタの美しく、高邁な精神性の感じられる演奏に魅了されます。これ以上の音楽はあり得ないと思っていると、次の第31番のソナタは第1楽章の美しく澄み切った精神が感じられる素晴らしい音楽でうるうるの心情になります。さらにたたみかけるように第3楽章。《嘆きの歌》の最高の抒情と激しいフーガ。ベートーヴェンの音楽の最高峰とも思えます。メジューエワはこの傑作を見事に演奏。最高です。これ以上の音楽はないでしょう。
しかし、休憩後、最後の第32番のソナタ。第1楽章の冒頭から、激しい音楽が燃え上がります。魂の燃焼です。その燃え尽きた先に第2楽章の美しい変奏曲が続きます。魂を慰撫するような最高のベートーヴェンです。そして、フィナーレでカタルシスが持たされます。これこそが真にベートーヴェンの音楽の最高峰ですね。メジューエワは本当に素晴らしい演奏をしてくれました。満足です。
今日のプログラムは以下です。
ピアノ:イリーナ・メジューエワ
<ベートーヴェン 生誕250周年記念 イリーナ・メジューエワ ピアノソナタ全曲演奏会 第7回>
ピアノソナタ第13番 変ホ長調 Op.27-1 『幻想曲風ソナタ』
ピアノソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2 『幻想曲風ソナタ』(『月光ソナタ』)
《休憩》
ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
ピアノソナタ第27番 ホ短調 Op.90
《アンコール》
ピアノソナタ第1番 ヘ短調 Op.2-1 から 第2楽章 ヘ長調 アダージョ
<ベートーヴェン 生誕250周年記念 イリーナ・メジューエワ ピアノソナタ全曲演奏会 第8回>
ピアノソナタ第30番 ホ長調 Op.109
ピアノソナタ第31番 変イ長調 Op.110
《休憩》
ピアノソナタ第32番 ハ短調 Op.111
《アンコール》
6つのバガテル Op.126 から 第3番 変ホ長調 アンダンテ
6つのバガテル Op.126 から 第5番 ト長調 クアジ・アレグレット
最後に予習について、まとめておきます。
ピアノソナタ第13番、第14番、第18番、第27番は以下のCDを聴きました。
エミール・ギレリス ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ集 1972-1985年 セッション録音
ギレリスの男性的でありながら、磨き抜かれた響きの演奏は完璧です。
ピアノソナタ第30番、第31番、第32番は以下のCDを聴きました。
アンドラーシュ・シフ ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 2004~2006年 チューリッヒ、トーンハレ ライヴ録音
シフのベーゼンドルファーの美しい響きによる、とても深くて音楽的な演奏に聴き惚れるだけです。
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