第1楽章、美しいオーケストラの音楽が雰囲気を高めていきます。力の抜けたバランスのよい演奏です。初聴きかもしれない佐渡裕の指揮も好感を持てます。いわゆるデモーニッシュな表現とは対極をいくような繊細な音楽が奏でられます。そのオーケストラの好演をエネルギーに変えて、田部京子の切れの良いタッチのピアノが純粋無垢な響きを奏でていきます。特に右手で奏でる高域の響きが心地よい旋律を浮き立たせます。聴いているsaraiの魂が揺さぶられます。その桃源郷のような世界に浸っているうちにカデンツァが始まります。ベートーヴェンの作ったカデンツァですね。カデンツァ終盤の見事なトリルはまるでベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番の第2楽章を想起させるような素晴らしい演奏です。
第2楽章はピアノのソロで始まります。冒頭はもうひとつの響きですが、オーケストラ、とりわけ、弦の美しい響きに触発されるかのようにピアノの響きも純化していきます。この楽章のトリオが終わった後、また、冒頭のメロディーが戻ってきたときは見違えるような美しい響きで細部の表現も磨き上げられたようなタッチで描き出されます。うっとりしながら、この楽章を終えます。
第3楽章は一転して、切れのよいピアニズムで進行します。それも音楽が進行するにつれて、実に流麗な音楽が流れ、saraiの心も浮き立ちます。いつしか、最後のカデンツァに突入し、田部京子の音楽表現の見事さに感動するのみです。最後は鍵盤上をダイナミックに指が左右に音階を奏でて、カデンツァが終わります。まるで独奏曲のフィナーレのようです。一瞬の間を置き、オーケストラが一気にテンポを上げて、コーダに向かっていきます。田部京子のピアノもそれに同期して、実に切れのよい響きを奏でていきます。そして、圧巻のフィナーレ。心の中でブラボーをコールします。最高のピアノ協奏曲第20番でした。
最愛のクララ・ハスキルとは違った音楽表現でしたが、丁寧で美しいタッチ、繊細さでは上回ったかもしれません。恐ろしいほど、緊張感に満ちた究極の演奏に呆然とするだけでした。佐渡裕指揮の新日フィルも素晴らしいサポートでした。特に高弦の美しいこと、この上ありません。
ベートーヴェンの交響曲2曲について、もはや、書くべき気力がありません。佐渡裕の思ったほど力みのない美しい表現でベートーヴェンを満喫しました。新日フィルのアンサンブルも特に最後に演奏した交響曲第6番「田園」で美しさの極みを発揮していました。終楽章の心の安寧を思わせる極上の世界に心を洗われました。
今日のプログラムは以下です。
指揮:佐渡裕
ピアノ:田部京子
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団 コンサートマスター:崔文洙
ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 Op. 93
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
《休憩》
ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 Op.68「田園」
最後に予習について、まとめておきます。
1曲目、3曲目のベートーヴェンの交響曲第8番、交響曲第6番「田園」は以下のCDを聴きました。
ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィル 1971~73年、ミュンヘン、ビュルガーブロイケラー セッション録音
ケンペが首席指揮者を務めていたミュンヘン・フィルを使って録音したベートーヴェンの交響曲全集です。ケンペはこの全集を完成した3年後、65歳の若さで急逝しました。ケンペの残した遺産のひとつです。
2曲目のモーツァルトのピアノ協奏曲第20番は以下のCDを聴きました。
田部京子、下野竜也指揮紀尾井シンフォニエッタ東京 2012年3月14-15日 上野学園 石橋メモリアルホール セッション録音
田部京子の美しい演奏がすべてです。しかし、今日の最高の演奏には及びません。今日のライヴ録音がCD化されないかな・・・。
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