fc2ブログ
 
  

南紫音のベルクは表現主義的エネルギーが炸裂した後、魂が救済される感動のフィナーレ 下野竜也&東響@ミューザ川崎シンフォニーホール 2021.1.24

今日のコンサートはベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》の序曲集4曲をまとめて聴けることが楽しみでしたが、全体にそう大きな期待を持って臨んだコンサートではありませんでした。
ところが、何とも素晴らしいベルクのヴァイオリン協奏曲を聴くことができました。ヴァイオリンの南紫音を聴くのは初めてでしたが、よく考え抜かれて、表現力豊かな演奏と素晴らしいテクニックで20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲の真価を示してくれました。こんなに集中して、この作品に聴き入ったのは初めての体験です。
第1楽章は冒頭の印象的な12音のセリーが繊細に奏でられます。その後、オペラ《ルル》を彷彿とさせるような孤独な魂の彷徨が綿々と綴られていきます。実に充実した演奏に魅了されます。
しかし、本当に素晴らしかったのは第2楽章です。暴力的とも言える表現主義的な音列が炸裂して、聴くものの魂を揺さぶり、震撼とさせられます。感動ではありませんが、一種の高揚感はあります。終盤になり、バッハのコラール(カンタータ第60番の第5曲)が静謐な調べを奏でます。それまで凶暴な響きを立てていた独奏ヴァイオリンがそれに癒されたように和します。そして、魂の安寧を得たように独奏ヴァイオリンが優しい響きでそっと優しく調べを奏で、第1ヴァイオリンのトップ二人に寄り添い、ドッペルゲンガーの如く、一緒に同じ旋律を奏で始めます。魂の融合です。その魂の融合はさざ波のように第1ヴァイオリン全体に広がり、さらに、弦楽セクション全体がそれに和していきます。孤独な魂(独奏ヴァイオリン)は周りの人間たち(弦楽セクション全体)に支えられて、癒しの時を迎えます。saraiはたまらず、強い感動に襲われます。何と優しい音楽に包まれているんでしょう。やがて、そのカタルシスは終焉の時を迎えます。天使のように付き添うヴィオラの首席奏者、コンサートマスターの独奏の輪に独奏ヴァイオリンも加わり、天上に昇天していきます。独奏ヴァイオリンが高いキーの持続音を静かに奏でる中、第1楽章冒頭の12音のセリーがかすかに聴こえてきます。孤独な魂が救済されながら、ベルクの遺作協奏曲は静かに終わります。圧巻の演奏でした。若くして世を去ったマノン(アルマ・マーラーの娘)の魂もベルクの魂も、そして、非業の死を遂げたルル、さらにはすべからく、すべての人々の魂が救われた思いでいっぱいになりました。この曲は魂の救済のレクイエムであることを教えてくれるような南紫音、渾身の演奏でした。下野竜也指揮の東響もその南紫音の素晴らしい音楽を支える高精度の演奏を聴かせてくれました。真の意味でこれこそ協奏曲と言えるでしょう。

プログラム冒頭のボッケリーニ(ベリオ編曲)の《マドリードの夜の帰営ラッパ》は古い調べをベリオが再生した音楽を東響のアンサンブルが見事に演奏してくれました。プログラム後半のベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》の序曲集4曲は東響の弦楽アンサンブルの美しい調べに魅了されました。ベルクのヴァイオリン協奏曲を中心に実に充実した音楽が聴けて、素晴らしいコンサートでした。


今日のプログラムは以下のとおりでした。

  指揮:下野竜也
  ヴァイオリン:南紫音
  管弦楽:東京交響楽団 コンサートマスター:グレブ・ニキティン

  ボッケリーニ(ベリオ編曲):マドリードの夜の帰営ラッパ
  ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」

  《休憩》

  ベートーヴェン:「フィデリオ」序曲 op.72
         :「レオノーレ」序曲 第1番 op.138
         :「レオノーレ」序曲 第2番 op.72a
         :「レオノーレ」序曲 第3番 op.72b


最後に予習について、まとめておきます。

1曲目のボッケリーニ(ベリオ編曲)の《マドリードの夜の帰営ラッパ》を予習したCDは以下です。

  リッカルド・シャイー指揮ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団 2004年8月25‐28日 ミラノ セッション録音

ベリオ作曲の編曲した作品を集めたトランスクリプションズと題されたアルバムの中の1曲です。ベリオはずい分、過去の作曲家の作品を編曲しているんですね。


2曲目のベルクのヴァイオリン協奏曲を予習したCDは以下です。

  アンネ=ゾフィー・ムター、ジェイムズ・レヴァイン指揮シカゴ交響楽団 1992年6月 シカゴ セッション録音

意外にムターの演奏は繊細なものでした。


3曲目以降のベートーヴェンのオペラ《フィデリオ》序曲集を予習したCDは以下です。

  クラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1986年9月(「レオノーレ」序曲 第2番)、1989年10月 ウィーン、ムジークフェライン、大ホール セッション録音

アバドはウィーンでよい仕事をしていましたね。非の打ちどころのない演奏です。ウィーン・フィルもさすがですね。この頃のコンマスはヘッツェルです。




↓ saraiのブログを応援してくれるかたはポチっとクリックしてsaraiを元気づけてね

 いいね!










テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

人気ランキング投票、よろしくね
ページ移動
プロフィール

sarai

Author:sarai
首都圏の様々なジャンルのクラシックコンサート、オペラの感動をレポートします。在京オケ・海外オケ、室内楽、ピアノ、古楽、声楽、オペラ。バロックから現代まで、幅広く、深く、クラシック音楽の真髄を堪能します。
たまには、旅ブログも書きます。

来訪者カウンター
CalendArchive
最新記事
カテゴリ
指揮者

ソプラノ

ピアニスト

ヴァイオリン

室内楽

演奏団体

リンク
Comment Balloon

金婚式、おめでとうございます!!!
大学入学直後からの長いお付き合い、素晴らしい伴侶に巡り逢われて、幸せな人生ですね!
京都には年に2回もお越しでも、青春を過ごし

10/07 08:57 堀内えり

 ≪…長調のいきいきとした溌剌さ、短調の抒情性、バッハの音楽の奥深さ…≫を、長調と短調の振り子時計の割り振り」による十進法と音楽の1オクターブの12等分の割り付けに

08/04 21:31 G線上のアリア

じじいさん、コメントありがとうございます。saraiです。
思えば、もう10年前のコンサートです。
これがsaraiの聴いたハイティンク最高のコンサートでした。
その後、ザル

07/08 18:59 sarai

CDでしか聴いてはいません。
公演では小沢、ショルティだけ

ベーム、ケルテス、ショルティ、クーベリック、
クルト。ザンデルリング、ヴァント、ハイティンク
、チェリブ

07/08 15:53 じじい@

saraiです。
久々のコメント、ありがとうございます。
哀愁のヨーロッパ、懐かしく思い出してもらえたようで、記事の書き甲斐がありました。マイセンはやはりカップは高く

06/18 12:46 sarai

私も18年前にドレスデンでバームクーヘン食べました。マイセンではB級品でもコーヒー茶碗1客日本円で5万円程して庶民には高くて買えなかったですよ。奥様はもしかして◯良女

06/18 08:33 五十棲郁子

 ≪…明恵上人…≫の、仏眼仏母(ぶつげんぶつも)から、百人一首の本歌取りで数の言葉ヒフミヨ(1234)に、華厳の精神を・・・

もろともにあはれとおもへ山ざくら 花よりほか

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR